杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと米軍の洗礼

横須賀基地。新兵訓練所の薄暗い講堂に、階級を問わず集められたばかりの新兵たちが、固唾を飲んでスクリーンを見つめていた。空気は重く、誰もが息を潜めている。教官の声が、低く響いた。

「よく見ろ。お前たちが、これから向き合う可能性のある敵だ」

スクリーンが点灯した。

最初に映ったのは、在日米軍の精鋭数十名が、デスナイト一人に挑む映像だった。格闘技の達人たちが拳を繰り出し、銃火器の名手たちがM16を連射し、対戦車ライフルが轟音を上げる。だが、黒い鎧の死の騎士は、盾を軽く掲げただけで、すべての攻撃を弾き返す。弾丸は盾に吸い込まれ、拳は鎧に触れた瞬間火花を散らし、対戦車ライフルですら、ほんの僅かなへこみをつけるだけ。デスナイトは一歩も動かず、赤い眼窩の光を静かに新兵たちに向ける。

教官の声が、再び響いた。

「お前たちは、こんなモンスターと戦う事になるかもしれない。軍人になったら、命令次第で戦う可能性もある。相手が子供と思わずに、真剣に訓練を受けろ」

映像は続き、エルダーリッチの火球が廃車を一瞬で溶かすシーンに移った。鉄の塊が溶岩のように溶け落ちる様子に、新兵たちの顔が青ざめる。

「これが、ダンジョンだ。銃火器だけでは対処できない敵が、そこにいる」

さらに、ミスリル製の盾がM60パットンの105mm砲撃を完全に防ぐ実験映像。盾はびくともせず、その場から動かず、傷一つない。見た目は普通の銀色の板なのに、戦車の装甲を遥かに超える強度。

そして、ガンダムとザクの巨体が、基地の広場で資材を運ぶ姿。十八メートルの鋼の巨人が、子供のように軽々と持ち上げる様子に、新兵たちは言葉を失った。

教官がスクリーンを止め、厳しい目で全員を見回した。

「甘えた考えや、イジメなどは昔より減ったな。そんな事をしている余裕がないからだ。仲間同士の協調性も強くなった。お前たちも、今日から同じだ。生き残るためには、仲間を信じ、訓練に命を懸けろ」

新兵たちは、誰もが頷いた。顔に浮かぶのは、恐怖と覚悟の混じった表情だった。

「はい!」

声が揃う。講堂に、静かな決意が満ちた。

横須賀の外では、冬の風が冷たく吹いていた。だが、新兵たちの心には、北海道の小さな少年と、彼の召喚した怪物たちの影が、深く刻み込まれていた。

トオルは、そんな映像を見ている者たちのことを知らずに、基地の食堂でみんなと笑顔で食事を続けていた。七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく呟く。

「みんな、元気でいてね……」

杖くんが耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……あなたの力が、世界中の兵士たちを変えてるわ。怖がらせてるけど、同時に強くしてるのよ』

岩内は、雪に覆われながらも、静かに息づいていた。

人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の軍人たちに、静かな覚悟を植え付け続けていた。

霧の港町は、少年の優しさと、鋼の巨人の影に守られ、輝き続けていた。

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