杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の医療棟は、いつもより静かで、緊張に満ちていた。
トオルの身体測定は、年に二回だけ行われる。身長、体重、血液検査、髪の毛の採取……すべてが国家機密の最上位に指定されていた。採血された血液は、試験管ごと厳重な金属ケースに収められ、複数の自衛隊員が立ち会いながら、基地内の専用焼却炉へ運ばれる。焼却の瞬間、少なくとも三名の監視員が「完全に消失したか」を何度も確認する。灰すら残さない高温で焼き払われ、炉の記録も即座に暗号化されて保管される。
髪の毛一本さえ、機密扱いだった。科学者たちは、将来的に何らかの発見があるかもしれないと危惧していた。今は無理でも、十年後、二十年後……クローニング技術が発達した未来なら、トオルの複製すら不可能ではない。八歳の少年の遺伝子は、それほどまでに価値があり、危険だった。
各国スパイの動きも、激しくなっていた。
アメリカのCIA工作員が、夜陰に紛れて基地の外周をうろつき、フランスのDGSEエージェントが、観光客に扮して接近を試み、ソ連のKGB要員が、偽の整備士として潜入を図った。目的はただ一つ――トオルの血や髪の毛をわずかでも入手すること。
しかし、すべてが阻まれた。
トオルと杖くんが張った「害意排除の結界」が、基地全体を覆っていた。敵意や悪意を持つ人間が一歩でも近づくと、結界が微かな警告音を発し、デスナイトやエルダーリッチ、仮面ライダーたちが即座に現れる。スパイたちは、誰もトオルに触れることすらできなかった。
ある夜、CIAの工作員が換気ダクトから忍び込もうとした瞬間、デスナイトの盾が音もなく目の前に現れた。赤い眼窩の光が冷たく輝き、工作員は凍りついた。
「ドーモ……」
ニンジャスレイヤーの低く響く声が、背後から聞こえた。
スパイたちは、誰もが同じ結論に至った。
「不可能だ。あの結界と召喚獣の監視を突破するのは……人類の技術では無理だ」
基地の司令室では、煉獄杏寿郎三佐が報告書を読みながら、大きく息を吐いた。
「うむ……また侵入未遂だ。各国がトオルの遺伝子を狙っているのは明白。血液も髪も、絶対に地上に持ち出させん」
胡蝶しのぶが優雅に微笑みながら、
「ふふ……トオルくんの体は、もう国家の宝ですわね。科学者さんたちも、将来のクローニングを恐れて、焼却を何度も確認してるんですのよ」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、トオルくんが知ったら、きっと悲しむわ。でも、私たちが守るしかないのよね」
炭治郎が静かに拳を握った。
「トオルくん……僕たちが、絶対に守ります」
トオル本人は、そんな厳重な管理のことなど知らずに、食堂でみんなと一緒にダンジョンサーモンを食べていた。七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、今日も元気だね。僕も、もっとがんばるよ」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたの体は、世界にとって宝物だけど……一番大事なのは、あなたの心よ。私が、ずっと守ってるから』
基地の外では、雪が静かに溶け始めていた。ガンダムとザクが広場に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
各国スパイの影は、依然として基地の周囲をうろつき続けていたが、トオルと杖くんの結界は、決して破られることはなかった。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の欲望と恐怖を、静かに受け止め続けていた。
霧の港町は、少年の体すら守る厳重な守りに包まれながら、静かに輝き続けていた。