杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
。岩内自衛隊基地から送られた映像は、即座に日本政府を通じて各国首脳と軍事機関に届けられた。フィルムとVHSテープの形で、厳重に封印された箱が、ワシントン、モスクワ、パリ、北京、ロンドン……世界の権力中枢に次々と運ばれた。
映像は、三十階の暗い森林階層で撮影されたものだった。
霧の中から、ゆっくりと歩み出る巨漢。ジェイソン・ボーヒーズ。ホッケーマスクの下で、赤い目が光り、鉈を振り回す。銃弾を浴びても即座に再生し、隊員を次々と薙ぎ倒す姿。
続いて、チェーンソーを咆哮させながらレザーフェイスが現れる。人間の皮を被った狂った殺人鬼。隊員の悲鳴が響き、血が雪に染まる。
そして、最も恐ろしい映像――ゼノモーフの群れ。黒い外殻に長い尾、酸の血を滴らせながら壁を這い、隊員のヘルメットを突き破り、寄生を試みる。数十体が一斉に襲いかかり、隊員たちが絶叫しながら後退する。
映像の最後は、トオルが現れ、杖を掲げる瞬間で終わっていた。即死の魔法が奔流となって放たれ、怪物たちが一瞬で静かに崩れ落ちる。トオルは両手を合わせ、短く祈りを捧げる。
「ありがとう……無駄にしないよ」
各国首脳の執務室で、その映像が映し出された。
アメリカ大統領は、葉巻をくわえたまま固まった。ホワイトハウス地下の状況室で、CIA長官が震える声で言った。
「……これは……映画の怪物が、現実に出現している。しかも、不死身ではない。撃退は可能だ」
ソ連の書記長は、クレムリンの会議室で目を細めた。
「ジェイソン、レザーフェイス、ゼノモーフ……地上の恐怖が、ダンジョンに具現化したか。だが、トオルという少年が、何度も滅ぼしている」
イギリスの首相は、ダウニング街10番地の執務室で、ため息をついた。
「唯一の安心点は、不死身ではないことだ。今の自衛隊の装備なら、倒せなくても撃退はできる。以前の装備なら……全滅だったというデータもある」
フランスの大統領は、エリゼ宮で報告書を叩いた。
「これが地上に溢れたら……パニックだ。核を使う選択肢も、ダンジョンが無事なら意味がない。人類に打つ手がなくなる」
中国の指導者は、中南海で静かに頷いた。
「トオルという少年が、すべてを食い止めている。だが……いつまで持つ?」
日本政府は、各国に映像を提供した際、こう付け加えた。
「佐藤トオルくんが、何度もこれらの脅威を排除しています。現代兵器ではダンジョン攻略は不可能に近いが、彼の力で地上は守られています」
新聞は一斉に報じた。
「ダンジョンにホラー映画の怪物出現! ジェイソン、レザーフェイス、ゼノモーフが大量発生」
「自衛隊、激戦の末撃退。だが、以前の装備なら全滅だった」
「八歳の少年が、再び人類を救う」
テレビのニュースでは、映像の一部がぼかしを入れながら流された。アナウンサーの声が震える。
「これらの怪物は、映画のように不死身ではありません。自衛隊の最新装備で撃退が可能ですが……以前の装備では、全滅の危機だったと言われています」
国民は息を飲んだ。街角のテレビで、家族が固唾を飲んで見つめる。子供たちは「トオルくん、すごい!」と目を輝かせ、大人たちは背筋に冷たい汗を流した。
「映画の怪物が、現実に……」
「トオルくんがいなかったら……」
岩内では、トオルが基地の食堂で、みんなと一緒にダンジョンサーモンを食べていた。七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、怖がってるかな……でも、僕がいるから、大丈夫だよ」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……地上の悪夢を、あなたが何度も消してるわ。みんな、あなたに感謝してる』
煉獄が大声で笑い、
「うむ! トオル、お前がいれば、どんな怪物も怖くないぞ!」
しのぶが微笑み、
「ふふ……映画の怪物ですって。トオルくんがいる限り、地上は安全ですわ」
カナエが穏やかに、
「あらあら、みんな安心してね。トオルくんが守ってくれるから」
炭治郎が静かに、
「トオルくん……ありがとう」
基地の外では、雪が静かに降り続いていた。ガンダムとザクが広場に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちがミスリルの刀を手に訓練を続ける。
ダンジョンは、時折地上の恐怖を具現化する。
だが、トオルと杖くん、そして仲間たちは、何度もそれを滅ぼし続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の悪夢を、静かに払い続けていた。
霧の港町は、少年の光に守られ、静かに息づいていた。