継承される百の違和感 ~お前に渡す百物語~ 作:yami_craft
二十八本目は、私の日記の中に、あった。
これは私が記録した、二十八本目の違和感である。
二十八本目は、私の日記の中に、あった。
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雨の音が、していた。
一日中、止まなかった。
外に出る用事が、なかった。
私は、本棚の下の段から、古い日記を、何冊か、引き出した。
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何冊あるのかも、把握していなかった。
年に一冊か、二冊。
ばらつきはあったが、二十年近く、続けていた習慣だった。
書庫代わりに使っていた、押入れの隅からも、さらに、五冊ほど出てきた。
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机の上に、十七冊が、積み上がった。
一番下のものは、表紙の角が、めくれていた。
インクの匂いが、紙に、染みついていた。
ページを、めくる感触は、いま使っているノートと、同じだった。
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一冊目を、開いた。
何月の、どんな日のことが書いてあったか、もう、覚えていなかった。
最初のページから、順に、読んでいった。
退屈な、日常の記録だった。
一日のうちで、何を食べたか。
誰と、話したか。
天気と、その日の、体調。
何の気なしに、ページを、めくっていった。
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ある一冊の、真ん中あたりで、私の指が、止まった。
ページの上のほうに、二行分の、空白が、あった。
ページ自体は、よく日に焼けて、黄ばんでいた。
だが、空白の二行だけが、ほかの部分よりも、わずかに、白い。
新しい紙を、貼ったわけでは、なかった。
インクが、消えたわけでも、なかった。
その二行分の紙の繊維だけが、よその部分よりも、白かった。
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空白の、すぐ下に、続きが、書いてあった。
——終わり、と書いた瞬間、急に、頭が、痛くなった。
私は、その上の、空白の二行を、もう一度、見た。
「終わり」という語の前と、その語そのものは、書かれていなかった。
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私は、別のページを、めくった。
別のページにも、同じ箇所が、あった。
「終わり」という語の周りだけが、二行ほど、白い。
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私は、その日記の最初から、最後まで、確認した。
七箇所、あった。
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別の冊を、開いた。
四箇所、あった。
別の冊を、開いた。
五箇所。
別の冊。
三箇所。
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十七冊、すべてに、あった。
「終わり」という語の前後だけが、毎回、白く、飛んでいる。
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私は、新しいノートを、開いた。
ペンを、取った。
──試しに、書いてみた。
新しいページの、真ん中に。
「終わり」と。
書いた直後、ペン先の上の、五行ほどが、白くなった。
書いたばかりの「終わり」の、左右の文字も、消えた。
紙の中央に、その語だけが、孤立して、残った。
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私は、立ち上がった。
声に、出してみた。
「終わり」
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──気がつくと、机の上の、時計の針が、消えていた。
文字盤の数字だけが、残っていた。
針が、なかった。
壁のカレンダーが、翌月のページに、なっていた。
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私は、外を、見た。
雨は、止んでいた。
空が、暗かった。
スマートフォンの画面を、見た。
四時間が、進んでいた。
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私は、机に、戻った。
十七冊の日記は、そのままだった。
新しいノートも、そのままだった。
私が「終わり」と書いた、ページだけが、何も書かれていなかった。
ペンも、横に、置かれていた。
書いた覚えのない、四時間が、ノートの上を、通り過ぎていた。
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私は、二十八本目の違和感を、記録しようと、ペンを、握り直した。
ノートの、別のページを、開いた。
開いたページの、最後の行に、文字が、あった。
私の筆跡で。
——もうすぐ、ここも終わる。
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二十八本目の蝋燭に、火を、灯した。
一本目の蝋燭の炎が、また、一瞬、左に、揺れた。
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その夜、私は、何度か、声を、出そうとして、やめた。
口を、閉じたまま、ノートの最後の行を、見ていた。
書き足された一行の、三文字目を、見ていた。
今、あなたが、これを読んでいる、その時間。
このページの中にも、「終わり」という語は、何度か、出てきた。
それぞれの「終わり」の、すぐ前と、すぐ後ろに、何が書かれていたか。
──あなたは、思い出せるだろうか。
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