杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと雪山の守護犬

岩内自衛隊基地の広場は、雪の舞う朝に再び異様な光景に包まれていた。

トオルは杖くんを握り、創造魔法の陣を何度も地面に描いた。八歳の少年の瞳は、優しさと少しの決意で輝いていた。

「みんなの命を助けてね……でも、無理はしないでね」

光が凝縮し、空間が歪むたび、五メートルの白銀色の犬型ゴーレムが次々と立ち上がった。毛並みは雪のように柔らかく、目は黄金に輝き、鼻先は鋭く、尻尾はふさふさ。どれだけの高所や猛吹雪でも行動可能。雪崩が起これば自動的に防御フィールドを発動し、遭難者を包み込む。体内は簡易的な避難所となっており、暖房、酸素、非常食料が備え付けられている。

トオルは数百体を創造した。

一匹、また一匹。広場は銀色の犬たちで埋め尽くされ、静かに並んだ。ガンダムとザクがその後ろで静かに見守り、エルフの子供たちが目を丸くして駆け寄る。

「わあ……おっきい犬さん!」

「みんな、優しい目してる……」

トオルは最後の犬型の頭を優しく撫で、静かに言った。

「みんなの為に……ありがとう。吹雪の中でも、雪崩の中でも、困ってる人を助けてね。でも、無理はしないで。怪我したり、壊れたりしたら……僕、悲しいから」

犬型ゴーレムたちは、無言で頭を下げた。黄金の目が、優しく光る。トオルの言葉を、忠実に受け止めたように。

日本政府は、この光景に再び混乱した。

海上自衛隊に配備されたイルカ型ゴーレムが、すでに北海道周辺の海難事故を劇的に減らした矢先、今度は山岳事故用の犬型が数百体。しかも、トオルが「みんなの為に」と、ただ優しさだけで創造したのだ。

すぐに、各国から要請が殺到した。

アメリカ、カナダ、スイス、オーストリア、ニュージーランド、ロシア――山岳事故の多い国々から、日本政府に直々に連絡が入った。

「うちの山岳地帯にも配備してほしい」

「吹雪や雪崩、高所さえも自由に行動できる……ヘリコプターが行けない場所にまで到達できるなんて、夢のようだ」

「遭難者の生存率が跳ね上がる。どうか、譲ってくれ」

外務省は頭を抱えた。総理官邸では、中曽根康弘総理がため息をつきながら、官房長官に言った。

「トオルくんは『みんなの為に』と言ってるだけだ。売る気も、独占する気もない。だが……数百体を各国に配れば、世界の山岳救助が変わる」

与党も野党も、異例の速さで「異種族・魔法産物国際協力法」の素案をまとめ始めた。犬型ゴーレムは「人道的救助用魔法産物」として、国際的に無償供与可能な枠組みが検討された。

岩内では、犬型ゴーレムたちが早速配備された。

北海道の山岳警備隊は十体を受け取り、大雪山系や知床連山に配置。吹雪の中を疾走し、遭難者を体内に収容して救助隊を待つ。隊員たちは最初は「犬?」と首を傾げたが、実際に雪崩現場でフィールドを展開し、負傷者を守る姿を見ると、涙を浮かべた。

「これで……毎年、何人も助けられる」

各国からも、テスト配備の要請が続いた。スイスはアルプスに、カナダはロッキー山脈に、ロシアはシベリアの山々に……トオルはただ、優しく頷いた。

「みんなが、幸せになってほしいから……いいよ」

杖くんが耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……あなたは、もう世界の命を救ってるわ。海も、山も、みんなあなたに感謝してる』

基地の広場では、数百体の犬型ゴーレムが静かに並び、黄金の目を輝かせた。ガンダムとザクが後ろで守り、イルカ型は海へ向かい、エルフの子供たちが犬型の背中に乗って遊ぶ。

トオルはみんなを見て、胸が温かくなった。

「みんな、無事に帰ってきてね……」

人類史上最大の魔法使いは、八歳の心で、命を救う夢を、現実の奇跡に変え続けていた。

霧の港町は、鋼の守護者たちに囲まれ、静かに、しかし確実に、希望の街へと変わり続けていた。

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