杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
最初は30話で終わる予定でしたが。
書きたい場面が多くて長くなっています
アメリカ軍の特殊部隊訓練施設、バージニア州のフォート・ブラッグ。
午後の陽光が窓から差し込む中、特殊部隊の訓練生たちが輪になって座っていた。
デルタフォース、SEALs、グリーンベレー……精鋭揃いの男たちが、今日は珍しくリラックスした様子で、しかしどこか緊張を残した表情で、目の前の小さな少年を見つめている。
トオルは七歳の小さな体を椅子に座らせ、杖くんを膝の上に置いて、穏やかに微笑んでいた。
その隣には、金髪のエルフ少女・コッコロが控えめに座り、トオルの袖をそっと握っている。
彼女の長い耳と透き通るような肌は、初めて見る新兵たちにとって衝撃的だった。
「トオルくん……本当に八歳か?」
SEALsのベテラン隊長が、信じられないという顔で呟いた。
他の隊員たちも、頷きながら少年を見下ろす。
「俺の息子より幼いのに……人類未踏の150階まで行ってるって、本当なのか?」
トオルは少し照れくさそうに頷いた。
「はい……僕、みんなを守るために、ダンジョンに行ってるんです。怖いけど……杖くんやみんなが一緒にいてくれるから、がんばれます」
古参の隊員の一人――膝の古傷で長年苦しんでいた男が、ゆっくりと近づいてきた。
彼は隊長クラスで、若い頃の戦場で受けた傷が今も疼くという。
「坊主……悪いが、ちょっとだけ……この膝、見てくれねえか?」
トオルはすぐに立ち上がり、杖を軽く掲げた。
柔らかな緑色の光が、隊員の膝を包む。
光が消えた瞬間、男の顔から痛みが消え、驚愕の表情に変わった。
「……嘘だろ。痛く……ねえ」
周囲の古参たちが、次々と列を作り始めた。
肩の脱臼痕、腰のヘルニア、弾丸の欠片が残る古傷……。
トオルは一人ひとりに、丁寧に回復魔法をかける。
「少しでも笑顔になれば……嬉しいです」
新兵たちは、遠巻きにその光景を見ていた。
ビデオで見た少年が、本当にこんなことをできるのか――信じられない思いで、息を飲む。
そして、その視線の先には、もう一人。
コッコロ。
長い耳、透き通る肌、穏やかな金髪。
新兵の一人が、思わず呟いた。
「……エルフ? 本物かよ」
別の新兵が、目を丸くして囁く。
「耳……長い。映画みたいだ」
だが、その中で、一人の新兵の目が険しくなった。
白人至上主義の思想に染まった、KKKの信者とされる男。
彼はコッコロを睨み、吐き捨てるように言った。
「こんな化け物と一緒にいるなんて……気持ち悪いな」
その声は小さかったが、周囲に届いた。
瞬間、教官の拳が男の頰を捉えた。
乾いた音が響き、新兵は床に倒れる。
教官――古参の黒人軍曹――は、低く、しかし冷たく言った。
「黙れ。お前みたいなのが、基地にいるだけで汚らわしい」
新兵は床に倒れたまま、血を拭いながら、にやりと笑った。
「へえ……殴るんだ? ここの司令官はKKKの幹部だぜ。この事が知れたら、どうなるかな?」
教官は一瞬、顔を強張らせた。
しかし、次の瞬間、再び拳を振り上げた。
「黙れと言ってるだろ」
二度目の拳が、新兵の顔面に叩き込まれた。
男は倒れたまま、動かなくなった。
周囲の隊員たちは、誰も止めなかった。
むしろ、静かに頷く者もいた。
トオルは、少し離れた場所からその光景を見ていた。
杖くんを抱きしめ、悲しげに呟く。
「……みんな、ケンカしちゃダメだよ」
コッコロがトオルの手を握り、優しく言った。
「トオル様……人間の世界にも、色々な人がいるのですね。でも、あなたの優しさが、きっとみんなを変えていきます」
トオルは小さく頷き、微笑んだ。
「うん……僕、もっとがんばるよ。みんなが、笑顔でいられるように」
講堂の外では、夏の陽光が基地を照らしていた。
ガンダムとザクの巨体が、静かに丘を見下ろす。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の偏見と憎しみを、静かに癒し続けていた。
霧の港町は、少年の優しさと、鋼の守護に包まれながら、輝き続けていた。