東方×ホロライブ(幻想郷の人妖やホロメンが現代入りしたり幻想入りしたり)   作:Sano / セイノ

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異界の存在を知った紅魔館の主レミリア・スカーレット。
彼女は侵略を企むも、それを阻む存在と邂逅することになる話。
そんな幻想郷の人妖たちの日常の一コマ。楽しんでいただければ幸いです。



レミリア・スカーレットの異世界侵略

湖畔に聳《そび》える赤よりも赤い深紅の洋館。

そのバルコニーで吸血鬼の少女は、頬杖を突いたまま啜っていたティーカップを口から離した。そして、対面で本に視線を落としている友人にいつもの如く軽口を向ける。

「我が友であり聡明なる魔女殿よ、何か面白い話はないかしら?」

 

 

久しく異変を欠いた幻想郷の人妖は今日も平和を謳歌し、その陰で一部の者たちは目下の退屈を嘆くのである。そんな一人が紅魔館の主である幼き吸血鬼レミリア・スカーレットであった。

 

 

幼女の投げやりな言葉にも、向かいのパチュリー・ノーレッジはページを捲る手を止めないまま応じる。

「お嬢様が求める愉快譚は、日がな一日、書に向き合っている私に聞くことではないわね」

「それはそうか。今日は愉快な運命が待ち受けているように感じたのだけど……」

つまらなそうに鼻を鳴らすレミリアに、パチュリーははたと顔をあげ〝そういえば――〟と眠たげな視線を向ける。

 

 

「――今日、私の書斎に侵入者《ネズミ》が入ったのよ」

「また魔理沙が魔導書を持ち出して行ったのでしょう。それこそいつものことじゃない」

肩を竦める吸血鬼に、紫艶の豊かな髪を揺らして魔女は笑みを深めた。

「いいえ、これはレミィ好みの展開。現れた二人は幻想郷とは異なる世界、異界からの来訪者だったのよ。その二人にはお帰り頂いたけど、まだ世界同士の境界は繋がっているわ」

 

 

はたしてレミリアの目が歓喜に大きく見開かれる。

「……それは私も幻想郷からその異界とやらに行けるっていうことよね?」

「そうね」

テーブルにばんッと勢いよく手をついて幼い吸血鬼が立ち上がると、カップの紅茶が揺れて零れた。だが、そんな些細なことなど気にせず、魔女に向かって幼女は声高く吼えたのである。

「面白くなってきたわ、パチェ! 早速行ってみましょう!」

 

 

「勝手にいきない。私は研究で忙しいのよ」

誘いをすげなく袖にする友に、〝この引きこもりめッ〟とレミリアは不平を投げつけた。とはいえ、パチュリーが出不精なのは常のこと。

吸血鬼の幼女は、自慢の従者を呼びつけるのだ。

 

 

「咲夜」

レミリアの言の葉が虚空に溶けきる前。

いつの間にやら現れたメイドが主に向かって〝――お傍に〟と瀟洒に一礼する。彼女こそは紅魔館のメイド長、十六夜咲夜であった。

 

 

 

 

×    ×    ×

 

 

 

 

訪れた異界は幻想郷に比すれば、天を衝くような高層建築に満たされていた。

まるで墓石のように櫛比《しっぴ》し、夜空へとその背丈を競うかのように伸ばしているのである。その一つの頂、ビルの屋上から血色の瞳で地上を睥睨《へいげい》して、レミリアは愉快そうに口の端を吊り上げる。

 

 

「見てみなさい、咲夜。あんなにも無防備な人間ばかりがうじゃうじゃといるわ。まるで妖に狙って下さいと言わんばかりじゃないの」

「この地には博麗の巫女のような者がいないのかも知れませんね」

楽し気な主の横で、従者は冷静に目を細める。

 

 

博麗の巫女――幻想郷における妖怪退治屋にして、人と妖のバランサー。当代の巫女、博麗霊夢がいるからこそ、幻想郷の妖怪たちは強大な勢力へはなり得ず、等しく里の人間たちも妖への脅威を感じながら暮らすしかないのである。早い話が幻想郷を守護する大結果に綻びを生むようなやんちゃをすると、人妖まとめて霊夢にしばき倒されるのである。

 

 

――本来ならば、博麗大結界の働きにより幻想郷と異界が交わることはない。

 

 

だが何の因果か、幻想郷はVtuber文化が真っ只中の日本に繋がってしまったのである。

もしこれが異変であれば、すぐにでも博麗の巫女が飛んでくる。だがそうなっていないということは、逆説的に博麗大結界は十全に働いており、差し当たって博麗霊夢が邪魔をしてこないということでもあった。

 

 

「それは好都合ね。霊夢がいないならやりたい放題できるわ。そうだ、この世界を私が支配し、統べるなんてどうかしらね」

吸血鬼の幼女は従者を前に、歌うように自身の幸運を言祝いだ。そして手と翼を大きく広げて月光を迎えるのである。

 

