杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
前回の講義で上位悪魔の脅威を学んだ特殊部隊員たちは、今日はさらに表情を硬くして座っていた。壇上の七歳の少年は、いつものように丁寧にマイクを握り、ホワイトボードに新しい図を描き始めた。
トオルは敬語で、ゆっくりと話し始めた。
「みなさん、今日はダンジョン内で最も恐ろしい存在の一つ――ドラゴンについてお話しします。基本的にドラゴンは、幼竜から成竜になり、歳をとって壮年竜となって更に歳を経て老竜になります。さらに才能があり歳を重ねた一部の竜が古竜や竜王に至ります。属性竜もまた同じです」
少年は図を指した。
小さな翼の幼竜から、巨大な成竜、壮年竜、老竜、古竜、そして頂点に立つ竜王の姿が順に描かれている。
「ただ、同じ竜でも種別によって脅威度が違います。陸竜と飛竜、海竜でも大きく変わります。もっとも、竜種は人類にとって脅威そのものです。大抵の竜の鱗は銃弾を弾き、ロケット弾や戦車砲でも傷一つつきません。大きさも2メートル以上から、竜種によっては数百メートルまで。百階以上下では、全長数キロから数百キロの巨大な竜種もいます」
コッコロが静かに前に出て、補足した。
「私たちエルフの伝承にも、竜は『天の災い』として記されています。幼竜でも人間の村一つを焼き払う力があります。百階以降の巨大竜は……私たちの世界でも、神話にしか残っていない存在です」
トオルは頷き、次の図を指した。
「大抵のドラゴンは人語を理解し、こちらと話す事もあります。ドラゴン独自の竜語も存在します。ドラゴンの特徴として、財宝に目がありません。特に珍しい物ならそれに執着する傾向があります。時折、人間界の本などを欲しがる竜もいます」
少年は少し声を落として続けた。
「後、勘違いされがちですが、西洋のドラゴン――竜と東洋の龍では種族が違います。東洋の龍は神の使いや神そのものである事が多いです。ダンジョンでは現れません」
さらに、ワイバーンの図を指した。
「ドラゴンとワイバーンは別種です。人間と哺乳類ぐらい違います。ドラゴンからしたらワイバーンは空飛ぶ蜥蜴。一緒にしたら激怒します。もう手に負えない程。要注意です」
トオルは最後に、深く息を吸い、図解を指しながら言った。
「ダンジョンで現れるドラゴンでも、同じような見た目でも種別が違う存在も多いです。一般的な飛竜と飛竜種に分類されるリオレイアやリオレウス、ティガレックス、フルフルは種が違います。似ているようで生態が違う。まるで色々な世界のドラゴンが一か所に集まっているようです。弱点も別になるので注意してください」
コッコロが静かに付け加えた。
「ドラゴンは総じて強い種ではありますが、最強ではありません。竜よりも強い種は沢山います。巨人に悪魔、アンデッド……まだまだ未知の存在がダンジョンにいます」
トオルは壇上で小さく頭を下げた。
「みなさん、ドラゴンに出会ったら絶対に油断しないでください。良いドラゴンもいれば悪いドラゴンもいますが、ダンジョンにいるのは話が通じないドラゴンがほとんどです。話が通じていても、相手からしたら人間は格下の獲物。交渉しても平気で裏切るドラゴンもいます。人間と同じで千差万別です」
講堂は完全に静まり返った。
特殊部隊員たちは、誰もがノートに必死に書き込み、顔を強張らせていた。
デルタフォースの隊長が立ち上がり、敬礼した。
「ありがとう、トオルくん……コッコロさん。ドラゴンの脅威……本当に理解できた。百階以降は……もう、人類の領域ではないな」
SEALsの隊員も、静かに頷いた。
「ワイバーンとドラゴンを間違えたら……激怒するのか。弱点も種別ごとに違うなんて……」
トオルは壇上で小さく頭を下げた。
「みなさん、絶対に無理をしないでください。僕も、みんなの力になれるように、もっと勉強します」
講堂に、温かな拍手が起こった。
トオルは杖くんを抱き、コッコロと一緒にステージを降りた。
コッコロがそっと耳元で囁いた。
「トオル様……とても丁寧にお話しできました。私も、誇らしいです」
杖くんが優しく微笑み、
『トオルちゃん……あなたは、みんなに“生き残る”方法を教えてるわ。竜の脅威も、ちゃんと対策があるって』
基地の外では、夏の風が吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り続ける。
トオルは、講義を終えた後も、みんなの安全を祈り続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の精鋭たちに、静かに希望を分け与え続けていた。