杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地は、雪解けの水音が響く中、表向きはいつも通りの静けさを保っていた。だが、地下通路や宿舎の影では、異国の息遣いが濃く漂っていた。
各国が選りすぐりの諜報員と潜入員を、極秘に送り込んできたのだ。
一番有名なのは、イギリスの007ことジェームズ・ボンドだった。黒いタキシードに身を包み、いつものウィットに富んだ微笑みを浮かべながら、基地の外周を歩く。カメラのレンズを隠し、マイクを仕込み、トオルに近づく機会を虎視眈々と狙っていた。
アメリカからは、ターニャ・デグレチャフ。背の低い金髪の女性軍人。幼い容姿とは裏腹に、冷徹な青い瞳で作戦を分析し、隙あらばトオルに接触しようとする。フランスからはシャルロット・デュアノ。優雅な金髪の女性パイロット。ドイツからはラウラ・ボーデヴィッヒ。銀髪の厳格な女性軍人。ロシアからは更識楯無。黒髪の凛とした女性諜報員。
彼女たちは皆、優秀な女性軍人であり、潜入のプロだった。トオルに近づき、魔法の詳細や召喚獣の弱点を聞き出そうと、さまざまな手を使っていた。
しかし、誰も成功しなかった。
自衛隊員の厳重な警備はもちろんのこと、召喚獣たちの監視は人外の領域にあった。
デスナイトは無言で影のように動き、赤い眼窩の光が一瞬でも怪しい気配を捉えれば、盾を構えて立ちはだかる。エルダーリッチは青白い輝きを放ちながら、空間全体の魔力を感知し、潜入者の存在を即座に把握する。グインは豹頭を低くして気配を察知し、Dは影そのものとなって尾行を封じ、ニンジャスレイヤーはカラテの構えで一触即発の威圧を放つ。マシュの盾は、トオルの周囲を常に守り、仮面ライダーたちは鋼の体で物理的な接近を許さない。
ジェームズ・ボンドですら、夜の闇に溶け込もうとした瞬間、デスナイトの盾が音もなく目の前に現れ、冷たい視線を浴びせられた。
「ドーモ……」
ニンジャスレイヤーの低く響く声が、ボンドの背筋を凍らせる。
ターニャ・デグレチャフは、子供のような体躯を活かして換気ダクトから忍び込もうとしたが、エルダーリッチの魔力感知に即座に捕捉された。シャルロット・デュアノはパイロットらしい機敏さで屋根伝いに接近を試みたが、グインの豹のような跳躍に阻まれた。ラウラ・ボーデヴィッヒと更識楯無も、女性らしい柔軟な潜入術を駆使したが、Dの影とマシュの盾の前に、すべてが無駄だった。
誰もが、トオルに一言も声をかけられなかった。
トオルは、そんな影の動きなど知らずに、広場でライトセーバーの訓練を続けていた。青白い刃を振るいながら、優しく笑う。
「みんな、僕を守ってくれてありがとう……」
胡蝶しのぶが微笑みながら、
「ふふ……世界中の凄腕が来てるんですのよ。でも、召喚獣さんたちがいる限り、トオルくんは安心ですわ」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、みんなトオルくんに会いたがってるみたいだけど……今はまだ、ゆっくりね」
トオルは杖くんを抱きしめ、首を傾げた。
「みんな、僕に何か用があるのかな……?」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……世界中の人が、あなたの力を知りたがってるの。でも、あなたの優しさを守るために、私たちみんながここにいるわ』
基地の外では、雪が溶け、春の風が吹き始めていた。各国からの影は、依然としてトオルの周囲をうろつき続けていたが、召喚獣の視線から逃れることは、誰にもできなかった。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の視線を、静かに受け止め続けていた。
霧の港町は、影の使者たちに囲まれながらも、トオルの笑顔に守られ、輝き続けていた。