杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんとニューヨークの家族

岩内町は、雪解けの水が路地を流れ、春の陽気がようやく訪れた頃だった。基地の外周道路は、観光バスと高級車で埋め尽くされ、外国人観光客の声が響き渡る。そこに、一際目立つ黒塗りのリムジンが滑り込んできた。

ニューヨーク五大マフィアの一つ、コルレオーネ・ファミリーの車両だった。後部座席から降り立ったのは、老ドン・ヴィトー・コルレオーネの甥にあたる若き当主、マイケル・コルレオーネの息子たちとその家族。護衛は十数名、黒いスーツにサングラス、言葉少なく周囲を警戒している。だが、彼らの目的はただ一つ。

ダンジョン産の食材を食べに来ただけである。

「ここが……あの町か」

マイケルの長男、ヴィンセント・コルレオーネは、丘の上にそびえるガンダムとザクの巨体を見上げ、息を飲んだ。十八メートルの鋼の巨人が、静かに佇む姿は、映画で見たものを遥かに超えていた。

家族の孫たち――まだ幼い少年少女たちが、目を輝かせて駆け寄る。

「おじいちゃん! ガンダムだ! 乗りたい!」

ヴィンセントは苦笑しながら、護衛に目配せした。

「無理だ。だが……写真なら、撮らせてもらえる」

基地の警備員が、事前に連絡を受けていた。コルレオーネ・ファミリーは「観光客」として扱われ、特別な警護は必要ないが、接触は最小限に。ガンダムとザクは動かないが、敷地の外に手が出せるため、乗ることは安全上できない。ただ、手の上に乗せて写真を撮るのは自由だった。

少年たちがガンダムの掌にそっと乗せられ、歓声を上げる。ザクのモノアイが赤く光り、家族全員で記念撮影。護衛たちは緊張しながらも、少年たちの笑顔に少し表情を緩めた。

「次は犬型ゴーレムだ」

広場に並ぶ白銀の巨犬たち。観光客に大人気で、触れ合うことが許可されていた。コルレオーネ家の子供たちが、恐る恐る手を伸ばす。ゴーレムは優しく頭を下げ、子供たちを背中に乗せてゆっくり歩く。黄金の目が穏やかに輝き、子供たちは大喜び。

「毛、ふわふわ!」

「おっきいのに、優しい!」

ヴィンセントは護衛に囁いた。

「これが……魔法の産物か。映画以上だ」

その日の夕方、町の競売会場で、特別な品が出品された。

「研究用・討伐済み轟竜ティガレックス一頭」

会場は、各国の研究所や大学の代表で埋め尽くされた。巨大な遺体は、テントの下に横たわり、虎のような猛々しい姿がライトに照らされる。体長二十メートルを超え、鋭い牙と爪、強靭な四肢……ゼノモーフの大群を一匹で壊滅させた獰猛さが、魔法による映像で紹介された。

映像が流れると、会場から歓声が上がった。

「一匹でゼノモーフの群れを……!」

「これほどの怪物が、現実に……」

コルレオーネ・ファミリーも、家族全員でその映像を見ていた。ヴィンセントの妻が、息を飲む。

「映画以上だね……本当に、こんな怪物がいたなんて」

子供たちが目を輝かせ、

「お父さん、あの虎みたいなの、強そう!」

ヴィンセントは静かに頷いた。

「ああ……映画の怪物が、現実に出てくる世界だ。だが、トオルくんがいる限り、地上は守られる」

競りは白熱した。アメリカの大学、日本国内の研究所、ヨーロッパの研究機関が次々と値を吊り上げ、最終的に高額で落札された。遺体は厳重に運び出され、世界中の研究室へ向かう。

その夜、コルレオーネ・ファミリーは高級レストランでダンジョン産の食材を味わった。あばれうしどりのステーキ、軍隊ガニの甲羅割り、ネオトマトのサラダ……。家族全員が、静かに箸を進める。

ヴィンセントが、ワイングラスを掲げた。

「トオルくん……ありがとう。この味、この景色、この出会い……すべて、君のおかげだ」

家族はグラスを合わせ、笑顔になった。

岩内は、今日も観光客と研究者、マフィアの影に包まれながら、静かに息づいていた。

トオルは基地の食堂で、みんなと一緒に食事をしていた。七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。

「みんな、楽しんでくれてるみたい……よかった」

杖くんが耳元で囁いた。

『トオルちゃん……あなたの優しさが、世界中の人を繋いでるわ。マフィアの人たちも、笑顔になってる』

雪解けの岩内は、ダンジョン産の恵みと、少年の笑顔に守られ、輝き続けていた。

人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の渇望と喜びを、静かに受け止め続けていた。

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