死んでいないから、生きているだけ。

※本作は、
ゆっくりゲーム実況者グループ『めめ村』の皆様による
クトゥルフ神話TRPGプレイ動画『泥男は誰だ』を元にした二次創作です。
 
※本編の重大なネタバレを含みます。

※本来チラシの裏は、ネタと習作のみとの事ですが、原作の特性上、こちらに投稿いたします。

【リプレイ動画】
iemon様
https://youtu.be/eSRPKo4bx18?si=CFUDLtqmWuzNuF7b

茶子様
https://youtu.be/yhNmTZNs8l4?si=aGBfXlXrlDYoBJZH


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共犯者へ

 菓子殿から連絡があった。

 

 

 残業から帰宅し、ざっとシャワーを浴びてからスマホを確認した墓杜は、その一文だけのLINEメッセージを既読済みにしただけで、返信もせず、本体を寝台の上に放り投げる。

 あの子は泥男にはなっていなかったのか。

 安堵と共に、喪失感が彼女を襲う。

 あれから何度も味わった感覚だ。墓杜はじっと目を閉じて、波が引くのを待った。

 

 泥男の母体を殺した。

 それは、泥男がいなくなるだけでも、大量殺人犯になるというだけでも、友人を殺めるというだけでもない。

 他者の生死を己が決めたという現実。生きていた誰かの未来を奪った事実。

 心は膿み、都合のいい言い訳ばかりをじくじくと繰り返して埒も明かぬ。

 部屋の片隅にあるPCの電源を入れ、パスワードを打ち込んで起動させる。動くのを待つ間に、飲み物と簡易的なサプリメント食を用意し、戻る。

 家元からのメッセージには、何も書かれていなかった。菓子と会うとも、話をするとも、一緒に来ないかとも。

 墓杜には、家元が菓子と会わない、よしんば押し負けて会ったり話したりしたとしても、事の真相を告げないことも分かっていた。

 ……おそらく、さして日数を置かず。自分にも、菓子から接触が試みられるだろう。

 

 姉の失踪の真実を。

 遺体がない。その細い糸を必死で掴み希望を繋いでいる彼女の姉妹とご遺族へ、知る権利を行使させずに、固く口を噤む。

 告げても信じてもらえないからではない。

 告げても、最早どうにもならないからではない。

 そうして楽になるのは、自分達だけだからだ。

 

 知ってしまえば、菓子には。

 

 きりり。噛んだ唇からぷつりとした感触がしたのを、持ってきたお茶を一気に飲み干し、なかったことにする。

 誰にも話すことができないその苦しみを。自身の選択の結果を正当化している、自身の汚さを。

 怨まれて責められて、楽になれるのはこちらだけだ。

 

 誰かを怨みながら生きる。

 友を殺した手でも、せめてその妹に、そのような未来を歩ませはしない。

 それが卑怯な大人の、ちっぽけな矜持であっても。

 

 ……ああ、こんな時、恋人でもいれば。

 己の考えに、ふっと自嘲を漏らす。

 人肌で、一時的にでも気を反らせるかもしれないなどと。

 こういう時は、何も考えず、ひたすら別のことに没頭するに限る。

 ゲームをプログラミングしよう。プログラミングはいい。彼らには、道筋と明確な正解がある。

 

 ──ふと、考える。家元はこんな日、どうしているのだろうか。

 

 泥男の件について、家元が墓杜を励ますことが不可能なように。墓杜も、家元に言ってやれることはない。

 あの時、墓杜は母体を殺すことを、是としたのだから。

 家元の決断を飛びかかって止めることなく。友を殺す選択をやり遂げたかどうか、見届けたのだから。

 母体の首に手を掛け、締めた家元の手は。──墓杜の手だ。

 浮いた話はお互い未だ影すら無いが。正直に告げれば、あの男は完全に割り切った上で、墓杜に手を出してくれるだろう。

 折れかけたもう一人の自分に熱を伝えるように。

 自身の周囲からこれ以上の死が遠ざがるように。

 

 ……それは慰めでも、同情でも、ましてや憐れみですらない。

 

 傷の舐め合いだ。

 

 軽く頭を振って、PCの前に座る。ツールを起動し、C#言語を打ち込んでいく。

 完成したら、家元へ送りつけてやろう。

 そう決めると、墓杜は、キーボードへ指を滑らせた。


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