杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
特殊部隊員たちは息を潜め、壇上の七歳の少年を見つめている。トオルはマイクを両手で握り、ホワイトボードに新しい図を描きながら、丁寧に敬語で話し始めた。
「みなさん、今日は三十階以降に多く現れる悪魔についてお話しします。悪魔は基本的に対魔法防御力がとても強いです。当然、物理防御力も高いです」
少年は最初の図を指した。
小さな翼のついた赤い悪魔――インプ。
「最下級のインプから始まります。小さくて素早いですが、火の魔法や爪攻撃が主です。一匹なら問題ありませんが、群れで来ると厄介です」
次に、ガーゴイルの図。石像のような姿で翼を生やした悪魔。
「ガーゴイルは石化能力を持っています。飛んで攻撃してくるので、対空警戒が必要です。アルプは睡眠魔法と幻覚を使います。インキュバスとサキュバスは……特に注意が必要です」
トオルは少し顔を赤らめながら、続けた。
「インキュバスは男性型、サキュバスは女性型です。どちらも多彩な攻撃魔法とチャーム系の魔法を使います。高い対魔法防御力に加えて、エナジードレインという特殊能力を持っています」
コッコロが静かに前に出て、補足した。穏やかな声が、講堂に響く。
「エナジードレインは、対象の生命力を直接奪う能力です。ゲームではレベルが下がるだけですが、現実では……人間が喰らうと、一瞬で死亡します。まるでミイラのように干からびてしまいます。トオル様には通用しませんが、みなさんには致命的です」
トオルは頷き、図に赤い丸をつけた。
「エナジードレインは、アンデッドも標準的に持っている特殊能力です。毒や麻痺と一緒に使ってくることが多いので、単体でも群れでも、すぐに倒す必要があります。特にサキュバスは……美しさが人間の女性以上なので、油断しないでください」
少年は少し声を落として、続けた。
「ダンジョンで全裸の女性がいたら、要注意です。大抵はサキュバスが獲物を狩るために、自身を疑似餌にしているだけです。チャームにかかると、抵抗できずに近づいてしまいます」
コッコロが静かに付け加えた。
「私たちエルフも、サキュバスには近づきませんでした。美しさで惑わされ、エナジードレインで命を奪われる……本当に恐ろしい存在です」
トオルは次の図を指した。
角と翼を持つ赤黒い悪魔――レッサーデーモン。
「レッサーデーモンは、サキュバス以上に多彩な魔法を使い、竜種に匹敵する物理攻撃力を持っています。対魔法防御力も高く、物理防御力も下級悪魔の中では高いです。エナジードレインはありませんが、一番厄介なのは仲間を呼ぶことです。魔界から自分と同じレッサーデーモンを無数に召喚します。一体がいつの間にか軍勢になっていることもあります。要注意です」
講堂は静まり返った。
特殊部隊員たちは、誰もがノートに必死に書き込み、顔を強張らせていた。
デルタフォースの隊長が立ち上がり、敬礼した。
「ありがとう、トオルくん……コッコロさん。サキュバスとレッサーデーモンの対策……必ず覚えておく」
SEALsの隊員も、静かに頷いた。
「全裸の女性がいたら……疑え、か。チャームとエナジードレイン……本当に恐ろしい」
トオルは壇上で小さく頭を下げた。
「みなさん、絶対に油断しないでください。僕も、みんなの力になれるように、もっと勉強します」
講堂に、温かな拍手が起こった。
トオルは杖くんを抱き、コッコロと一緒にステージを降りた。
コッコロがそっと耳元で囁いた。
「トオル様……とても丁寧にお話しできました。私も、誇らしいです」
杖くんが優しく微笑み、
『トオルちゃん……あなたは、みんなに“生き残る”方法を教えてるわ。悪魔の誘惑も、ちゃんと対策があるって』
基地の外では、夏の風が吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り続ける。
トオルは、講義を終えた後も、みんなの安全を祈り続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の精鋭たちに、静かに希望を分け与え続けていた。