杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんとXOFの暗躍

岩内自衛隊基地の周辺山域では、犬型ゴーレムが静かに巡回を続けていた。白銀の巨体が雪の残る尾根を滑るように進み、黄金の目が闇を貫く。遭難者の気配を捉えれば即座に駆けつけ、雪崩が起きれば自動防御フィールドを展開する――その姿は、すでに山岳救助の象徴となっていた。

だが、その影に忍び寄る者たちがいた。

XOF――Skull Face率いる謎の私兵集団。彼らは、トオルの創造した犬型ゴーレムに極めて強い関心を抱いていた。自動行動、防御フィールド、遭難者保護機能……これらが軍事転用されたら、極寒地帯での特殊作戦が革命的に変わる。偵察、輸送、負傷者回収――すべてを一匹でこなす自律型兵器。もし解析できれば、XOFの戦力が飛躍する。

だからこそ、彼らは動いた。

夜陰に紛れ、特殊迷彩を纏った工作員が、犬型ゴーレムの巡回ルートに接近した。まずは非殺傷性のEMPグレネードで機能を一時停止させ、接触を試みる計画だった。

しかし――

工作員が十メートル以内に近づいた瞬間、犬型ゴーレムの黄金の目が鋭く光った。低く唸るような警告音が響き、全身の毛並みが逆立つように魔力が奔流した。

「――っ!?」

工作員は慌てて後退したが、遅かった。犬型ゴーレムの体内から、淡い青白い光の結界が広がり、工作員の体を包み込んだ。触れた瞬間、手が焼けるように熱くなり、装備の電子機器が一斉にダウン。銃もナイフも、ただの鉄の塊と化した。

「接触不可……最上位命令者以外、触れるな……」

犬型ゴーレムの体内から、トオルの声が静かに響いた。録音ではなく、リアルタイムの遠隔通信。少年の穏やかな声が、しかし冷徹な命令を伝える。

「所属国救助隊以外、触れるな。違反者は排除対象」

工作員は結界の中で身動き一つ取れず、仲間が引き返すしかなかった。犬型ゴーレムは追撃せず、ただ静かに巡回を再開した。結界は数分で消え、残されたのは、機能停止した装備と、恐怖に震える工作員だけ。

同じ夜、他のルートでも同様の試みが繰り返された。だが、結果はすべて同じだった。

犬型ゴーレムには、トオルが施した防犯用の魔法がエンチャントされていた。最上位の命令者であるトオル本人と、所属している国の救助隊以外では、触れることすら困難。触れようとした瞬間、魔力の警告が発動し、接触者を排除する結界が展開される。殺傷はしないが、電子機器の破壊と強制的な退去を強いる。

XOFの工作員たちは、報告書にこう記した。

「犬型ゴーレムへの接触は、現時点で不可能。最上位命令者(トオル)以外は触れられない。結界の強度は、既存の防御技術を遥かに超える。解析不能」

Skull Faceは、報告書を読みながら、低く笑った。

「……あの少年の魔法は、予想以上だ。だが……諦めるわけにはいかない」

岩内基地では、トオルが食堂でみんなと一緒にダンジョンサーモンを食べていた。七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。

「犬型ゴーレムさんたち、みんなの役に立ってるみたい……よかった」

杖くんが耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……あなたが施した防犯魔法が、ゴーレムさんたちを守ってるわ。悪い人から、ちゃんと守られてる』

煉獄が大声で笑い、

「うむ! XOFの連中が近づいても、犬型ゴーレムはびくともせんぞ!」

胡蝶しのぶが微笑みながら、

「ふふ……触れられないんですって。トオルくんの優しさと、厳しさの両方が、ちゃんと宿ってるんですのね」

胡蝶カナエが穏やかに頷き、

「あらあら、みんな安心して救助活動ができるわ。トオルくんのおかげよ」

炭治郎が静かに、

「トオルくん……ありがとう。山で困ってる人たちが、もっと安全になるよ」

トオルはみんなの笑顔を見て、胸が温かくなった。

「うん……僕、もっとがんばるよ。みんなが、笑顔でいられるように」

基地の外では、雪解けの風が吹き始めていた。犬型ゴーレムたちが、山岳地帯を静かに巡回し、遭難者の命を救い続ける。

XOFの影は、依然として基地の周囲をうろつき続けていたが、トオルの防犯魔法は、決して破られることはなかった。

人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の欲望を、静かに退け続けていた。

霧の港町は、少年の優しさと、鋼の守護犬たちに守られ、輝き続けていた。

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