杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
特別講堂でのトオルの講義は、静かな拍手とともに幕を閉じた。
トオルは壇上から降り、杖くんを抱きしめながら、コッコロにそっと微笑みかけた。
「みんな、真剣に聞いてくれて……よかった」
コッコロは優しく頭を撫で、
「トオル様……とても立派でした。みなさんの目が、変わりましたよ」
特殊部隊員たちは、ノートを閉じながら互いに顔を見合わせた。
デルタフォースの隊長が、低く呟く。
「これだけ詳しく教えてもらったら……もう言い訳はできねえな」
SEALsの隊員が頷き、
「三十階以降は、もう俺たちの常識じゃ通用しない。トオルくんの言う通り、護衛を突破して魔法使いを仕留めるか……それしかねえ」
講義の内容は即座に録画され、暗号化されて本国へ送られた。
ペンタゴン、CIA、FBI、国防総省……アメリカの各機関で、映像とトオルの言葉が繰り返し分析された。
CIAの会議室では、局長がテーブルを叩いた。
「トオルの講義……これを見れば、ダンジョン攻略の難易度がどれだけ高いかわかる。エルダーゴブリン種、レッサーデーモン、上位悪魔、ドラゴン……現代兵器では歯が立たない」
分析官が報告を続ける。
「特に注意すべきは、魔法使いと忍者型の即死能力。長距離狙撃は不可能。奇襲が唯一の有効手段ですが、護衛がいる以上、成功率は極めて低い」
局長は目を細め、静かに言った。
「大統領命令が出た。凄腕の女性エージェントを複数、日本に派遣する。トオルを……殺すか、篭絡するか。命令次第だ」
会議室の空気が凍りついた。
一方、軍事産業の各社にも、急ぎの国家命令が下った。
「対ダンジョン用装備の開発を最優先せよ。ミスリル輸入を視野に入れ、試作を急げ」
ロッキード・マーティン、ボーイング、ゼネラル・ダイナミクス……各社は、ミスリル刀の切断力、マカライト盾の防御性能、ポーションの再生効果を基に、新たな装備の試作を始めた。
「戦車を超える機動兵器」「魔法耐性装甲」「即死対策スーツ」……名前だけでも恐ろしい計画が、次々と動き出した。
バーゲストの調査も、試みられた。
CIAの女性エージェントが、観光客に扮して基地外周に近づいた。
しかし、バーゲストの視線が一瞬彼女を捉えただけで、エージェントは足を止めた。
妖精騎士の威圧感は、尋常ではなかった。
まるで、古代の神獣に睨まれたような感覚。
エージェントは報告書にこう書いた。
「接触不可能。威圧だけで動けなくなる。トオルの召喚獣は、人間を超えている」
トオルは、そんな動きを知らずに、基地の食堂でみんなと一緒に食事をしていた。
七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、講義聞いてくれてありがとう。僕、もっと勉強して、みんなに教えてあげるね」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……世界が、あなたの言葉を待ってるわ。でも、あなたはただ優しいだけ。それが、一番強いことよ』
基地の外では、夏の風が吹いていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
アメリカの特殊部隊員たちは、講義のノートを握りしめ、静かに決意を新たにしていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の精鋭たちに、静かに希望を分け与え続けていた。
霧の港町は、少年の教えと、世界の視線に包まれながら、輝き続けていた。