 

だが、月の輝きを遮るかのように、魔術による不気味な帳が天頂を覆い、次第に天球全体へと広がっていく。

「――む、何か来るな」

「簡単にはいかないようですね」

顔を顰《しか》めるレミリアに、咲夜は主を背に守るかのように隠していたナイフを抜き放つ。

 

 

その薄幕が地上までをも飲み込んだ途端、人々の姿と雑踏の音が忽然と消失した。

まるで無と静寂が支配する虚ろな空間、未知なる結界術に二人は用心するかのように眼光を周囲に走らせた。

 

 

はたしてコツコツと足音が響く。

主従の視線の先に、ロングコートのような漆黒のマントを纏まとった二人組の少女が姿を現したのである。

 

 

「あの人たちが異世界からの侵略者なの?」

「そうだよ、メルちゃん。あてぃしたちが追い返さなきゃいけない相手」

咲夜の怜悧な瞳が、言葉を交わしている闖入者を射抜く。

片や外套の下にはメイド服を着たツインテールの少女、片や煽情的な露出の多い服装をしたメルと呼ばれた金髪の娘。メルが見せる犬歯というには鋭すぎる牙は、おそらく彼女がヴァンパイア故であろう。

 

 

奇しくもどちらも吸血鬼とメイドの組み合わせ、その両者が邂逅したのであった。

 

 

「え……あくあちゃん、何かすごく強そうじゃない?」

「だから来る前にそう言われたよ⁉」

眉を顰《ひそ》めたメルに、思わずあくあと呼ばれたメイド少女は目を剥いてしまう。

 

 

何とも締まらない二人に、咲夜が肩を竦すくめてレミリアに目配せる。

「彼女達がこの世界の守護者……なのでしょうか?」

「そうらしいな。スペルカードルールも無用の地だ、とっとと終わらせよう」

 

 

レミリアが不敵な笑みを浮かべた途端、その意を汲んだ従者が異能で時を止める。

凍り付いた僅かな時間の中で、紅魔館のメイド長は招かれざる客二人にナイフを投げ放ったのである。

 

 

――ぐさりッ

 

 

時が動き出した途端、メルの額に突き立った刃。

ブロンドの頭髪をわずかに散らせながら、その勢いにヴァンパイアの娘は姿勢を傾がせた。だが額に刃物を飾ったまま、彼女は倒れずに素っ頓狂な声を上げる。

「うわぁ、びっくりした⁉ 刺さったかと思った⁉」

 

 

「刺さってる、刺さってる」

首を傾けるだけで飛来した銀光を躱かわしていた仲間の突っ込みに、〝え、ホントだッ⁉〟とメルが手でナイフの柄を探り当てる。そしてそのまま引き抜くと、忽《たちま》ちの内にその傷口を黒い影が埋めて修復したのであった。

 

 

二人の間の抜けたやりとりを見つめたまま、咲夜は警戒を深めていた。

(……銀器も効果が無いとなると、高位の吸血鬼ですわね。しかもあのメイドの方もどうやら只者ではありませんわ)

 

 

 

「私があの同族の相手をしよう。咲夜、お前の相手はメイドだ」

そんな従者の内心を見透かしてか、主人たるレミリアが血色は瞳を光らせてヴァンパイアを指さした。幼き吸血鬼は自身と同格の力を持ち得るメルに興味を惹かれたのである。

 

 

「承知しましたわ、お嬢様」

と言葉残して、あくあの背後に姿を現した咲夜。彼女はメイド少女に新たなナイフを抜いて切り掛かったのである。

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

ビル群を跳び渡りながら火花を散らすメイド同士の激闘。

それを後目に、吸血鬼の二人が中空で睨み合っていた。

先手を取ったのは幼き吸血鬼だった。

赤い残影を残して刹那の内に間合いを詰め、紅魔館の主は敢然とメルに躍りかかる。

 

 

予想を遥かに超えた速度に、ヴァンパイアの娘は無防備に応じてしまう。

高速の刃と化して振り下ろされたレミリアの爪を、回避し損ねた。その鋭い一閃はメルの細い体を完全に両断した。

 

 

だがそれはヴァンパイアの思惑の内だった。

噴き出した鮮血は全てを飲み込む夜闇のような漆黒へと染まり、レミリアの右腕へと絡みつく。

(――ほぅ)

 

 

レミリアが目を剥いた僅かな隙に、影から生じた獰猛な獣の顎がそのまま幼女の肩口まで噛み千切った。そして分かたれた右腕は、メルの影の中に潜む無数の獣たちによって咀嚼され飲み込まれていく。

 

 

だがそれすらも気に留めず、紅魔館の主は残った左腕を振りかぶる。

その刹那の間にも迸《ほとばし》ったレミリアの血が、主の欠落した腕を服と共に編み上げて再生してゆくのである。

 

