継承される百の違和感 ~お前に渡す百物語~ 作:yami_craft
今回も、語り部は、いない。
記録するのは、七という、数字についての疑いのことだ。
机の前に、座っていた。
窓の外は、暗かった。六十六本目の夜から、二日、経っていた。
デスクライトの、光の輪の外に、部屋の残りが、沈んでいた。
美咲、凛、桐生、陸、由香、千尋。
名前を、順に、ノートの新しいページに、書き出した。字は、いつもの、自分の字だった。
六十三本目の夜、美咲との通話が、二つに、分かれていたことを、思い出した。かけた記憶と、受けた記憶。呼び出し音の数まで、両方の記憶で、一致していた。ノートには、違う筆跡の、二行が、並んでいた。
六十五本目の夜、記憶の、最初の一秒が、どれも、欠けていたことも、思い出した。由香の廊下も、凛の教室も、桐生の山道も、語られていない細部まで、一人称の映像として、覚えていた。「分ける」という言葉のほうが、先に、意味を失った。
二つとも、答えを、出さずに、終わっていた。棚上げにしたまま、次の記録へ、進んできた。
答えを、出す気になったのは、今夜が、初めてだった。
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七人の名前の下に、一行、加えた。
「そして、私」
書いてから、しばらく、字を、見ていた。
七つ、並んだ。縦に、等間隔で。
もし、この七人が、全て、自分の、人格の、断片だったとしたら。
考えとして、初めてでは、なかった。ノートを、めくれば、似た疑いは、何度も、出てきていた。六十一本目の、名前の起源。六十三本目の、二つの筆跡。そのたびに、疑いは、答えの手前で、止まっていた。
だが、今夜は、疑いのまま、留めておく気に、なれなかった。
ペンを、置いた。
「違う」
声に、出そうとした。
出なかった。
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喉の、奥が、動かなかった。
舌が、上顎に、ついたまま、離れなかった。
もう一度、試した。
息だけが、出た。かすれた、白い息のような、形のない音だった。言葉には、ならなかった。
喉の奥から耳の奥まで、鼓動だけが駆け上がっていく感覚が、諦めたあともしばらく、消えずに、続いた。
三度目、諦めた。
指で、喉に、触れた。震えては、いなかった。ただ、動かなかった。喉仏の、あたりを、なぞった。感覚は、あった。動かす、命令だけが、届いていなかった。
深く、息を、吸った。吐いた。
もう一度、口を、開けた。
言葉は、来なかった。
沈黙が、部屋を、満たした。エアコンの音さえ、止まっていた気が、した。
声が、駄目なら、字で、と、思った。
ペンを、取り直した。
「違う」
紙の上には、書けた。迷いなく、いつもの筆圧で、書けた。
だが、書いた文字を、見ても、何も、変わらなかった。声にならなかった一言と、紙の上の一言は、同じ形をしているのに、重さが、違った。
否定は、できた。否定した実感だけが、来なかった。
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顔を、上げた。
机の端に、蝋燭が、並んでいた。
六十六本、灯っている。芯の高さは、ばらばらで、蝋の垂れた跡が、それぞれ違う模様を、作っていた。
その中に、七本だけ、目で、追える蝋燭が、あった。
一本目。十本目。十五本目。二十本目。三十本目。四十本目。五十本目。
自分と、美咲と、凛と、桐生と、陸と、由香と、千尋。それぞれが、初めて、記録に、現れた夜の、蝋燭だった。
この並びを、意識して見たのは、初めてだった。今まで、七本は、ただの、六十六本の一部だった。
一本目から、五十本目まで、順に、見た。
一本目の炎は、小さく、まっすぐ、立っていた。十本目は、少し、揺れていた。十五本目、二十本目、三十本目、四十本目、五十本目——
見終えた、そのとき——
息を止めたまま、瞬きも忘れて、七つの光が、同じ角度のまま静止し続けるのを、数えられないほど長く、見ていた。
七本の炎が、同時に、同じ角度に、傾いた。
右でも、左でもなかった。
自分の方へ、傾いた。
他の、五十九本は、動いていなかった。
風は、なかった。窓は、閉まっていた。カーテンも、動いていなかった。
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しばらく、動けなかった。
七本の炎は、傾いたまま、揺れも、戻りも、しなかった。細い、七本の光の筋が、同じ方向を、指したまま、静止していた。
傾いた方向が、答えなのか、警告なのか、分からなかった。
分からないまま、それを、ノートに、書いた。
「七本、同じ方向。私の方へ」
字が、いつもより、小さかった。
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スマートフォンを、取った。
六人の名前を、同時に、選んだ。グループではなく、一人ずつ、同じ文面で。
一行だけ、打った。
「あなたは、私ですか」
送るべきかを、考える時間は、なかった。考えれば、送れなくなる気が、した。
指が、送信の上で、少し、止まった。
押した。
既読は、すぐに、ついた。六件とも、ほぼ同時だった。
返信を、待つ間、時計を、何度も、見た。針は、動いているのに、進んでいる感じが、しなかった。
返信は、来なかった。
画面を、伏せて、しばらく、待った。伏せた画面が、光るたびに、体が、先に、反応した。だが、光っていたのは、時刻の表示だけだった。それでも、来なかった。
送らなければよかった、とは、思わなかった。ただ、送ったことを、取り消せない事実として、意識し続けていた。
その夜は、それきりだった。
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翌朝、六件、届いていた。
同じ時刻に、届いていた。分の単位ではなく、秒の単位まで、揃っていた。
一件ずつ、開いた。
美咲も、凛も、桐生も、陸も、由香も、千尋も——
同じ、六文字だった。
「分かりません」
句読点の、位置まで、同じだった。
改行の、数まで、同じだった。
この言い回しを、どこかで、見た気が、した。
自分の、ノートの、どこかだった。
ページを、めくって、探したが、見つからなかった。どこだったかは、思い出せなかった。
六人の返信を、並べて、もう一度、読んだ。
六つの画面が、同じ、六文字を、映していた。
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六十七本目の蝋燭に、火を、灯した。
炎が、右に、揺れた。
三十話、連続だった。
七本の傾きは、消えていた。六十六本の列に、戻っていた。
ノートを、閉じる前に、もう一度、七つの名前を、見た。
「そして、私」
その一行だけ、他の六行より、少しだけ、字が、薄かった。
書いたときは、気づかなかった。
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残り、三十三本。
cinematic photograph, dim quiet room at night, a long row of many
burning candles of varying heights on a dark wooden desk, most
flames standing upright or leaning uniformly to the right, but
seven distinct candles scattered irregularly along the row all
leaning sharply toward the camera at the exact same steep angle,
clearly different from all the others, an old leather notebook
lying open nearby showing seven short handwritten lines rendered
as abstract illegible ink marks, a smartphone lying face down
beside the notebook, deep cold shadow beyond the candlelight,
shallow depth of field, fine film grain, muted cold palette with
warm candle accents, quiet dread, uncanny synchronization,
psychological horror mood, photorealistic, 35mm cinematic
Negative:
face, person, figure, silhouette, hands, full body, multiple
figures, readable text, legible letters, japanese characters,
cartoon, anime, bright cheerful colors, daylight, watermark,
real person likeness, gore