継承される百の違和感 ~お前に渡す百物語~   作:yami_craft

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これは私が記録した、五十九本目の違和感である。

今回も、語り部は、いない。

記録したのは、消えていった、人々のことだ。


第五十九話:消えた人々

五十八本の記録の中に、語り部ではない人々が、何人も、いた。

 

一本目の、逆行する時計を見た男に、公園で、種明かしを、した老人。

 

二本目の、誰もいない部屋の、足音を聞いた、少女。

 

十九本目の、深夜の、常連客を、覚えていた、店主。

 

四十三本目で、美咲が、取材した、消えた同僚たち。

 

古いノートを整理していて、その名前の一つに、指が、止まった。

 

一人ずつの顔を、思い出そうとした。

 

はっきり浮かぶ、顔もあった。

 

輪郭しか、残っていない、顔もあった。

 

礼を、まだ、伝えていなかった。

 

そのことに、今更、気づいた。

 

そう、思っただけだった。

 

 

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一本目の、老人から、始めた。

 

名刺は、なかった。

 

住んでいた、公園の名前だけを、頼りに、探した。

 

平日の午前、公園には、犬を連れた人が、何人か、いるだけだった。

 

管理事務所の窓口に、聞いた。

 

「その名前の、常連さんは、いませんね。ベンチも、去年、撤去しています」

 

写真は、なかった。記憶を頼りに、似顔絵を、描いて、見せた。

 

「見覚えが、ないです」

 

近くの、喫煙所にいた、別の常連にも、聞いた。

 

首を、横に振られた。

 

別の手がかりを、探した。

 

見つからなかった。

 

 

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二本目の、少女に、移った。

 

住所は、記録に、あった。

 

区役所に、電話で、問い合わせた。

 

個人情報を理由に、断られた。

 

正当な理由があれば、住民票の除票は、閲覧できると、言われた。

 

理由を、聞かれた。

 

答えられなかった。

 

代わりに、地図アプリで、その番地を、確かめた。

 

表示されたのは、更地に、建つ、新しい駐車場だった。

 

十九本目の、店主。

 

店は、あった。看板も、看板の文字の、色褪せ方まで、記憶と、同じだった。

 

だが、店主は、代替わりしていた。

 

「先代は、五年前に、引退しました。連絡先は……分かりません。年賀状も、去年、返ってきましたし」

 

一人、確かめる、たびに。

 

また、一人。

 

同じことが、続いた。

 

 

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部屋に戻り、紙を、出した。

 

名前を、左に、並べた。

 

右の欄に、確認できたことを、書く欄を、作った。

 

書くことが、なかった。

 

一件確かめるたびに、空欄が、一つ、増えていった。

 

十人。二十人。

 

五十八本の記録に、語り部以外で、名前が、一度でも出た人物を、数えた。

 

三十一人、いた。

 

うち、二十九人が、住所も、連絡先も、たどれなかった。

 

リストを作るのに、三日、かかった。

 

親族に行き着いた数件も、答えは、同じだった。「もう、何年も、連絡を取っていません」

 

 

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残る、二人だけは、確かめが、取れた。

 

一人は、電話で、話せた。

 

もう一人は、メッセージが、返ってきた。

 

会って、確認したいと、伝えた。

 

書きながら、指が、止まった。

 

三十一人のうち、二十九人は、会う前から、消えていた。

 

この二人は、まだ、消えていない。

 

会いに行けば、確かめられる。

 

会いに行けば——確かめた瞬間、この二人も、同じ、三十一人目に、なるかもしれない。

 

行かなければ、何も、分からないままだった。

 

行けば、分かると同時に、失うかもしれなかった。

 

結局、二人とも、理由も告げずに、断った。

 

会わずに、済んだ。

 

代わりに、写真を、探した。

 

古いスマートフォンを、充電し直してまで、探した。

 

一緒に写った写真、通話の録音、何でもいい、直接会った証拠が、欲しかった。

 

会った、という記録は、結局、一件も、なかった。

 

三十一人、全員、最後に、私に、何かを伝えた手段は、電話か、文字だった。

 

顔を、見て、話した記録が、一つも、ない。

 

 

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紙を、見下ろした。

 

三十一人分の空欄が、部屋の光の下で、並んでいた。

 

ふと、思いついた。

 

語り部の、七人は、どうだろう。

 

美咲の、記事は、ある。署名記事が、七年分。

 

陸の、大学の、在籍記録も、ある。休学の届出まで、残っている。

 

凛の、通う高校も、実在する。

 

由香の、勤務先の、病院も、電話帳に、載っている。

 

桐生の、元の、勤め先も、確認できた。

 

千尋の、コンビニも、今日も、開いている。

 

存在した、証拠は、ある。七人とも、確かに、ある。

 

だが、私と、直接、会っている写真は。

 

映像は。

 

第三者が、同じ部屋に、いたという証言は。

 

自分のスマートフォンの、写真フォルダも、遡った。

 

七人との、集合写真は、一枚も、なかった。

 

誰かに撮ってもらった、という記憶さえ、なかった。

 

バックアップの、クラウドも、調べた。同じだった。

 

一枚も、なかった。

 

 

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七人とも、私とは、電話か、対面のはずだった。

 

対面の、記憶は、確かに、ある。声も、匂いも、覚えている。

 

だが、その場に、私以外の、第三者が、いたという記録は、どこにも、なかった。

 

三十一人と、同じ、形をしていた。

 

 

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書きながら、気づいたことが、あった。

 

言わずには、いられなかった。

 

三十一人の、消えた日付を、一つずつ、記録した日付と、突き合わせた。

 

十九本目の店主は、話を聞いた三日後に、消息が、途絶えていた。

 

二本目の少女は、記録した、翌々日には、もう、家ごと、なくなっていた。

 

他の二十九人も、日数に、差はあれ、同じ順番だった。

 

全員、私が記録に、書いた日から、数日のうちに、連絡が、取れなくなっていた。

 

先に、消えたのではない。

 

書いてから、消えていた。

 

その順番に、気づかなかったことに、しておきたかった。

 

気づいてしまった。

 

 

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紙を、最初から、もう一度、読み直した。

 

三十一人の名前と、七人の名前が、同じ紙の上に、並んでいた。

 

彼らと、私は、本当に、会ったのか。

 

答えは、出なかった。

 

出ないまま、五十九本目の蝋燭に、火を、つけた。

 

炎が、右に、揺れた。

 

二十二話、連続だった。

 

三十一人分の、名前を書いた紙を、蝋燭の、隣に、置いた。

 

光が届くたび、紙の上の名前の一つが、影に、隠れた。

 

隠れる名前は、決まって、右の欄が、空白のままの、名前だった。

 

指で、その名前を、なぞった。

 

指の下だけ、光が、届かなかった。

 

 

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残り、四十一本。

 

 

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深夜、陸から、メッセージが、届いた。

 

「全データを、解析しました」

 

「明日、話します」

 

「でも——聞く、覚悟が、ありますか」

 




一緒に写った写真を、探してみたことは、あるだろうか。

大切な人ほど、なぜか、一枚も、見つからないことがある。

会った記憶は、確かに、ある。

声も、匂いも、覚えている。

なのに、証拠だけが、どこにも、ない。

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【次回予告】

百物語 第六十話:フラクタルの真相

全ての記録を、分析すると。

恐ろしい、真実が、見えてくる。

「この記録は、一人の人間が、死ぬ直前に、生成した——七つの意識の、残留データです」
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