杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内基地の滑走路は、静かな緊張に包まれていた。
政府専用機――日本航空の特別仕様ボーイング747――が、エンジンを低く唸らせて待機している。
機体は通常の民間塗装ではなく、灰色の迷彩に近い単色で、窓はほとんど覆われていた。
自衛隊の特殊警護班が周囲を固め、滑走路の両側に並ぶ。
トオルは、八歳の小さな体で、杖くん(人間姿)を横に、エルフの少女コッコロの手を握って歩いていた。
コッコロは、白銀の長い髪を三つ編みにまとめ、青みがかった瞳が優しく輝く。
白いドレスに身を包み、背中には小さな翼のような飾り。
トオルと同じくらいの年齢に見えるが、エルフの血統ゆえに、落ち着いた大人のような雰囲気を持っていた。
彼女は、氏族の中でもトオルと歳が近く、すぐに打ち解けた。
今では、トオルにとって「姉のような存在」になっていた。
「トオル様……アメリカって、どんなところなのでしょう?」
コッコロが、少し緊張した声で尋ねた。
トオルは、にこっと笑って答えた。
「うーん……テレビで見たことあるけど、ビルがいっぱいで、みんな元気そう!
ハンバーガーとか、ポテトがいっぱい食べられるんだって。
初めてだから、ドキドキするね、コッコロ」
杖くんが、銀色の髪を揺らして微笑んだ。
「ふふっ、トオルちゃん。
アメリカは広いわよ。
でも、君の優しさがあれば、どこに行っても大丈夫。
コッコロちゃんも、一緒だからね」
三人は、専用機のタラップを上った。
機内は、通常のファーストクラスを遥かに超える特別仕様。
広い座席、プライベートルーム、簡易キッチン。
護衛の自衛隊員が数名と、外交官が同乗している。
離陸の瞬間、トオルは窓から基地を見下ろした。
ガンダムとザクが、静かに立っている。
犬型ゴーレムたちが、エルフの子供たちを背中に乗せて遊んでいる。
デスナイト、エルダーリッチ、ニンジャスレイヤー、D、メフィスト、マシュ……
召喚獣たちは、トオルが出発する前に広場に集まっていた。
「みんな……僕がいない間、ダンジョンで探索しててね。
自由にしていいよ」
トオルがそう言ったとき、ニンジャスレイヤーが低く答えた。
「――アイエエエ! トオル=サン。
お前がいない間は、俺たちはダンジョンを探索する。
お前のため、世界のため……強くなる」
デスナイトは、無言で頷き、エルダーリッチは火球を小さく灯して同意を示した。
グインは剣を握りしめ、Dは影のように静かに立っていた。
マシュは盾を構え、メフィストは妖しい笑みを浮かべた。
「君の留守は、我々が守る。
安心して行ってこい」
トオルは、みんなに手を振った。
「うん! みんな、無理しないでね。
僕、すぐ帰ってくるから!」
機体は滑走路を走り、ゆっくりと離陸した。
窓から見下ろす岩内基地は、どんどん小さくなっていく。
ガンダムとザクの巨体が、最後まで見送るように立っていた。
機内では、トオルがコッコロと並んで座り、窓の外を眺めていた。
「アメリカ……どんなところだろうね。
みんな、優しいかな?」
コッコロが、トオルの手を握りしめて答えた。
「トオル様がいるなら、きっと優しい人ばかりです。
私も……初めての海外、ドキドキしますけど、トオル様と一緒だから、楽しみです」
杖くんが、隣のシートから微笑んだ。
「ふふっ、二人は本当に仲良しね。
アメリカでも、たくさん思い出を作りましょう」
専用機は、太平洋を越えてアメリカ本土へ向かう。
トオルは、窓に額を押し当てながら、小さく呟いた。
「みんな……待っててね。
僕、ちゃんと講義して、すぐ帰ってくるから」
機内の灯りが、優しく揺れる。
八歳の少年は、初めての海外への旅に、心を弾ませていた。
杖くんとコッコロが、そっと寄り添う。
岩内基地では、召喚獣たちが、静かにダンジョンへ向かっていた。
トオルの留守を守るため、そして強くなるために。
アメリカへの空は、青く広がっていた。
トオルの小さな旅は、世界の新たな一歩を、静かに踏み出そうとしていた。