「———忌まわしいとは言わん、どう言う過去だからな」
「お前は、一体———!?」
「悪いが、
「うぉっしゃぁ〜!たっだいまぁ〜!」
目からスマコンを取り外し、勢いよく布団から飛び上がって跳ね起きて
わたしはぐるりと部屋を見回して
「うるっさ……!今度は何よ……!」
「いろはー!いろは〜!かぐやね〜、めっちゃ配信盛り上げたから」
「はいはい、勉強中だから静かにね」
「えぇ〜?つれなーい、ねー
コンロの前で、シャカシャカとフライパンをかき混ぜて、ジュウジュウと、鼻をくすぐる肉の脂の焼ける匂いを立てて、白髪に金色に光瞳を向けて、青年の姿のかわいい弟はため息をついてくる
「かぐや姉さん、少しは静かにしなよ、あとご飯できるので、ちょっとだけ待っててくださいね……姉さんに任せるとすぐ大金使おうとするし、 母さんに任せれば栄養ギリギリで余裕を考えないし」
「うぐっ」
「ぐっ、それは本当にその通りで……」
敦のその言葉に、私たちはなすすべもなく胸を貫かれ、抵抗する言葉を奪われてしまう
いやまぁ、間違いじゃないけどぉ……かぐやちゃんてきには、美味しけりゃ良い……的な?
「ほら、母さんも勉強道具片付けて……姉さんは机出して鍋敷引いて」
「え、でも後10ページ残ってるから———」
「一日最低限を決めてる目標ラインは超えてるでしょ、ご飯冷めちゃうから」
「はいはーい!ご飯も私が注———」
「姉さんに任せると勝手に大盛りにするから却下、明日の分もまとめて炊いてるんだから無駄遣いしないの」
「えぇ〜〜?」
敦の言葉にプンスコと腹を立てながらも、渋々机を引っ張って、カタカタと広げ、鍋敷を置く
その上に、肉と野菜の炒め物が、ソースで和えられて出てくると
「わっひゃ〜!敦のご飯って美味しいからねぇ〜、もうず〜っと食べてたいぐらい!」
「お世辞はいいから……そもそも、経験も何もないから、出来栄えは良くないし、その点は姉さんの方が上手だよ、金管理がまだまだだけど」
「ぐぎぎぃ〜……!」
「ま、その点で言えば確かに、敦のお陰で助かって———」
「で、母さんは母さんで栄養価まじもう限界ギリギリな食生活を続けてるから頭を抱えるけどね」
「ッスゥー……それに関してははい、マジですんません……」
「……僕だってお金稼ぎたいんですから、二人もしっかりしてくださいよ?」
「だいじょ〜ぶ!ふっふっふ……こうなると思って……」
私は懐からスッと小さな小箱を取り出して
敦は小首を傾げて、彩葉は額に手を当てくらりと倒れかけてしまう
「じゃじゃーん!敦用のスマコンでーす!」
「……はい?僕用の、スマコン?」
「か〜ぐ〜や〜?」
「こ、今回は配信で頂いたふじゅ〜から……」
「……私は良いけどさぁ、視聴者からのスパチャをそんな風に使って良いの?」
「それは……ですねぇ〜……かぐやちゃん、まずった?」
焦るように冷や汗を流し、目を流して逸らしていれば、
呆れたようにため息を吐く声が聞こえる
「もう買っちゃったもんは仕方ないでしょ?敦、お礼言っときなさいよ?」
「……まぁ、姉さんが、思いつきで色々やるのは、今に始まった事じゃないし……とりあえず、ご飯食べたらですよ?」
「わーい!!!あとで!あとでツクヨミね!?」
「はいはい、良いからかぐや、ご飯食べるよ」
「はーい!!!」
スマコンを傍らに置きながら、いつもより上機嫌になってしまう
楽しみだな〜!
敦にも、いろんな所案内してあげなきゃ———!!
