杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内町は、かつての小さな漁港から、誰もが認める「日本一の観光地」へと変わり果てていた。基地の正門は厳重に閉ざされ、立ち入りは許可制だが、町の外周道路からでも、霧の向こうにそびえるガンダムとザクの十八メートル巨体は、はっきりと見える。白と赤と青の鋼の巨人が、雪解けの丘に静かに立つ姿は、遠くからでも圧倒的だった。
「見て! 本物のガンダムだ!」
「ザクのモノアイが光ってる……!」
観光客たちは、双眼鏡を手に、丘の麓で歓声を上げた。バスツアー、外国人旅行者、家族連れ……日本人よりも明らかに外国人の方が多い。アメリカ、ヨーロッパ、アジア……世界中から飛行機で飛んでくる人々が、岩内の小さな町を埋め尽くしていた。
基地に入れない代わりに、町は異様な活気に満ちていた。
高級レストランが次々とオープンした。パリの三ツ星シェフが移住し、ミラノの老舗ピザ職人が支店を出し、ニューヨークのステーキハウスが暖簾を掲げた。メニューはすべてダンジョン産食材。市場でわずかに卸されるあばれうしどりの霜降り、軍隊ガニの身、ネオトマトのサラダ、黄金イクラのちらし……これらを味わえるのは、岩内しかなかった。
「ここでしか食べられないんだ……」
「一生に一度の贅沢だ」
予約は半年待ち。料金は一皿数万円のコースが当たり前。外国人観光客たちは、クレジットカードを握りしめて列をなした。
そして、何よりの目玉は――エルフとの異種族交流だった。
基地の外周に設けられた「交流広場」では、エルフの住民たちが、観光客に穏やかに挨拶をする。銀髪の美しい女性が、子供たちに花冠を作ってあげ、金髪の戦士が弓の使い方を優しく教える。言葉は通じなくても、笑顔とジェスチャーで心が通じ合う。
「エルフだ……本物のエルフ!」
「触ってもいいの? 耳、長い!」
日本人観光客は興奮し、外国人たちはカメラを構えて夢中でシャッターを切った。昭和の時代、ネットなど存在しない。口コミと新聞、テレビの報道だけが情報を広め、岩内は「異世界の入り口」として、世界中の人々を引き寄せた。
基地の中では、トオルが食堂でみんなと一緒にダンジョンサーモンを食べていた。七歳の少年は、窓から見える観光客の群れを眺め、ぽつりと呟いた。
「みんな、僕たちの町に来てくれて……嬉しいね」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたが作った世界が、みんなを呼んでるわ。ガンダムとザク、エルフさんたち……全部、あなたの優しさから生まれたものよ』
煉獄が大声で笑い、
「うむ! 町が賑やかになったな! 観光客が多すぎて、警備が大変だが……みんな楽しそうで何よりだ!」
胡蝶しのぶが微笑みながら、
「ふふ……外国人観光客がこんなに多いなんて。エルフさんたちとの交流も、素敵ですわね」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、町全体が活気づいてるわ。トオルくんのおかげね」
炭治郎が静かに、
「トオルくん……みんなが笑顔で来てくれて、僕も嬉しいです」
トオルはみんなの顔を見て、胸が温かくなった。
「うん……僕も、みんなが幸せになってほしいから……もっと採ってくるよ。みんなが、喜ぶもの」
基地の外では、観光客の歓声が響き、高級レストランの明かりが霧に溶け込む。エルフの子供たちが観光客に花を渡し、ガンダムとザクの巨体が丘の上から町を見下ろす。
岩内は、もはや「ただの港町」ではなかった。
ダンジョン産の食材、高級レストラン、エルフとの交流、ガンダムとザクの巨体……すべてが、七歳の少年の優しさから生まれた奇跡だった。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界中から人を呼び寄せ、静かに笑顔を増やし続けていた。
霧の港町は、観光の聖地として、世界の視線を集めながら、輝き続けていた。