杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
前回の講義でゴブリンや上位種の脅威を学んだ特殊部隊員たちは、今日はさらに緊張した面持ちで座っていた。壇上の七歳の少年は、いつものように丁寧にマイクを握り、ホワイトボードに新しい図を描き始める。
トオルは敬語で、ゆっくりと話し始めた。
「みなさん、今日はダンジョンに普通の人間と同じような、人間型のモンスターについてお話しします。戦士、僧侶、魔法使い、盗賊、侍、忍者……まるでウィザードリィの敵モンスターのような見た目のものが多いです」
少年は最初の図を指した。剣を構えた戦士、杖を持った魔法使い、短剣を握った盗賊、僧侶のローブ、侍の鎧、忍者の黒装束……それぞれが人間そっくりに描かれている。
「強さは幅広く、普通の人間レベルから、超人的なマスターレベルまでいます。マスターレベルは百階以降にしか現れませんが……一番注意が必要なのは、低レベルでも脅威になる職業です。特に、忍者型」
トオルは忍者の図に赤い丸をつけた。
「忍者型は、ゲームと同じく防御無視の首切り――クリティカルヒットがあります。即死なので、対策が必要です。低レベルのうちは大丈夫ですが、高レベルになると確率が上がり、回避が難しくなります。背後を取られないように、常に周囲を警戒してください」
コッコロが静かに前に出て、補足した。穏やかな声が講堂に響く。
「私たちの隠れ里でも、忍者型の襲撃が一番恐ろしかったです。気配を消して近づき、一瞬で首を落とす……。見つけたら、すぐに魔法で周囲を照らすか、逃げるしかありませんでした」
トオルは頷き、次の図を指した。
「次は僧侶型です。低レベルでも回復魔法を使いますが、高レベルになると即死魔法を行使できます。全体攻撃の魔法も使えるので、群れで来ると危険です。耐久力は普通の人間並みなので、拳銃でも倒せますが……即死魔法を撃たれる前に、確実に仕留める必要があります」
さらに、魔法使い型の図。
「魔法使い型は、低レベルでも全体睡眠魔法を使えます。ゴブリンシャーマン以上の火力のある火球も撃ってきます。レベルが上がるほど、威力と範囲が大きい全体魔法が使えるので、孤立しないようにしてください」
コッコロが付け加えた。
「魔法使い型は後衛に下がって攻撃してきます。私たちも、魔法使いがいるときは必ず前衛を突破しようとしました」
トオルは戦士型と盗賊型の図を指した。
「戦士型は高火力の攻撃と高い体力、耐久力があります。盗賊型は罠や毒を使います。侍型は戦士と魔法使いの複合職で、低レベル時は物理攻撃のみですが、高レベルになると魔法使いと同等の全体攻撃魔法も多用します」
少年は深く息を吸い、最後に言った。
「三十階までなら、低レベルしかいません。でも、その中でも忍者型と魔法使い型が人類には脅威です。忍者は背後を取られると即死、魔法使いは全体魔法で複数人を同時に倒します。三十階以降になると、エルダーゴブリン種やドスランポス、ドスギアノス、ドスファンゴ、イヤンクック、ダイミョウザザミ、ババコンガ……これらはもう、現代兵器でも対処が難しい存在です」
コッコロが最後に、静かに付け加えた。
「私たちエルフも、三十階以降はほとんど近づきませんでした。トオル様がいてくださるからこそ、戦えるのです」
講堂は静まり返った。
特殊部隊員たちは、誰もがノートに必死に書き込み、顔を強張らせていた。
デルタフォースの隊長が立ち上がり、敬礼した。
「ありがとう、トオルくん……コッコロさん。忍者型と魔法使い型の対策、必ず覚えておく」
SEALsの隊員も、静かに頷いた。
「一対一なら勝てる。でも、上位種がいると……本当に危険だな」
トオルは壇上で小さく頭を下げた。
「みなさん、絶対に無理をしないでください。僕も、みんなの力になれるように、もっと勉強します」
講堂に、温かな拍手が起こった。
トオルは杖くんを抱き、コッコロと一緒にステージを降りた。
コッコロがそっと耳元で囁いた。
「トオル様……とても立派でした。私も、誇らしいです」
杖くんが優しく微笑み、
『トオルちゃん……あなたは、みんなに“生き残る”方法を教えてるわ。怖いだけじゃなくて、ちゃんと対策があるって』
基地の外では、夏の風が吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り続ける。
トオルは、講義を終えた後も、みんなの安全を祈り続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の精鋭たちに、静かに希望を分け与え続けていた。