杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内町は雪解けの季節を迎え、港には大型の冷凍コンテナ船が連日停泊し、基地の周囲には新たな支社ビルが次々と建ち始めていた。世界中の投資家たちの視線は、もはや株式や債券ではなく、ただ一つの場所に集中していた。
ダンジョン産の素材、鉱石、食材。
特に、ミスリル、あばれうしどり、軍隊ガニ、ダイミョウザザミ――この四つは、もはや「伝説の資産」と呼ばれていた。
ミスリルは、自動車や航空機、兵器の素材として革命を起こした。重量は従来鋼材の十分の一、強度は五十倍以上。人類の科学では再現不可能なこの金属を、わずかでも保有する企業は株価が急騰し、投資家たちは「次の一枚」を求めて血眼になっていた。
あばれうしどりは、高級食材の頂点。霜降りの甘みと柔らかさは、一度味わえば他の牛肉や鳥肉では満足できなくなる。市場に出る量は極めて少なく、一皿数万円のコースが即完売。投資家たちは「次に大量出荷されたら、関連企業の株を買え」と囁き合っていた。
軍隊ガニは、蟹の常識を覆した。三メートルを超える巨体から取れる身は、普通の蟹の何十倍。味は濃厚で甘く、甲羅の強度は戦車の装甲を超える。加工が難しいため市場は極少量だが、それでも一匹数百万の値がつく。投資ファンドは「蟹関連企業を買収せよ」と動き始めていた。
ダイミョウザザミの甲殻は、軽量で耐衝撃性が高く、防具や車両部品の素材として注目された。ダイミョウザザミの爪は、切れ味が異常で、工業用刃物に転用可能。投資家たちは「次に大量入荷したら、素材加工企業の株を総取りしろ」と合言葉のように言い合っていた。
世界の投資家たちの間で、新たなトレンドが生まれていた。
「次はどんな物が出るのか、いち早く入手する」
ウォール街のヘッジファンドは、岩内支店の銀行口座を監視し、東京の証券会社はダンジョン産関連企業の株価を秒単位で追跡。スイスのプライベートバンクは、顧客に「トオルくんが次に持ち帰る素材の予測レポート」を有料で販売し始めた。
ニューヨークの投資家は、プライベートジェットを飛ばして岩内に滞在。パリの資産家は、現地のシェフに「次にトオルくんが採ってくる食材を教えてくれ」と裏金を渡す。香港の財閥は、岩内に支社を建て、情報網を張り巡らせた。
「ミスリルに次ぐ新素材は何か」
「あばれうしどりの次は、どんな肉か」
「血虫やクスリバチ以上の医療素材は、まだあるのか」
投資家たちの会話は、常に同じテーマで回っていた。
岩内基地の司令室では、煉獄杏寿郎三佐が書類の山を睨みながら、ため息をついた。
「うむ……また投資ファンドから問い合わせだ。『次にトオルくんが持ち帰る素材の予測を教えてくれ』だと」
胡蝶しのぶが優雅に微笑みながら、
「ふふ……世界中が、トオルくんの次の収穫を待ってるんですのね」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、みんなそんなに欲しがってるなんて……トオルくん、すごいわね」
炭治郎が静かに言った。
「でも、トオルくんはただ『みんなが喜ぶように』って思ってるだけなのに……」
トオルは基地の広場で、ガンダムとザクの足元に座り、杖くんを抱いていた。エルフの子供たちが犬型ゴーレムの背中に乗り、笑い声を上げている。
トオルは空を見上げ、ぽつりと呟いた。
「次、何が採れるかな……みんなが、もっと幸せになるように」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたの優しさが、世界を動かしてる。でも、あなたは変わらない。それが、一番すごいことよ』
投資家たちは、岩内の空を眺めながら、次なる「収穫」を待っていた。
ミスリル、あばれうしどり、軍隊ガニ、ダイミョウザザミ……そして、次は何か。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の渇望を、静かに受け止め続けていた。
霧の港町は、投資の熱と、少年の優しさに包まれながら、輝き続けていた。