杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと偽善の祈り

ダンジョンの深層、八十階の森と雪と砂が混じり合う不思議な階層。物理法則など無視した空間で、木々は天を突き、雪は溶けずに漂い、砂地は突然渦を巻く。トオルは杖くんを握り、仮面ライダーたちとアンデッド軍勢を従えて静かに進んでいた。

ここは自衛隊から見れば「大物」の領域。だが、トオルにとってはもう雑魚。魔力は日々膨張し、150階の深淵すら軽く踏み越える少年の目には、ただの素材と食料にしか映らない。

まず現れたのは、ドスランポス。ランポスのリーダー。青みがかった鱗に覆われた大柄な鳥竜種。頭には発達した大きな朱色のトサカがそびえ、強靭な後脚で地面を蹴り、鋭い鉤爪を振り上げて跳躍する。群れを率い、震動を伴う突進と爪撃が凶暴だった。

トオルは静かに息を吐いた。

「ごめんね……」

掌から放たれたのは、即死の魔法。害意ある生き物――この場合、明確に人間を狙う殺意を宿した存在――以外には、決して使わない。だが、ここにいる彼らは、獲物を殺すための本能しかない。痛みなく、安らかに。魂が瞬時に解放される、優しい死。

ドスランポスは跳びかかろうとした瞬間、体がふっと力を失い、地面に崩れ落ちた。目が閉じ、息が止まる。苦痛の叫びすらなかった。

次に、冷たい風が吹いた階層の奥から、ドスギアノス。ギアノスのリーダー。白みがかった体躯に緑色のトサカと爪を持つ寒冷適応種。口から氷液を吐き、獲物を凍らせてから食らう。だが、トオルの魔法はそれより速い。即死の光が触れた瞬間、緑のトサカが静かに垂れ、巨体が雪の上に倒れた。

さらに、複数のブルファンゴを引き連れたドスファンゴ。白いたてがみの巨大なイノシシ型魔物。ドスファンゴは強力な突進で前方を薙ぎ払い、ブルファンゴたちは牙をむき、群れで襲いかかる。だが、すべて同じ。トオルが指を軽く振るだけで、一匹残らず安らかな眠りについた。

最後に、砂地から急に飛び出したのはヤオザミ。小型の盾蟹。赤い硬い外骨格に覆われ、砂に潜んで獲物を待ち伏せ、巨大なハサミで挟み砕く蟹型のモンスター。だが、即死の魔法は容赦なく、その命を優しく終わらせた。

倒した後、トオルは必ず短く黙禱する。両手を合わせ、目を閉じ、ただ一言。

「ありがとう……無駄にしないよ」

仮面ライダー1号が静かに頷き、2号が「トオル、よくやった」と低く言う。V3やストロンガーたちが骸を丁寧に収納空間へ運び、デスナイトは無言で斧を肩に担ぎ、エルダーリッチが落ち着いた声で「主よ、素材は完璧に保存された」と報告する。妖精たちは光を散らし、血の跡すら清める。

すべてが有用だった。ドスランポスの鱗と爪は軽量防具に、ドスギアノスの氷液腺は冷却素材に、ドスファンゴとブルファンゴの肉と毛皮は大量の食料と防寒具に、ヤオザミの甲殻は堅牢な盾や鍋に加工できる。食材になり、装備になり、基地の科学者たちを喜ばせる。

だが、トオルは杖くんの人の姿の隣で、膝を抱えて座り込んだ。泣きそうな顔。目がうるうるし、声が震える。

「杖くん……これって、偽善だよね? 僕、自分のために殺してるのに。みんなの食料にするため、装備にするため……優しい魔法で安らかにって言いながら、結局は僕が生きるために……」

杖くん――レディ・アヴァロンは、銀髪を優しく揺らし、トオルの肩に手を置いた。いたずらっぽい微笑みは消え、ただ静かな、大人の女性の眼差しで少年を見つめる。

肯定も、否定もしなかった。

『トオルちゃん。生きるということは、他者を殺して糧にしなければならない。そういうものよ』

彼女はトオルの髪を優しく撫で、続けた。

『善悪は、存在しないの。生き物が生きる限り、必ず誰かの命を奪う。それが自然の摂理。何が正しくて、何が悪いかは……あなた自身で見つけるしかないわ。善も悪も、表裏一体。絶対的な善なんてないし、絶対的な悪もない。自称している存在は多いけどね……ふふ、魔神だってそう言ってたわ』

トオルは唇を噛み、涙をこらえた。

「でも……僕、みんなを幸せにしたいのに……」

杖くんは優しく、しかし厳しく、少年を抱き寄せた。

『それがあなたの正しさよ、トオルちゃん。偽善かどうかは、あなたが決めること。あなたが祈りを捧げ、無駄にせず、家族や自衛隊の人たちに届けるなら……それは、ただの殺しじゃなくなるわ。私が保証する』

仮面ライダーたちが静かに周囲を囲む。1号が「トオル、俺たちはお前の選択を信じる」と言った。デスナイトは無言で深く頷き、エルダーリッチが「主よ、汝の心こそが真実」と静かに語る。

トオルはゆっくり立ち上がり、杖を握りしめた。まだ少し目が赤いが、決意の光が戻っていた。

「うん……僕、ちゃんと考えるよ。無駄にしないように、みんなのために……」

杖くんがくすくすと笑い、いつものいたずらっぽい声に戻る。

『ええ、そうよ、トオルちゃん。それでいいの。私がついてるわ』

少年と超魔導兵器の杖と、ヒーローたちと軍勢は、再び深淵を進み始めた。

殺しと祈り、善と悪の狭間で。

人類史上最大の魔法使いは、今日も自分の心と向き合いながら、地上への道を切り開いていく。

それは、終わらない旅の、静かな一歩だった。

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