杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんとポポの観察室

岩内自衛隊基地の家畜化実験棟は、雪解けの水滴が屋根から落ちる音が響く中、異様な熱気に包まれていた。

ポポの親子が広い囲いの中で穏やかに草を食む姿を、ガラス越しに観察する人影が多かった。その中に、一際目を引く女性がいた。

ルザミーネ。アメリカから来た生物学者。金髪を優雅にまとめ、紫がかった瞳が鋭く輝く。白いコートの下に高級なドレスを着込み、まるで貴婦人のような佇まいだが、手元のノートはすでに何十ページも埋まっている。彼女はポポの巨体を前に、息を荒げながらデータを記録し続けていた。

「この被毛の構造……保温性と防水性が完璧。地球の哺乳類とは明らかに異なる進化系統ね。角の湾曲角度、牙の硬度、腸内細菌叢まで……すべてが未知!」

娘のリーリエは、母親の隣でそっと袖を引いた。金髪をポニーテールにまとめ、青い瞳が少し心配そうに揺れている。白いワンピースに薄手のコートを羽織り、いつも母親の暴走を制御する役割を担っている。

「お母様……もう少し落ち着いてください。ポポさんたちが怖がってしまいます」

ルザミーネは一瞬だけ娘の方を振り向いたが、すぐにガラスに顔を戻した。

「リーリエ、これは歴史的な瞬間よ! 地球外生命体を、こうして生きたまま観察できるなんて……!」

リーリエは小さくため息をつき、母親のノートを横目で見ながら呟いた。

「……また始まった」

その時、トオルが杖くんを抱いて部屋に入ってきた。七歳の少年は、ルザミーネとリーリエを見て、優しく手を振った。

「ルザミーネさん、リーリエさん……ポポさんたち、元気だよ」

ルザミーネは振り返り、目を輝かせた。

「トオルくん! あなたが連れてきてくれたこの子たち……素晴らしいわ! もう、データが追いつかないくらい!」

リーリエはトオルを見て、ほっとしたように微笑んだ。

「トオルくん……いつもありがとう。お母様がまた暴走してて、ごめんね」

トオルは首を振って、笑顔になった。

「ううん、ルザミーネさん、ポポさんたちのこと、すっごく大事にしてくれてるんだもん。僕、嬉しいよ」

リーリエは少し照れくさそうに頰を赤らめ、トオルの隣に並んだ。

二人は、すぐに姉弟のような距離感になった。リーリエはトオルより少し年上だが、トオルの優しさに自然と心を開いていた。

「トオルくんのお母さんとお父さん、お姉ちゃんはどうしてる?」

「うん、元気だよ。お父さんが相撲とプロレスが大好きで、サインもらって送ったんだ。喜んでくれたみたい」

リーリエは目を細めて微笑んだ。

「いいなあ……私も、お母様と一緒にいるけど、いつも研究ばっかりで……」

彼女は少し寂しげに、母親の背中を見た。

「お母様、ゼノモーフの遺体を見た時は、本当にすごかったの。歓喜の絶頂って言うか……倒れそうなくらい興奮してた」

トオルは少し困った顔で頷いた。

「うん……怖い怪物だけど、ルザミーネさんにとっては宝物なんだね。僕も、みんなが元気になってくれるなら、嬉しいよ」

リーリエはトオルの手をそっと握った。

「トオルくんは、いつもみんなのことを考えてて……本当に優しいね。私も、そんな風になりたいな」

二人はガラス越しにポポを見つめながら、静かに話し続けた。ルザミーネはまだノートに没頭しているが、時折娘とトオルを見て、優しい笑みを浮かべる。

家族仲は、確かに良いようだった。

実験棟の外では、雪が静かに降り続けていた。ガンダムとザクが広場に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。

ポポの親子は、囲いの中で穏やかに草を食み、地球外の生命を前にした科学者たちの興奮を、ただ静かに受け止めていた。

トオルはリーリエの手を握り返し、優しく笑った。

「リーリエさんも、お母様も……ここにいてくれて、ありがとう」

人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の好奇心と、家族の絆を、静かに繋ぎ続けていた。

霧の港町は、異世界の命と、地上の科学が交わる場所として、静かに輝き続けていた。

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