杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内町は、雪解けの水が路地を流れ、夏の陽気がようやく訪れた頃、世界中の富豪と財閥にとって「最も行きたい場所」となっていた。
基地の正門は依然として固く閉ざされていたが、町全体がその「聖地」の玄関口と化していた。プライベートジェットが次々と岩内空港に降り立ち、高級リムジンが霧の港町を埋め尽くす。アメリカの石油王、ヨーロッパの自動車財閥、スイスの銀行家、香港の不動産王……彼らの目的はただ一つ。
ダンジョン産の食材、素材、鉱石、そして時折競りに出る「竜種の遺体」だった。
市場では、あばれうしどりの霜降りや軍隊ガニの身が、極少量しか卸されない。ミスリルやマカライト鉱石、ドラグライト鉱石も、研究用にわずかに回されるだけ。それでも、世界中の富豪たちは「岩内に行けば、直接手に入るかもしれない」と期待を膨らませてやって来た。
特に熱を帯びていたのは、竜種の遺体だった。
ある日、競売会場に轟竜ティガレックスの一頭が登場した。巨大な遺体はテントの下に横たわり、虎のような猛々しい姿がライトに照らされる。鱗は鋼鉄を超える硬度を持ち、皮は防弾素材として、骨は軽量高強度構造材に、爪と牙は切断工具に、肉や血に至るまで研究資料として価値が計り知れなかった。
競りの値段はすでに天文学的だったが、落札者たちは「値段以上の価値がある」と口を揃えた。
「この鱗で装甲車を作れば……戦車砲すら防ぐ」
「骨を加工すれば、航空機のフレームが革命的に軽くなる」
「肉や血の成分解析ができれば、新薬が生まれる」
今はまだ試作段階だったが、各国の軍事産業と自動車メーカーは、すでに「ミスリル+竜種素材」の複合装甲を開発中だった。プロトタイプの装甲板は、従来の戦車装甲をはるかに上回る強度を示し始めていた。
富豪たちは、競りの合間に基地の外周道路に立ち、丘の上にそびえるガンダムとザクの巨体を眺めた。十八メートルの鋼の巨人が、静かに佇む姿は、富豪たちの野心をさらに掻き立てた。
「これを……俺たちの工場で再現できれば」
「トオルくんが作ったものだというのに……」
しかし、誰も基地の中には入れない。護衛の自衛隊員と召喚獣たちの視線が、常に町全体を覆っていた。
トオルは基地の食堂で、そんな世界の動きを知らずに、みんなと一緒にダンジョンサーモンを食べていた。七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、たくさん来てくれてるみたい……嬉しいね」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたの優しさが、世界中の富豪たちを呼んでるわ。でも、あなたはただ、みんなが幸せになるようにって思ってるだけ。それが、一番すごいことよ』
煉獄が大声で笑い、
「うむ! 町が世界の中心になったな! トオル、お前のおかげだぞ!」
胡蝶しのぶが微笑みながら、
「ふふ……競りも大盛況ですわね。竜の遺体なんて、夢のような話です」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、みんなトオルくんの作った世界に夢中よ」
炭治郎が静かに、
「トオルくん……ありがとう。世界が変わってるよ」
トオルはみんなの笑顔を見て、胸が温かくなった。
「うん……僕、もっと採ってくるよ。みんなが、もっと幸せになるように」
基地の外では、観光客と富豪たちの歓声が響き、高級レストランの明かりが霧に溶け込む。競売会場では、ティガレックスの遺体が次の落札者を待っていた。
岩内は、世界の富と欲望が集まる場所となっていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の渇望を、静かに受け止め続けていた。
霧の港町は、少年の優しさと、竜の遺産に包まれながら、輝き続けていた。