杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内の小さな一軒家、佐藤家の居間は、囲炉裏の火がぱちぱちと音を立てる中、いつもより明るく温かかった。
母の美恵子が、郵便局の封筒をそっと開けた。中から出てきたのは、何枚もの写真と、サインの入った色紙。どれもが、プロレスラーと大相撲力士たちのものだった。
アントニオ猪木の力強いサイン。「坊主、強くなれよ」。ジャイアント馬場の大きな字。「トオルくん、ありがとう」。北の湖敏満の丁寧な筆跡。「体が軽くなったよ、坊主」。千代の富士貢の力強い文字。「これからも頑張れ」。輪島大士、若乃花幹士、琴櫻傑将……そして、横綱たちとトオルが一緒に写った集合写真。胡蝶姉妹や煉獄さんも笑顔で並んでいる。
美恵子は封筒に同封されていたトオルの手紙を読み上げた。七歳らしい丸い字で、丁寧に書かれている。
お父さん、お母さん、お姉ちゃんへ
元気にしてる? 僕も元気だよ。
この前、プロレスと相撲の試合が基地であったんだ。みんなすごく強くて、かっこよかったよ。お父さんが大好きだから、写真とサインをお願いしたの。みんな、優しくしてくれたよ。怪我しないようにって魔法かけたら、古傷が治っちゃって、びっくりしてた。
みんなでダンジョンのご飯を食べたよ。おいしかった。写真見て、喜んでくれると嬉しいな。
早く会いたいよ。
トオル
健一は色紙を一枚一枚手に取り、目を細めて見つめた。猪木のサインを指でなぞり、馬場の大きな字を撫でる。北の湖の丁寧な筆跡に、思わず息を飲んだ。
「……トオル……よくやってくれたな」
美恵子は写真をテーブルに広げ、集合写真を指でなぞった。トオルの笑顔が、横綱たちの間に小さく映っている。
「ほら見て、この笑顔……トオル、こんなに嬉しそう。みんなに囲まれて、幸せそう」
あかりは色紙を手に取り、猪木のサインをじっと見つめた。
「トオル……お父さんのこと、ちゃんと覚えてたんだね。相撲もプロレスも、大好きだって、いつも話してたもん」
健一は深く息を吐き、囲炉裏の火を見つめた。
「俺が昔、テレビにかじりついて見てた猪木さんや馬場さん、北の湖さん……それが、今、うちの息子と一緒に写真撮ってる。信じられないよ」
美恵子は涙を拭いながら、笑った。
「トオルったら……『お父さんがファンだから』って。七歳なのに、そんなこと考えて……」
あかりは集合写真を手に取り、トオルの小さな笑顔を指で撫でた。
「トオル、基地でこんなすごい人たちと一緒にいるんだね。胡蝶さんたちも、煉獄さんも……みんな、トオルを守ってくれてるんだ」
健一は立ち上がり、色紙を大事そうに棚に並べ始めた。一枚一枚、丁寧に。
「これ、俺の宝物だ。トオルが、俺のために集めてくれたんだから」
美恵子はちゃぶ台に写真を並べ、みんなで囲んだ。
「トオル……元気でいてね。ご飯はちゃんと食べて、夜は怖くないように……。お父さんもお母さんも、お姉ちゃんも、ずっと待ってるから」
家族は写真とサインを前に、静かに、しかし嬉しそうに話し合った。囲炉裏の火が優しく揺れ、ダンジョンサーモンの残りの煮付けが、テーブルの上で温かく湯気を立てていた。
遠く岩内の基地では、トオルがガンダムとザクの足元で、エルフの子供たちと遊んでいる。杖くんを抱きしめ、優しく笑う。
「みんな、喜んでくれるかな……」
杖くんが耳元で囁いた。
『トオルちゃん……お父さん、きっと大喜びよ。あなたの優しさが、ちゃんと届いてるわ』
雪の降る岩内と、遠い家族の家。トオルの小さな贈り物は、両方の心を、温かく繋いでいた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、家族の笑顔を、静かに守り続けていた。