杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

59 / 241
感想を書けるようになりました。
感想を書いてくれると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。


杖くんと聖地の噂

ハリウッドのスタジオ街、薄暗いバーや編集室の片隅で、ホラー映画やモンスター映画に関わる者たちの会話は、いつも同じ話題に落ち着いていた。

「北海道の自衛隊基地……あそこは、もう聖地だよ」

ある夜、ロサンゼルスの小さなバーで、リドリー・スコットがグラスを傾けながら呟いた。46歳の監督は、目の下に隈を作りながらも、どこか興奮を抑えきれずにいた。

隣に座っていた『13日の金曜日』シリーズのプロデューサー、ショーン・S・カニンガムが、煙草をくゆらせて頷いた。

「本物のゼノモーフの遺体があるって話、本当なんだな。あの映像を見た時は、俺も震えたよ。映画でしかいないはずの怪物が、現実に横たわってる。しかも、あの八歳の少年が、何度も滅ぼしてるって……」

別のテーブルでは、『悪魔のいけにえ』の監督、トビー・フーパーが、ビールを一口飲んで苦笑した。

「ジェイソンもレザーフェイスも、ダンジョンに出現したんだろ? 俺の映画の怪物が、現実に出てくるなんて……想像しただけで鳥肌が立つ」

若い脚本家が、興奮気味に割り込んだ。

「もしかしたら……いつか、俺たちの映画のモンスターも出てくるんじゃないか? 不可能じゃないよな。あの少年がいる限り、地上は守られるけど……もし脱走したら?」

バー全体が、一瞬静まり返った。

スコットがゆっくりとグラスを置いた。

「出てほしい気持ちはある。純粋に、俺の想像が現実になる瞬間を見たい。でも……実際に出たら、大災害だ。ゼノモーフが一匹でも地上に溢れたら、パニックだ。ジェイソンやレザーフェイスですら、基地内で抑えられてるって話だぞ」

カニンガムが煙を吐きながら、苦く笑った。

「そうだな。映画では不死身に描いてるけど、現実は違うらしい。撃退はできる。でも、もし基地から脱走されたら……東京だろうがニューヨークだろうが、地獄絵図だ」

フーパーが肩をすくめた。

「だからこそ、あの少年がいるんだろ。トオルって子が、全部滅ぼしてる。俺たちの怪物が、現実に出てきても……あの子がいれば、大丈夫だって、どこかで安心してる自分がいる」

若い脚本家が、目を輝かせながら言った。

「でもさ……もし俺の書いた怪物が出てきたら、見に行きたいよな。怖いけど、興奮するだろ?」

一同が苦笑した。

スコットが静かに呟いた。

「あの基地は、聖地だ。映画の夢が、現実になる場所。でも、同時に……人類の悪夢が封じ込められてる場所でもある」

バーの中は、再び煙とグラスの音で満たされた。

誰もが、心のどこかで同じことを思っていた。

「出てほしいけど……出てほしくない」

北海道の自衛隊基地は、世界の映画人たちにとって、畏怖と憧れの聖地となっていた。

トオルは、そんな噂など知らずに、食堂でみんなとダンジョンサーモンを食べていた。七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。

「みんな、映画みたいに怖い怪物、出てこないように……僕、がんばるよ」

杖くんが耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……あなたがいる限り、悪夢はダンジョンの中に留まるわ。映画の人たちも、きっと感謝してる』

雪の降る岩内は、映画の悪夢を封じ込めながら、少年の優しさに守られていた。

人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の夢と恐怖を、静かに繋ぎ続けていた。

霧の港町は、聖地として、世界中から畏敬の視線を集めながら、静かに輝き続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。