杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
広大な訓練場の一角。
炎天下の下、廃車が数台並べられ、周囲を囲むように特殊部隊員たちが整列していた。
デルタフォース、SEALs、グリーンベレー……精鋭の軍人たちは、息を潜めて七歳の少年を見つめている。
トオルは杖くんを握り、静かに前に進み出た。
コッコロが少し後ろに立ち、バーゲスト、エスパークス、キー助、ナイトガンダムが少年の周囲を固める。
「みなさん……今日は、僕がダンジョンで使う攻撃魔法を見せますね」
トオルは丁寧に頭を下げ、廃車の一台を指差した。
「まず、マジックアロー」
少年が杖を軽く振る。
空気が震え、青白い光の矢が十数本、廃車に向かって飛んだ。
矢は車体に突き刺さり、金属が爆ぜるように穴を開ける。
一瞬で廃車のボンネットが蜂の巣になった。
軍人たちの間にどよめきが広がる。
「次は……マジックミサイル」
今度は光の球体が複数現れ、廃車に連続命中。
爆音とともに車体が歪み、炎が上がる。
威力は先ほどよりも明らかに上回っていた。
トオルは息を整え、続けた。
「これらは、ダンジョンでよく使われる魔法です。モンスターも同じように撃ってきます。特に三十階以降になると……」
少年は杖を高く掲げた。
「ファイアボール」
赤い火球が廃車に直撃。
爆発音が響き、車体が一瞬で炎に包まれた。
熱風が訓練場を吹き抜け、隊員たちが思わず後ずさる。
「これはゴブリンシャーマンや魔法使い型が使う火球です。直撃したら……人間は即死します」
さらに、トオルは静かに言った。
「強力な魔法になればなるほど、詠唱が必要になります。だから、魔法を使えるモンスターには必ず護衛がいます。奇襲できれば一番いいですが……長距離狙撃はまず不可能です。どうするかが、ダンジョン攻略の鍵になります」
隊長の一人が、低く呟いた。
「つまり……魔法使いを狙う前に、護衛をどうにかしないと……」
トオルは頷いた。
「そうです。護衛を倒してから、魔法使いを狙うのが基本です。でも、護衛が強いので……難しいです」
最後に、トオルは深呼吸した。
「では……召喚魔法で、グレーターデーモンを呼んでみます」
少年が杖を掲げると、空間が裂け、赤黒い巨体が現れた。
角が長く、翼が広がり、炎のようなオーラを纏った上位悪魔――グレーターデーモン。
その存在感だけで、空気が重くなる。
グレーターデーモンはトオルの前に跪き、低く頭を下げた。
「主よ……ご命令を」
トオルは優しく言った。
「今日は見せるだけだから……廃車を、壊してみて」
グレーターデーモンは頷き、巨大な爪を振り上げた。
一撃で廃車が真っ二つに裂け、金属が溶けるように崩れ落ちる。
隊員たちは言葉を失った。
トオルはグレーターデーモンを戻し、みんなに向き直った。
「グレーターデーモンの皮膚は頑丈で、伝説や神話の武器でもないと貫けません。ミスリル製でも、逆に破壊される危険性があります。だから……絶対に近づかないでください」
講堂は、完全に静まり返った。
デルタフォースの隊長が、震える声で言った。
「……ありがとう、トオルくん。俺たちは……これから、どう戦えばいいのか……」
トオルは優しく微笑んだ。
「みんなで、力を合わせてください。僕も、みんなの力になれるように、がんばります」
隊員たちは、誰もが敬礼した。
トオルは杖くんを抱き、コッコロと一緒にステージを降りた。
コッコロがそっと耳元で囁いた。
「トオル様……とても立派でした」
杖くんが優しく微笑み、
『トオルちゃん……あなたは、みんなに“生き残る”方法を教えてるわ。上位悪魔の脅威も、ちゃんと対策があるって』
基地の外では、夏の風が吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り続ける。
トオルは、講義を終えた後も、みんなの安全を祈り続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の精鋭たちに、静かに希望を分け与え続けていた。