食事を終え、シャカシャカと水音を立てながら、食器を洗い
水切りカゴに食器をカタカタと片付けてゆく
「敦〜、いろは〜!はやくはやく〜〜!!」
「はいはい、あとちょっとだから」
「姉さん待ってくださいって……」
タンタンと机を叩きつつ、ぶーっと頬を膨らませるので
手を軽く拭き、軽く歩き、机の上のスマコンを拾い上げる
「それで、目に入れたら———」
「そうそう、こうやって目に入れて、軽く瞬きを……」
母さんの言うとおり、目にゆっくり取りれて、馴染ませるように瞬きをすると、小さく視界が光り輝いて
「うん、それで目を閉じれば入れるから……私たちは、入り口前で待っとくからね〜」
「早く来てね!?待ってるからね!!」
「はいはい、姉さん興奮し過ぎだって」
楽しそうに鼻息を荒くしている姐さんを尻目に
姉さんと僕で、母さんを挟んで横になる
そしてゆっくりと目を閉じて———
黒い空、何か懐かしい感じのする空を抜け、周囲にしぶきが飛び上がる
周囲や夕焼けに染まる中、夜闇のように黒い服を纏い
光のように白い髪をたなびかせた女性が現れて———
「太陽が沈んで、夜がやってきます」
厳かな雰囲気の中で彼女がそう口にする
満点の星空が煌めき、動き
だが、僕の視界は彼女に固定されて———
「……
「———おやぁ〜?私を、何処の馬とも知れぬお姫様と勘違いなされてますなぁ〜?」
「っぁ!いえ!すみません!!……なにか、こう……一瞬、懐かしく思えちゃって……」
何故かわからないが、口をついて出てしまった言葉に、思考が混乱しながらも、目の前の彼女が手を掴み、暖かな手でにぎにぎと揉み込んでくる
「うん、やっぱりデータが破損してるね……でも良かった、来てくれて……」
「えぇと……?」
頬を少し染めながら、笑顔で何かを呟く彼女に目を向ける
髪ではない、手でもない、その瞳、柔らかな笑みには、やはり何処か懐かしさを覚えてしまって———
「おおっと!ごめんね……おっほん!仮想空間ツクヨミへようこそ!私はツクヨミの管理人の
「よろしくな!虎っころ!」
小さな毛玉のような、白い丸い何かが、彼女———ヤチヨの背を這って現れて
厭味のような言葉を吐いてくる
「ど、どうも、僕は
「よろしく〜!☆」
「よ、よろしくお願い……します?」
元気よく彼女に腕を振らされて、困惑しながらも腕を振るう
触覚も再現されているのか、緩やかな振動を腕に受けて、ツクヨミって凄いな……と感じていれば
「さて、君にはこれからツクヨミに入ってもらうんだけど———その格好じゃぁつまらない!」
「こ、これは……!」
彼女の手が離れ、ウィンドウが表示される
そこには大量の服のプリセットが入っていて……
学生服や着物、獣の耳も多種多様に入っていた
どれを選ぼうかと悩んでいると
「私のお勧めは〜!これっ!☆」
そう言って彼女がウィンドウを操作してそこに映っていたのは
白いシャツに黒いズボン、革ベルトにと大正から近代的な服装を纏い、頭には白い虎耳をつけていて、白黒の虎尾をつけている、青年の姿が映っていた
「これは……何というか———」
「地味だな!全くヤチヨのセンスはこれだから……!」
「FHU〜SHI〜〜???ちょっとお話ししようか〜??」
「ひぇっ!」
叫び声をあげ、ヤチヨの身体から飛び離れて、僕の肩に乗り込んでくる
その体に、優しく手を這わせて軽く撫でて
「大丈夫ですよ……それに、僕はその服、とっても素敵だと思いますよ」
「———っ……でっしょ〜☆ヤッチョは自信満々なのです〜☆」
「ケッ、調子に乗りやがって……ま、コイツが言うんなら悪くないかもな」
そうFHUSHIが悪態をついて、元気な笑顔を取り戻した彼女の肩に乗る
その最中、彼女が僕の両手を取って、勢いよくぐるぐると、2人して回りながら巨大な鳥居へ近づいて
「それじゃぁツクヨミへ!」
「いってらっしゃぁ〜い☆!♪」
「ちょっ、ま———!」
勢いよく放り投げられて
体が背から鳥居へと飛び込んだ———
「———どうか楽しんでね、
「………らしくない顔だな、姫よ」
私が鳥居の向こうへ、感傷に浸る顔をむけていたら
拗ねちゃったのか嫉妬心か、静かな声で彼が話しかけてくる
「あららぁ〜?白虎くんは過去の自分に嫉妬しちゃったのですかぁ〜?♪」
「白虎ではない、黒虎だと言っただろう……ま、古臭い鏡を見て、嫌気がさしただけだ
そう言いながら、地面を踏み締める
空間が一滴の水滴によって移り変わり、反射が変わるように元の部屋へと戻る
私もゆっくり座り直す
「……もうそろそろですなぁ〜……イサミン、恨むかなぁ〜……」
何気なく、予定調和の未来を思い返して、顔を傾けてそう言って
……彼は元の白い虎の姿に戻り、私に纏うように横になる
その体に思い切り頭を預けて………
そう感傷に浸ってほおが緩んでしまう
「……奴は恨まないだろう、良くも悪くも根は優しい人間だ……姫……ヤチヨの思い出あれば、受け入れる度量はあるはずだ」
「おやぁ〜?それはご自身の経験からの談ですかなぁ〜?」
「そうだとも、
イタズラっぽい笑みでそういえば、静かな顔で、されども確かな信頼を持って、彼はそう言ってくれる
大きな尻尾を私に預け、その尻尾を抱き抱える
彼がそう言ってくれるのなら、きっと安心していいのだろう
「———ねぇ、
「………なんだい?
ありし日の、今はもう遠い昔のあの頃を思い出して
そう名前を呼ぶ、そうすれば、彼も優しい声色で、優しく私にそう返してくれて———
「———敦は、居なくなろうと、しないでね?」
「———さてな」
「あーー!!もうすぐそう言うこと言う〜!」
私の言葉を煙に巻くように、敦はそう言って尻尾を動かして、私の手から離れてしまう
それに怒って見せれば、敦は素知らぬような顔で、ぷいと顔を動かすので
私はぎゅーっとその体に抱きついてみせる
「……わがままな姫なのは相変わらずか」
「ヤッチョが我儘なのは変わらずですとも〜」
そう笑いながら、この手だけは絶対に離さない………
だって、そう———
失うと言うのは、怖いものなのだから———