杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
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ハリウッドのスタジオ街、薄暗いバーや編集室の片隅で、ホラー映画やモンスター映画に関わる者たちの会話は、いつも同じ話題に落ち着いていた。
「北海道の自衛隊基地……あそこは、もう聖地だよ」
ある夜、ロサンゼルスの小さなバーで、リドリー・スコットがグラスを傾けながら呟いた。46歳の監督は、目の下に隈を作りながらも、どこか興奮を抑えきれずにいた。
隣に座っていた『13日の金曜日』シリーズのプロデューサー、ショーン・S・カニンガムが、煙草をくゆらせて頷いた。
「本物のゼノモーフの遺体があるって話、本当なんだな。あの映像を見た時は、俺も震えたよ。映画でしかいないはずの怪物が、現実に横たわってる。しかも、あの八歳の少年が、何度も滅ぼしてるって……」
別のテーブルでは、『悪魔のいけにえ』の監督、トビー・フーパーが、ビールを一口飲んで苦笑した。
「ジェイソンもレザーフェイスも、ダンジョンに出現したんだろ? 俺の映画の怪物が、現実に出てくるなんて……想像しただけで鳥肌が立つ」
若い脚本家が、興奮気味に割り込んだ。
「もしかしたら……いつか、俺たちの映画のモンスターも出てくるんじゃないか? 不可能じゃないよな。あの少年がいる限り、地上は守られるけど……もし脱走したら?」
バー全体が、一瞬静まり返った。
スコットがゆっくりとグラスを置いた。
「出てほしい気持ちはある。純粋に、俺の想像が現実になる瞬間を見たい。でも……実際に出たら、大災害だ。ゼノモーフが一匹でも地上に溢れたら、パニックだ。ジェイソンやレザーフェイスですら、基地内で抑えられてるって話だぞ」
カニンガムが煙を吐きながら、苦く笑った。
「そうだな。映画では不死身に描いてるけど、現実は違うらしい。撃退はできる。でも、もし基地から脱走されたら……東京だろうがニューヨークだろうが、地獄絵図だ」
フーパーが肩をすくめた。
「だからこそ、あの少年がいるんだろ。トオルって子が、全部滅ぼしてる。俺たちの怪物が、現実に出てきても……あの子がいれば、大丈夫だって、どこかで安心してる自分がいる」
若い脚本家が、目を輝かせながら言った。
「でもさ……もし俺の書いた怪物が出てきたら、見に行きたいよな。怖いけど、興奮するだろ?」
一同が苦笑した。
スコットが静かに呟いた。
「あの基地は、聖地だ。映画の夢が、現実になる場所。でも、同時に……人類の悪夢が封じ込められてる場所でもある」
バーの中は、再び煙とグラスの音で満たされた。
誰もが、心のどこかで同じことを思っていた。
「出てほしいけど……出てほしくない」
北海道の自衛隊基地は、世界の映画人たちにとって、畏怖と憧れの聖地となっていた。
トオルは、そんな噂など知らずに、食堂でみんなとダンジョンサーモンを食べていた。七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、映画みたいに怖い怪物、出てこないように……僕、がんばるよ」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたがいる限り、悪夢はダンジョンの中に留まるわ。映画の人たちも、きっと感謝してる』
雪の降る岩内は、映画の悪夢を封じ込めながら、少年の優しさに守られていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の夢と恐怖を、静かに繋ぎ続けていた。
霧の港町は、聖地として、世界中から畏敬の視線を集めながら、静かに輝き続けていた。