杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
横須賀の在日米軍基地、地下の戦略会議室は重い沈黙に包まれていた。壁の大型スクリーンには、岩内から極秘に送られた映像が繰り返し再生されている。デスナイト一人に対し、在日米軍の精鋭数十名が挑む模擬戦の記録。
最初に映ったのは、格闘技の達人たちが拳を繰り出す場面。次に銃火器の連射。最後は対戦車ライフルの徹甲弾が直撃する瞬間――しかし、黒い鎧の死の騎士は盾を軽く掲げただけで、すべての攻撃を弾き返した。弾丸は盾に吸い込まれ、拳は鎧に触れた瞬間火花を散らし、対戦車ライフルですら、ほんの僅かなへこみをつけるだけ。デスナイトは一歩も動かず、赤い眼窩の光を静かにカメラに向けていた。
映像が終わると、部屋にいた者たちは誰も口を開かなかった。
陸軍特殊部隊(Delta Force)のベテラン隊長が、初めて重い声で言った。
「……たかだかモンスター一匹だと笑っていた俺たちが馬鹿だった。近代兵器が何一つ通用しない。攻撃を禁じられていたから、死者は出なかった。もしあいつに攻撃する意思があったら……戦術的な全滅じゃない。全員が死亡する全滅だ」
海軍特殊部隊(SEALs)の指揮官が、腕を組んだまま低く唸った。
「航空機や戦車で倒せるのか? F-16で爆撃しても、あの盾が防ぐ可能性が高い。戦艦の飽和砲撃なら……ミサイルに耐えられるとして、どうだ? コストに見合うのか? 一匹のモンスターを倒すために、どれだけの弾薬と燃料を費やす?」
空軍の特殊作戦員が、スクリーンを睨みながら呟いた。
「ステルス爆撃機で精密攻撃をかけても、再生するかもしれない。デスナイトはただ守っていただけだ。もし本気で動いたら……特殊部隊でもどうすればいいか、理解できない」
部屋に、再び沈黙が落ちた。
陸軍の若い隊員が、震える声で言った。
「これが……ダンジョンの現実か。トオルという子供が、あの怪物たちを毎日相手にしているなんて……」
海軍のベテランが、苦々しく笑った。
「日本政府は『トオルくんがいる限り地上は守られる』と言っているが、俺たちはそれを信じるしかないのか? もしあの子がいなくなったら……」
空軍の指揮官が、静かに結論を口にした。
「だからこそ、俺たちはもっと強くならなければならない。ミスリル刀やマカライト盾のデータも解析中だ。あの少年の力を、俺たちも少しでも近づけなければならない」
会議室の扉が閉まり、映像は再びループし始めた。
デスナイトの赤い眼窩が、スクリーンの中で静かに光る。
遠く岩内では、トオルが食堂でみんなと一緒にダンジョンサーモンを食べていた。七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、元気でいてね……」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたの力が、世界中の軍人たちを変えてるわ。怖がらせてるけど、同時に強くしてるのよ』
基地の外では、雪が静かに降り続いていた。ガンダムとザクが広場に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
在日米軍の敗北は、米軍全体に衝撃を与え続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の軍人たちに、静かな覚悟を植え付け続けていた。
霧の港町は、少年の優しさと、鋼の巨人の影に守られ、輝き続けていた。