杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
炭火の香りが立ち上る中、大きなグリルが二台並び、あばれうしどりの分厚いステーキとダンジョンサーモンの切り身がジュージューと音を立てている。
古傷を癒してもらったお礼にと、自衛隊とアメリカ軍の合同家族BBQが開かれた。
招待状には「日本から来た魔法使い、トオルくんをお迎えします」と書かれていた。
「ようこそ、坊主!」
最初に声をかけたのは、膝の痛みを消してもらった古参の軍曹だった。
彼はトオルの頭をわしゃわしゃと撫で、大きな声で笑う。
「これが、あの魔法使いか! 小さいのにすげえな!」
トオルは杖くんを抱えたまま、丁寧に頭を下げた。
「こんにちは……今日はありがとうございます。みんなが元気になってくれて、僕も嬉しいです」
杖くんは優雅に微笑み、銀髪を軽く揺らした。
『ふふ、トオルちゃん、今日はたくさん遊んであげましょうね』
軍人たちの子供たちが、わらわらと集まってきた。
一番小さな女の子――六歳くらい――が、トオルの前に立って上目遣いに見上げる。
「ねえ……魔法、見せて?」
トオルはしゃがんで女の子の目線に合わせ、優しく頷いた。
「うん……いいよ。どんなのがいい?」
女の子は目を輝かせて、両手を差し出した。
「きれいなお花!」
トオルは女の子の小さな手に、そっと触れた。
魔力が淡く光り、紅い薔薇が一輪、ゆっくりと咲き開く。
「はい……」
女の子は目を丸くし、薔薇を両手で大事そうに受け取った。
「わあ……! 本物のお花!」
周りの子供たちが「僕も!」「私も!」と駆け寄る。
トオルは笑って立ち上がり、両手を広げた。
「じゃあ、こんなのは?」
空中に、無数の花が浮かび上がる。
赤、青、紫、黄……色とりどりの花弁がゆっくりと舞い、風の精霊シルフが小さな光の粒子となって現れた。
シルフたちは透明な羽を震わせ、子供たちの周りをくるくると回る。
「わあぁぁ!」
子供たちは歓声を上げ、シルフたちと一緒に踊り始めた。
コッコロも一緒に混ざり、長い耳を揺らしながら子供たちと手をつなぐ。
子供たちはコッコロの耳に興味津々で、そっと触ろうとする。
「耳、長い! 触っていい?」
コッコロは優しく微笑み、
「どうぞ。優しく触ってくださいね」
子供たちは恐る恐る指で耳を撫で、感触に驚く。
「ふわふわ……!」
軍人たちは、家族と一緒にその光景を見守っていた。
古傷を癒された隊員が、妻と子供たちに囲まれながら、静かに言った。
「本当に……魔法だな。あの坊主が、俺の膝を治してくれた」
別の隊員が、ビールを飲みながら頷く。
「ガンダムもザクも、イルカも犬も……全部、あの子の力か。信じられねえよ」
BBQのテーブルには、トオルが持参したあばれうしどりの肉とダンジョンサーモンが並んでいた。
軍人たちは大皿に山盛りにし、豪快に頰張る。
「この肉……ヤバいな。こんなうまいステーキ、初めてだ」
「サーモンも、脂が乗ってて最高!」
トオルは子供たちと一緒にシルフと遊びながら、時折テーブルに戻って肉を頰張る。
大食いの軍人たちを見て、目を丸くした。
「みんな、すごいたくさん食べるね……!」
軍曹が笑いながら、トオルの皿に肉を乗せる。
「坊主ももっと食え! 魔法使いは腹が減ると弱くなるんだろ?」
トオルは照れくさそうに頰を膨らませながら、肉を頰張った。
「うん……美味しい!」
夕陽が傾き、広場は笑い声と炭火の香りに包まれた。
コッコロは子供たちに囲まれ、長い耳を触られながらも、穏やかに微笑んでいる。
トオルは杖くんを抱きしめ、みんなの笑顔を見回した。
「みんな、楽しそう……よかった」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたの魔法が、みんなの心を繋いでるわ。今日も、素敵な一日ね』
アメリカの基地は、七歳の少年と、彼の優しさに満ちた魔法に、静かに温められていた。
霧の港町から遠く離れた場所で、少年の光は、確実に広がり続けていた。