杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
北海道の自衛隊基地から遠く離れた、山間の小さな町。竈門家の古い木造の家は、朝の陽光を浴びて静かに立っていた。囲炉裏の火がぱちぱちと音を立て、母・竈門葵枝が朝餉の支度をしている。長女の禰豆子は、弟妹たちの着替えを手伝い、次男の竹雄は薪を割り、三女の花子は小さな手で箸を並べ、三男の茂と末っ子の六太はまだ眠そうに目をこすっていた。
そこへ、基地から特別便の小型トラックがやってきた。運転手は自衛隊の制服姿で、丁寧に木箱を一つ下ろした。
「竈門炭治郎二尉のご家族へ。冷蔵便です。大切にどうぞ」
葵枝が箱を受け取り、家族全員が囲炉裏のそばに集まった。箱を開けると、中から冷たい霧のような空気が流れ出し、三匹の巨大な魚が現れた。体長二メートルを超える虹色の鱗、脂の乗った身は、まるで宝石のように輝いている。ダンジョンサーモン――トオルが収納空間から取り出した、あの恵み。
「まあ……なんて大きな鮭……!」
葵枝が息を飲む。禰豆子が目を輝かせ、竹雄が「すげえ!」と声を上げ、花子は両手で頰を押さえ、茂と六太は興奮で跳ね回った。
箱の底には、手紙が一枚入っていた。炭治郎の几帳面な字で書かれたものだ。
家族みんなへ。
元気ですか? 僕も基地で頑張っています。
今日は特別な贈り物が届くはずです。これは、佐藤トオルくん――僕が守っている少年から、直接もらったダンジョンサーモンです。トオルくんが「炭治郎さんが笑顔になるなら、持っていって」と言って、僕に渡してくれたんです。いつもお世話になっているお礼だって。
みんなで大事に食べてください。脂が乗って、すごく美味しいはずです。弟妹たちも、きっと喜んでくれると思います。僕の家族が、こんなに豪華な魚を囲んで笑顔になる姿を想像すると、胸がいっぱいです。
僕は今、国のために、みんなのためにダンジョン探索をしています。30階から150階まで、毎日怪物と戦いながら、新しい素材や食材を持ち帰っています。トオルくんと一緒に、未来を変える仕事だと思っています。機密に関わることは書けませんが、最近はポポという大きな草食獣の家畜化実験が進んでいて、いつかみんなの食卓にも届くかもしれません。あと、基地の皆さんも元気です。煉獄三佐は相変わらず元気いっぱい、しのぶ一尉とカナエ二尉は優しく僕を見てくれます。
寒くなってきたので、体に気をつけて。僕も、早くみんなに会える日を夢見て頑張ります。
愛を込めて
炭治郎
手紙を読み終えた瞬間、葵枝の目から涙がこぼれた。
「……炭治郎……ありがとう。トオルくんにも、ありがとう」
禰豆子が手紙をぎゅっと抱きしめ、微笑む。
「お兄ちゃん、いつも私たちのこと考えてくれてる……このサーモン、みんなで大事に食べようね」
竹雄が拳を握る。
「うん! お兄ちゃんがダンジョンで戦ってるなんて……僕も、いつか強くなりたい!」
花子はサーモンの鱗にそっと触れ、
「トオルくんって、どんな子なんだろう……お兄ちゃんが守ってる子なんだね。ありがとう、トオルくん」
茂と六太は興奮しながら、
「でっかい! でっかい魚! お兄ちゃん、すごい!」
葵枝はサーモンを丁寧に解体し始めた。包丁が鱗を滑り、脂の滴る身が美しく並ぶ。囲炉裏で焼き、煮物にし、一部は刺身に。家族全員で食卓を囲み、誰もが静かに、しかし心から味わった。
「美味しい……本当に、こんなに美味しい鮭、初めて」
葵枝の声が震える。禰豆子は一口ごとに目を細め、竹雄はご飯を大盛りにして頰張り、花子は「もっと!」と笑い、茂と六太は口いっぱいに頰張りながら「お兄ちゃん、ありがとう!」と繰り返す。
食卓は笑い声と、炭治郎への想いで満ちていた。
遠く北海道の基地では、トオルが杖くんと共にポポの囲いを見ていた。炭治郎から届いた短い感謝の無線連絡を聞き、トオルは小さく微笑んだ。
「炭治郎さんのおうちの人たち、喜んでくれたかな……」
杖くんが、優しくトオルの頭を撫でる。
『もちろんよ、トオルちゃん。あなたの優しさが、ちゃんと家族の食卓を照らしたわ』
少年の収納空間には、まだ新しいサーモンが待っている。仮面ライダーたちが静かに見守り、デスナイトが無言で頷き、エルダーリッチが穏やかに微笑む。
炭治郎の手紙は、ただの報告ではなかった。
それは、深淵の恵みと、家族への絆を結ぶ一本の糸。
竈門家の食卓は、今も温かく輝いている。
人類史上最大の魔法使いの物語は、こうして、少しずつ、地上の希望を広げていく。