杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の地下研究棟は、連日のように重苦しい空気に包まれていた。研究者たちは徹夜でデータをまとめ、顕微鏡を覗き、メモを書き殴る。だが、彼らの最大の不満は、いつも同じ一点に集約されていた。
「ジェイソンとレザーフェイスの検体……なぜ、持ち帰りが禁止なんだ」
生物学班の主任研究員が、ため息混じりに呟いた。机の上には、三十階で撮影された映像の静止画が散らばっている。ホッケーマスクの巨漢が鉈を振り上げ、チェーンソーを咆哮させる狂った殺人鬼。映画の影響が強すぎるせいか、上層部は即座に「検体回収禁止」を決定した。
理由はシンプルで、恐ろしかった。
「地上で復活する可能性がある」
ダンジョン内で死んだはずの怪物が、地上に運び出された瞬間、再び動き出すかもしれない。映画のように不死身ではないが、未知の再生メカニズムが発動する可能性は否定できない。トオルがいる間は安全だが、もし基地から脱走されたら……どれだけの被害が出るか、想像もつかない。
「東京の研究所に、一体だけでも送れないか?」
「ダメだ。政府直々の決定だ。『地上への持ち出しは絶対禁止』」
研究者たちは、悔しさを噛みしめながら、映像と現地の報告書だけで解析を続けるしかなかった。ジェイソンの異常な再生力、レザーフェイスの狂気的な耐久性……どちらも、映画の影響を色濃く受け継いでいる。もし地上で復活したら、北海道どころか日本全土がパニックになる。
同じ会話が、毎日のように繰り返された。
「検体がほしい……せめて、組織片だけでも」
「却下だ。リスクが高すぎる」
「トオルくんがいれば大丈夫だろ?」
「トオルくんが常に基地にいるわけじゃない。探索中は留守だ。万一の脱走を許すわけにはいかない」
上層部からの通達は、冷徹だった。
「ジェイソン・ボーヒーズおよびレザーフェイス系統の検体は、一切地上への持ち出しを禁止する。死体であっても、焼却処分を徹底せよ。復活の可能性をゼロにできない以上、危険度は最上位とする」
研究者たちは、映像を何度も巻き戻し、ため息をつく。
「映画の怪物が、現実に……しかも、持ち帰れないなんて」
「トオルくんがいなかったら、俺たちは全滅だった。それだけは確かだ」
基地の外では、雪が静かに降り続いていた。ガンダムとザクが広場に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちがミスリルの刀を手に訓練を続ける。
トオルは食堂で、みんなと一緒にダンジョンサーモンを食べていた。七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、ぽつりと呟いた。
「ジェイソンさんたち……怖かったね。でも、もう出てこないように、僕、がんばるよ」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたがいる限り、地上は安全よ。映画の悪夢は、ダンジョンの中に留めておくの』
煉獄が大声で笑い、
「うむ! トオル、お前がいれば、どんな怪物も怖くない!」
しのぶが微笑み、
「ふふ……検体は残念ですけど、地上が守られてるんですから、それでいいですわ」
カナエが穏やかに、
「あらあら、研究者さんたちも、きっとわかってくれるわ」
炭治郎が静かに、
「トオルくん……ありがとう。みんなの命を、守ってくれて」
トオルはみんなの笑顔を見て、胸が温かくなった。
「僕、もっと強くなるよ。みんなが、怖がらないように……」
雪の降る岩内は、映画の悪夢を封じ込めながら、少年の優しさに守られていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、地上の恐怖を、静かに封じ続けていた。
霧の港町は、禁忌の検体をダンジョンに留め、静かに息づいていた。