杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと影の使者たち2

岩内自衛隊基地の外周に設けられた各国専用宿舎群の一角、薄暗いプレハブの共有ラウンジ。夜の十一時を回った頃、煙草の煙とコーヒーの匂いが混じり合う中、異国の諜報員たちがぽつぽつと集まっていた。誰もが疲れた顔で、しかし諦めきれずに小さな声で話し合っている。

ジェームズ・ボンド(イギリス、MI6)は、いつものタキシードではなく地味なジャケット姿でソファに深く腰を沈め、グラスを傾けながらため息をついた。

「まったく……異常なまでの警備だ。基地内のどこを見ても、必ず二人以上の自衛隊員がいる。トイレの前ですらだぞ」

ターニャ・デグレチャフ(アメリカ、CIA)は、背の低い体を椅子に預け、冷たい青い瞳で煙草をくゆらせた。幼い容姿とは裏腹に、声は低く鋭い。

「ハニートラップを仕掛けてみたが……一切乗ってこない。訓練されているのか、それとも単に興味がないのか。どちらにせよ、無駄だった」

シャルロット・デュアノ(フランス、DGSE)は、金髪を指でいじりながら苦笑した。

「私も試したわ。夜中に『道に迷った』って近づいてみたけど、すぐに別の隊員が現れて『お嬢さん、宿舎に戻ってください』ですって。丁寧すぎて逆に怖いくらい」

ラウラ・ボーデヴィッヒ(西ドイツ、BND)は、銀髪を後ろで束ねたまま、無表情でコーヒーを啜る。

「ガンダムとザクの調査など……夢のまた夢だ。あの巨体に近づこうものなら、エルフの視線が刺さる。弓を構えられたら、終わりだ」

更識楯無(ソ連、KGB)は、黒髪を無造作に掻き上げ、ため息混じりに言った。

「トオルくん本人に接触するのも無理だ。常に召喚獣が周囲を固めている。デスナイトの赤い目が、夜中でも光ってるのが見える。あれに睨まれたら……動けなくなる」

ボンドがグラスをテーブルに置き、皮肉っぽく笑った。

「我々は世界最高峰の諜報員のはずなのに……まるで子供の遊び場に忍び込んだ泥棒だな。『出来ません』とは言えない立場だ。ロンドンもワシントンも『何としても情報を』と圧力をかけてくる」

ターニャが煙を吐き出し、冷たく言った。

「上層部は『魔法の解析』『召喚獣の弱点』『トオルの魔力源』……そんなものを期待してる。でも、現実はこうだ。基地内のどこを見ても、自衛隊員が複数。エルフの弓兵が屋根の上にいる。ガンダムとザクは動かなくても、ただ立ってるだけで威圧感が凄まじい」

シャルロットが肩をすくめた。

「大変ね……私たち全員」

ラウラが無表情のまま、ぽつりと呟いた。

「任務続行は必須。だが……正直、突破口が見えない」

更識楯無がコーヒーを飲み干し、静かに言った。

「互いに大変だな。だが、諦めるわけにはいかない。トオルくんが動く瞬間を、待つしかない」

一同が重い沈黙に包まれる中、ボンドがグラスを掲げた。

「では、せめて乾杯しよう。『不可能な任務に挑む我々に』と」

グラスが軽く触れ合う音が、プレハブの薄い壁に響いた。

外では、雪が静かに降り続けていた。基地の灯りが、霧の中にぼんやりと浮かぶ。ガンダムとザクの巨体が、闇の中で静かに佇み、デスナイトの赤い眼窩が、夜の闇を監視し続けていた。

世界最高峰の諜報員たちは、互いに顔を見合わせ、苦笑を浮かべた。

「大変だな……本当に」

宿舎のラウンジは、煙草の煙とため息で満たされながら、静かに夜を過ごしていた。

人類史上最大の魔法使いは、そんな影の視線など知らずに、食堂でみんなと笑顔で食事を続けていた。

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