杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内町の外れに建つ「メフィスト北海道病院」は、雪の残る丘の上に白く静かに佇んでいた。赤い十字の看板の下、入口には世界中から届いた花束と感謝の手紙が積み上がり、待合室はいつも満員だった。
ここは、スポーツ界で「最後の聖地」と呼ばれ始めた。
「再起不能」と言われた選手たちが、藁にもすがる思いでやってくる場所。トオルがダンジョンから持ち帰った血虫、ドクターアロエ、クスリバチ。そして少年自身が錬金術で精製したポーション。メフィストの魔界医術が加われば、奇跡が起きる。
格闘技界では、膝の靭帯断裂と半月板損傷で引退宣告を受けた柔道の元オリンピック代表が、血虫による血液浄化とドクターアロエの包帯治療で、わずか三ヶ月で道場に戻った。完全復活とはいかないまでも、一般生活どころか稽古ができるまでに回復した。
相撲界では、古傷と腰椎ヘルニアで土俵を去った元大関が、メフィストの直接治療とクスリバチの天然抗炎症剤で、驚異のスピードで体を立て直した。横綱経験者ですら「もう無理だ」と言われた体が、再び四股を踏めるようになった。
野球界では、肩の腱板断裂でプロを諦めた投手が、トオル謹製の再生促進ポーションとメフィストの外科手術で、キャッチボールができるまでに回復。サッカー界では、膝の前十字靭帯断裂で代表引退を余儀なくされた選手が、血虫による血液循環改善とドクターアロエの外用で、ピッチに戻る夢を繋いだ。
道場、土俵、グラウンド、ピッチ……どの界隈でも、同じ言葉が囁かれていた。
「治療を受けるなら、あそこだな」
「メフィスト北海道病院に行け。奇跡が起きる」
海外からも、高名なスポーツ選手が次々と来日した。アメリカのNFLスター、ヨーロッパのサッカー代表選手、ソ連の重量挙げチャンピオン……。プライベートジェットで岩内に降り立ち、言葉の通じないままに「ここで治る」と信じて扉を叩く。
メフィストは黒いコートを翻し、赤い瞳で患者を迎え入れる。くすくすと笑いながら、
「ふふ、面白い。君の体、徹底的に診てあげよう」
トオルは病院の待合室で、杖くんを抱いて座っていた。七歳の少年は、車椅子でやってきた選手たちを見て、優しく杖を掲げる。
「僕、みんながまた走れたり、投げたり、戦えたりするように……がんばるね」
選手たちは、少年の小さな手に触れ、涙を浮かべた。
「ありがとう……坊や」
「君のおかげで、夢を諦めずに済む」
基地の食堂では、今日もダンジョン産の食材が並ぶ。あばれうしどりのステーキ、軍隊ガニの甲羅割り、黄金イクラのちらし……。治療を終えた選手たちが、トオルと一緒にテーブルを囲む。
トオルはみんなの笑顔を見て、ぽつりと呟いた。
「みんな、元気になってよかった……」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたは、もう命を繋ぐ存在よ。スポーツ界の奇跡の少年だって、みんな言ってるわ』
病院の窓から見える雪の丘では、犬型ゴーレムが山岳救助に向かい、イルカ型が海を泳ぐ。ガンダムとザクが静かに見守り、エルフの戦士たちがミスリルの刀を手に訓練を続ける。
メフィスト北海道病院は、再起不能と言われた者たちの最後の希望となり、世界中から「奇跡の聖地」と呼ばれ始めた。
トオルはただ、優しく微笑む。
「僕、もっとポーション作るよ。みんなが、笑顔でいられるように」
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界中の体を、静かに癒し続けていた。
霧の港町は、命の奇跡に包まれながら、静かに輝き続けていた。