継承される百の違和感 ~お前に渡す百物語~   作:yami_craft

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これは私が記録した、十六本目の違和感である。

語り部は、今回も私自身だ。
ただし——今回の記録は、私の「外」で起きたことではなく、私の「内」で起きたことと繋がっているかもしれない。


第十六話:同じ夢を見る人々

深夜だった。

記録ノートを閉じてから、眠れなかった。

特に理由はない。何かに追われているわけでも、不安があるわけでもない。ただ眠れなかった。こういう夜が、最近増えていた。

気がつくとモニターの前にいた。特に調べたいことがあったわけではない。いつもの習慣で画面を開き、いつもの掲示板をスクロールしていた。青白い光の中で、指だけが動いていた。

背後で蝋燭が燃えていた。蝋が溶ける微かな匂いと、頬に届くかどうかの熱。モニターの冷たい光と、その熱は、部屋の中で混ざらなかった。

スレッドのタイトルを、上から順番に流していた。

ある一行で、指が止まった。

────────────────

「全く同じ夢を見た人、集まれ」

書き込みは四日前のものだった。スレッドの最初の投稿には、夢の内容が書かれていた。

暗い部屋。

窓のない四角い空間。床も壁も、何かで覆われているが、色が判別できない。中央のやや左寄りに、背の低い棚がある。その棚の上に、蝋燭が立っている。

最初の投稿者は、蝋燭の本数を書いていなかった。

続く返信が、三十七件。

私はスクロールした。

────────────────

「同じです。暗い部屋。棚。蝋燭」

「夢の中で数えたら蝋燭が七本だった」

「床にノートみたいなものが置いてある気がした。色は覚えてないけど分厚かった」

「棚の位置が少し左にあった。その夢、私も見てる」

「右の棚の側面に、なんか剥がれかけたシールの跡みたいなのがある。あれが気になって目が覚める。夢の中でずっとそれを見ている。何のシールだったか分からないんだけど、剥がし跡の形だけがはっきり見える」

投稿者の居住地はバラバラだった。北海道、宮崎、石川、岡山——書いている人間の年齢も、職業も、おそらく何一つ共通していない。それでも描写は、細部で一致していた。

暗い部屋。窓がない。蝋燭。棚。

私は画面から少し顔を離した。

────────────────

理由が分からなかった。

同じ夢を見るということは、ある。睡眠の仕組みから説明できる部分もある。不安、疲労、何かを見た記憶——人間の脳は眠りの中でそれらを処理する。夢は似通う。テレビや動画で見た映像が、夢に現れることもある。集団的に同じコンテンツを見ていれば、夢が重なることも、あり得る。

しかし、これだけ具体的に、細部が一致するものなのか。

棚の位置が「やや左寄り」という一点まで。

私は返信をさらに読み進めた。

────────────────

三十件目に、長い投稿があった。

他の投稿よりずっと文字数が多く、夢の描写が精密だった。

暗い部屋の広さ。天井の高さ。棚が右側に置かれた「もう一つの棚」との距離感。床に積まれたノートの数、向き、角度。

私は一度、画面から目を離した。

再び見た。

また読んだ。

三度目に読んで、ようやく言葉にできた。

——これは、私の部屋だ。

棚の位置。二つの棚の間隔。床のノートの置き方。それだけではない。蝋燭の本数まで書かれていた。

十六。本数を見た瞬間、手が止まった。

私が今夜この部屋で灯している蝋燭と、同じ数だった。

────────────────

投稿日時を確認した。

四日前の午前二時十七分。

私がこの部屋で十六本目の蝋燭を灯したのは、三日前の夜だった。

順序が、逆だった。

「この夢を初めて見たのはいつか」と私はスレッドの返信を遡った。最も古い体験が書かれていたのは、三週間前の投稿だった。投稿者は「繰り返し見ている」と書いていた。「毎晩ではないが、月に何度か同じ夢を見る。今日で六回目」。

私はノートを開いた。

この部屋に初めて蝋燭を灯した日を確認した。

三週間と、二日前だった。

────────────────

長い投稿を書いた人物のアカウントを確認した。

書き込みはそのスレッドにしかなかった。アカウント自体は半年以上前に作られていたが、投稿はその一件だけだった。

プロフィールに一行、書かれていた。

「繰り返し同じ夢を見る。最初に見たのは朝だった」

私はモニターを閉じようとして、止まった。

画面の反射に、自分の部屋が映っていた。モニターの暗くなりかけた表面に、背後の空間がうっすらと浮かんでいた。蝋燭の光。棚の輪郭。

私は振り返った。

部屋は、いつもの部屋だった。棚は棚の場所にあった。

私はモニターを閉じた。

部屋が暗くなった。

十六本の蝋燭だけが揺れていた。

その揺れ方が、今夜は少し違うような気がした。気のせいかもしれなかった。それでも、しばらくの間、私は蝋燭から目を離せなかった。

今夜もまた、誰かが同じ部屋の夢を見るだろうか。

眠るのが、少し怖かった。

────────────────

翌日、一件の新しい返信がついていた。

内容は短かった。

「最初に夢を見た日の翌朝、私の知り合いが行方不明になりました。その人、夢から目が覚めてすぐに自分の部屋の蝋燭を数えていたと、同居人が言っていました。関係ないとは思いますが、書き留めておきます」

投稿日時は、今朝の五時二分だった。

────────────────

記録を終え、私は十六本目の蝋燭を消した。

十六本目の違和感を、ここに残す。

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