継承される百の違和感 ~お前に渡す百物語~   作:yami_craft

28 / 28
これは私が記録した、二十八本目の違和感である。

二十八本目は、私の日記の中に、あった。


第二十八話:終わりの始まり

これは私が記録した、二十八本目の違和感である。

二十八本目は、私の日記の中に、あった。

────────────────

雨の音が、していた。

一日中、止まなかった。

外に出る用事が、なかった。

私は、本棚の下の段から、古い日記を、何冊か、引き出した。

────────────────

何冊あるのかも、把握していなかった。

年に一冊か、二冊。

ばらつきはあったが、二十年近く、続けていた習慣だった。

書庫代わりに使っていた、押入れの隅からも、さらに、五冊ほど出てきた。

────────────────

机の上に、十七冊が、積み上がった。

一番下のものは、表紙の角が、めくれていた。

インクの匂いが、紙に、染みついていた。

ページを、めくる感触は、いま使っているノートと、同じだった。

────────────────

一冊目を、開いた。

何月の、どんな日のことが書いてあったか、もう、覚えていなかった。

最初のページから、順に、読んでいった。

退屈な、日常の記録だった。

一日のうちで、何を食べたか。

誰と、話したか。

天気と、その日の、体調。

何の気なしに、ページを、めくっていった。

────────────────

ある一冊の、真ん中あたりで、私の指が、止まった。

ページの上のほうに、二行分の、空白が、あった。

ページ自体は、よく日に焼けて、黄ばんでいた。

だが、空白の二行だけが、ほかの部分よりも、わずかに、白い。

新しい紙を、貼ったわけでは、なかった。

インクが、消えたわけでも、なかった。

その二行分の紙の繊維だけが、よその部分よりも、白かった。

────────────────

空白の、すぐ下に、続きが、書いてあった。

——終わり、と書いた瞬間、急に、頭が、痛くなった。

私は、その上の、空白の二行を、もう一度、見た。

「終わり」という語の前と、その語そのものは、書かれていなかった。

────────────────

私は、別のページを、めくった。

別のページにも、同じ箇所が、あった。

「終わり」という語の周りだけが、二行ほど、白い。

────────────────

私は、その日記の最初から、最後まで、確認した。

七箇所、あった。

────────────────

別の冊を、開いた。

四箇所、あった。

別の冊を、開いた。

五箇所。

別の冊。

三箇所。

────────────────

十七冊、すべてに、あった。

「終わり」という語の前後だけが、毎回、白く、飛んでいる。

────────────────

私は、新しいノートを、開いた。

ペンを、取った。

──試しに、書いてみた。

新しいページの、真ん中に。

「終わり」と。

書いた直後、ペン先の上の、五行ほどが、白くなった。

書いたばかりの「終わり」の、左右の文字も、消えた。

紙の中央に、その語だけが、孤立して、残った。

────────────────

私は、立ち上がった。

声に、出してみた。

「終わり」

────────────────

──気がつくと、机の上の、時計の針が、消えていた。

文字盤の数字だけが、残っていた。

針が、なかった。

壁のカレンダーが、翌月のページに、なっていた。

────────────────

私は、外を、見た。

雨は、止んでいた。

空が、暗かった。

スマートフォンの画面を、見た。

四時間が、進んでいた。

────────────────

私は、机に、戻った。

十七冊の日記は、そのままだった。

新しいノートも、そのままだった。

私が「終わり」と書いた、ページだけが、何も書かれていなかった。

ペンも、横に、置かれていた。

書いた覚えのない、四時間が、ノートの上を、通り過ぎていた。

────────────────

私は、二十八本目の違和感を、記録しようと、ペンを、握り直した。

ノートの、別のページを、開いた。

開いたページの、最後の行に、文字が、あった。

私の筆跡で。

——もうすぐ、ここも終わる。

────────────────

二十八本目の蝋燭に、火を、灯した。

一本目の蝋燭の炎が、また、一瞬、左に、揺れた。

────────────────

その夜、私は、何度か、声を、出そうとして、やめた。

口を、閉じたまま、ノートの最後の行を、見ていた。

書き足された一行の、三文字目を、見ていた。





今、あなたが、これを読んでいる、その時間。

このページの中にも、「終わり」という語は、何度か、出てきた。

それぞれの「終わり」の、すぐ前と、すぐ後ろに、何が書かれていたか。


──あなたは、思い出せるだろうか。


評価・ブックマーク・コメントで感想を教えてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。