杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

92 / 241
杖くんと夏のBBQ

炭火の香りが立ち上る中、大きなグリルが二台並び、あばれうしどりの分厚いステーキとダンジョンサーモンの切り身がジュージューと音を立てている。

古傷を癒してもらったお礼にと、自衛隊とアメリカ軍の合同家族BBQが開かれた。

招待状には「日本から来た魔法使い、トオルくんをお迎えします」と書かれていた。

「ようこそ、坊主!」

最初に声をかけたのは、膝の痛みを消してもらった古参の軍曹だった。

彼はトオルの頭をわしゃわしゃと撫で、大きな声で笑う。

「これが、あの魔法使いか! 小さいのにすげえな!」

トオルは杖くんを抱えたまま、丁寧に頭を下げた。

「こんにちは……今日はありがとうございます。みんなが元気になってくれて、僕も嬉しいです」

杖くんは優雅に微笑み、銀髪を軽く揺らした。

『ふふ、トオルちゃん、今日はたくさん遊んであげましょうね』

軍人たちの子供たちが、わらわらと集まってきた。

一番小さな女の子――六歳くらい――が、トオルの前に立って上目遣いに見上げる。

「ねえ……魔法、見せて?」

トオルはしゃがんで女の子の目線に合わせ、優しく頷いた。

「うん……いいよ。どんなのがいい?」

女の子は目を輝かせて、両手を差し出した。

「きれいなお花!」

トオルは女の子の小さな手に、そっと触れた。

魔力が淡く光り、紅い薔薇が一輪、ゆっくりと咲き開く。

「はい……」

女の子は目を丸くし、薔薇を両手で大事そうに受け取った。

「わあ……! 本物のお花!」

周りの子供たちが「僕も!」「私も!」と駆け寄る。

トオルは笑って立ち上がり、両手を広げた。

「じゃあ、こんなのは?」

空中に、無数の花が浮かび上がる。

赤、青、紫、黄……色とりどりの花弁がゆっくりと舞い、風の精霊シルフが小さな光の粒子となって現れた。

シルフたちは透明な羽を震わせ、子供たちの周りをくるくると回る。

「わあぁぁ!」

子供たちは歓声を上げ、シルフたちと一緒に踊り始めた。

コッコロも一緒に混ざり、長い耳を揺らしながら子供たちと手をつなぐ。

子供たちはコッコロの耳に興味津々で、そっと触ろうとする。

「耳、長い! 触っていい?」

コッコロは優しく微笑み、

「どうぞ。優しく触ってくださいね」

子供たちは恐る恐る指で耳を撫で、感触に驚く。

「ふわふわ……!」

軍人たちは、家族と一緒にその光景を見守っていた。

古傷を癒された隊員が、妻と子供たちに囲まれながら、静かに言った。

「本当に……魔法だな。あの坊主が、俺の膝を治してくれた」

別の隊員が、ビールを飲みながら頷く。

「ガンダムもザクも、イルカも犬も……全部、あの子の力か。信じられねえよ」

BBQのテーブルには、トオルが持参したあばれうしどりの肉とダンジョンサーモンが並んでいた。

軍人たちは大皿に山盛りにし、豪快に頰張る。

「この肉……ヤバいな。こんなうまいステーキ、初めてだ」

「サーモンも、脂が乗ってて最高!」

トオルは子供たちと一緒にシルフと遊びながら、時折テーブルに戻って肉を頰張る。

大食いの軍人たちを見て、目を丸くした。

「みんな、すごいたくさん食べるね……!」

軍曹が笑いながら、トオルの皿に肉を乗せる。

「坊主ももっと食え! 魔法使いは腹が減ると弱くなるんだろ?」

トオルは照れくさそうに頰を膨らませながら、肉を頰張った。

「うん……美味しい!」

夕陽が傾き、広場は笑い声と炭火の香りに包まれた。

コッコロは子供たちに囲まれ、長い耳を触られながらも、穏やかに微笑んでいる。

トオルは杖くんを抱きしめ、みんなの笑顔を見回した。

「みんな、楽しそう……よかった」

杖くんが耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……あなたの魔法が、みんなの心を繋いでるわ。今日も、素敵な一日ね』

アメリカの基地は、七歳の少年と、彼の優しさに満ちた魔法に、静かに温められていた。

霧の港町から遠く離れた場所で、少年の光は、確実に広がり続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。