継承される百の違和感 ~お前に渡す百物語~ 作:yami_craft
四十一本目は、コンビニから、来た。
由香から、連絡が来た。
「夜勤仲間に、変な話をする子がいるんです」
「コンビニで、働いている子です」
それだけだった。
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深夜、その人は、来た。
二十四歳。コンビニの夜勤バイトを、していると言った。
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「いや、これ、マジで、変なんですよ」
千尋は、開口一番、そう言った。
眠そうな声だった。だが、目だけは、はっきりしていた。
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「普通じゃないですよね、って、思って」
「でも、誰に、言えばいいか、分からなくて」
「由香さんに、話したら、観測者さんのこと、教えてくれて」
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千尋は、バイトを、3つ、掛け持ちしていた。
コンビニ、ファミレス、配送の手伝い。
深夜二時から、朝八時まで、コンビニのレジに、立つ。
「眠いです、いつも」
そう言って、千尋は、笑った。
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「先週の、火曜日です」
千尋は、語り始めた。
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深夜二時を、過ぎたころだった。
店には、千尋一人だった。
蛍光灯の音が、細く、鳴っていた。
冷蔵ケースのモーターが、低く、回っていた。
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自動ドアが、開いた。
男が、入ってきた。
灰色のパーカー。黒いズボン。
無言で、おにぎりの棚に、向かった。
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梅のおにぎりを、ひとつ、取った。
レジに、来た。
「おにぎり、ください」
千尋は、レジを、打った。
男は、財布から、百円玉を、出した。
レシートを、渡した。
男は、何も言わずに、店を、出た。
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「で、3分後くらいです」
自動ドアが、また、開いた。
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同じ男だった。
灰色のパーカー。黒いズボン。
同じ歩き方で、おにぎりの棚に、向かった。
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「あ、さっきの人だ。忘れ物かな、って思いました」
だが、男は、また、梅のおにぎりを、ひとつ、取った。
レジに、来た。
「おにぎり、ください」
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誰にでも、ある感覚だった。
コンビニで。電車で。
「あ、さっきも見た気がする」という、
「でも、まさかね」で、誰もが、済ませてきた感覚。
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同じ口調だった。
同じ抑揚だった。
千尋は、レジを、打った。
男は、財布から、百円玉を、出した。
財布の開き方も、百円玉の出し方も、さっきと、同じだった。
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「気のせいかな、と思いました」
「でも、3回目が、来たんです」
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自動ドアが、開く音が、また、鳴った。
千尋は、顔を、上げた。
同じ男が、また、入ってきた。
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「もう、笑うしか、ないですよね」
千尋は、そう言って、笑った。
笑い方が、少し、強張っていた。
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男は、3度目も、梅のおにぎりを、取った。
レジに、来た。
「おにぎり、ください」
千尋は、何も、言わなかった。
黙って、レジを、打った。
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レシートが、印刷された。
渡そうとして、手が、止まった。
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印刷時刻が、「02:17:33」だった。
まるで、時計の針が、そこだけ、置き忘れられたように、動いていなかった。
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「最初の、レシートも、確認しました」
「02:17:33」
「2回目のレシートも」
「02:17:33」
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3枚、全部、同じ時刻だった。
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「時間が、進んでなかったんです」
「3回、来たのに」
「時計を見たら、ちゃんと、時間は、進んでて」
「でも、レシートだけ、止まってる」
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私が訊いた。
「男の、様子に、違いは、ありましたか」
千尋は、少し、考えた。
「財布です」
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「1回目の、財布は、薄かったんです」
「2回目は、ちょっと、厚くなってて」
「3回目は、一番、厚かったです」
「中身が、増えてる、気がしました」
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「スマホも、ポケットから、ちらっと、見えたんですけど」
「1回目は、画面が、何も、表示されてなくて」
「3回目は、待ち受けが、違う写真に、なってました」
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「同じ人なのに、中身だけ、変わってく感じ、でした」
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「男は、3回目、何か、言いましたか」
私が、訊いた。
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千尋は、レシートを、受け取ろうとしない男の手を、思い出すように、少し、間を、置いた。
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「レシートを、渡そうとしたら」
「受け取らずに」
「私を、見て」
「『もう、終わりにしよう』って」
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「それだけ、言って、出ていきました」
「それから、来てません」
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「誰に、言ったのか、分からないんです」
「私に、なのか」
「自分に、なのか」
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「あの、これ、まだ、続きがあって」
千尋は、言葉を、続けた。
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「翌日の、シフトで」
「前日の、売上データを、確認したんです」
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レジの画面に、時刻表示だけが、点滅していた。
「02:17」
そこだけ、点滅していた。
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「レジの、ログを、見たら」
「1件しか、記録されてなくて」
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「3回、レジを、打ったのに」
「1件分しか、ない」
「2件、消えてました」
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「どっちが、消えたのか」
「1回目と2回目なのか」
「2回目と3回目なのか」
「分からないんです」
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「次のシフトで、また、来るのか」
千尋は、そう言って、肩を、すくめた。
笑いは、もう、消えていた。
目だけが、覚めていた。
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私は、四十一本目の蝋燭に、火をつけた。
炎が、また、右に、揺れた。
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千尋が、帰った後、私は、記録を、書いた。
消えた、二件。
最初と、二回目が、消えたのか。
二回目と、三回目が、消えたのか。
答えは、まだ、ない。
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残り、五十九本。
【次回予告】
百物語 第四十二話:重なる記憶
聞いた話が、自分の記憶になっている。
目を閉じると、404号室の鏡が見える。
由香の夫が、こちらを——振り向いた。