 

そして幼き吸血鬼の次なる一撃は、金髪のヴァンパイアの頭部を形無き血煙へと変えた。

だが、お返しとばかりにメルの血から生み出された巨大な漆黒の肉食獣は紅魔館の主の下半身に食らいつく。

 

 

「くははははッ、いいぞ!」

レミリアの甲高い哄笑が静寂に響く。

吸血鬼の闘争には防御も回避も不要、ただ徒に破壊と再生を繰り返すのみ。

攻撃以外を置き去りにした絶空の死闘。その狂気は互いに血で血を洗い、破壊を破壊で漱《すす》ぐ。

 

 

ただ互いに力を振るうだけで、その余波が大気を震わせ、ビルの分厚いガラスに罅ひびを走らせる。それは強大な力を持つ不死者同士の戦い。

片や永遠に紅い幼き月(ノーライフクイーン)たるレミリア、片や万命者(ノスフェラトゥ)たるメルに相応しいものだった。

 

 

「あっはははははははは! こういう趣向の戯れ合いは久しいぞ、愉快だ!」

紅い双眸に熱狂の色を帯びさせたレミリアは、高らかに声を上げる。

そして不敵に歪めた相貌を相手に向けるのであった。

 

 

(ならば、これならどう受ける?)

まるで気に入った玩具を試すような、酷薄な笑みを浮かべる幼女は肉弾戦の最中に魔術を高速で編み上げた。

 

 

(――不夜城レッド!!)

顕現した深紅の巨大な十字架。

その赤いの魔力の奔流がヴァンパイアを吹き飛ばし、眼下の路面のアスファルトに叩きつけた。そしてレミリアの魔力は、続け様に無数の複雑怪奇な魔法陣を虚空に刻んでいくのである。

 

 

淡藤色の髪を靡かせるレミリアの頭上、まるで空一面を覆うかのような深紅の矢がメルに狙いを定めていた。

一方、まるで何事も無かったかのように大地に身を起こしたヴァンパイア。彼女の足元に広がってゆく黒々とした汚泥の中からは、胚胎された生命の躍動が湧き出し続ける。

 

 

翼を緩やかにはためかせ虚空から見下ろすレミリア、それを仰ぎ見るメル。

————両者の視線が火花を散らした。

 

 

それを合図にするかのように、迸る投射魔術が立て続けに放たれる。

眩ゆく血色に光る無数の鏃を弾雨の如く降らせるレミリア。

メルの方は、流星のごとく尾を引く夥しい数の黒鳥たちを怒涛に飛翔させて迎え撃ったのである。

 

 

交わる深紅と漆黒。

その衝突が虚空に狂い咲かせたのは対消滅を繰り返すの無数の閃光だった。

 

 

自身相手に一歩も譲らない好敵手に、いよいよもってレミリアは喜悦を漏らす。

「随分と興じさせるじゃないか。では次はこれだ!」

 

 

極大の魔力から編み上げられたのは、北欧神の刃の名を冠する長槍。

輝く深紅の槍身は破壊と撃滅を言祝ぐかのように煌々と夜闇を照らし出す。高密度に圧縮された膨大な魔力が、旋風を呼び槍身に紫電を走らせていた。

 

 

「裁きの神槍をいざ仰ぎ見よ、スピア・ザ・グングニル!!!」

万妖をも畏怖させるその紅槍の威容は、紅魔館の主が誇るまさに最大の一撃だ。

レミリアはその神の一槍を、ヴァンパイアの娘目掛けて力の限り握りかぶる。

 

 

そして轟風を巻き上げ亜音速で投擲されたのは、吸血鬼ですら消し飛ばす消滅の具現。

 

 

赤い光が奔る。

赤い光が吼える。

それが黒い激流を穿ち、驚愕するかのように目を瞠るヴァンパイアに届いた。

 

 

その瞬間、辺り一面を吹き飛ばす爆発が巻き起こる。

 

 

視界が白く染まり、ビル群が幾重にも倒壊して瓦礫が軽々と巻き上がる。

 

 

およそ直撃を受け、消滅を免れる者など皆無の一撃だった。

もうもうと立ち込める塵煙を、折れたビルに着地したレミリアは鬱陶しそうに手で払いながら地上を凝視する。

 

 

はたしてそこには、地上を漆黒の濁流が満たし、まさに無限の生命を孕んだ洪水が広がっていた。自身の不死性とはまた異なる原理による、無尽蔵に胚胎した命による不死。

 

 

だからこそ、誇り高い彼女は名乗りを上げる。

「我が名はレミリア・スカーレット。おまえの名は?」

 

 

あれほど地上を満たしていた黒い汚泥が忽ち一所に集い、人型が結ばれていく。

それは何事も無かったかのように大地に立つメルの姿だった。

「夜空メル」

 

 

レミリアは満足気に目を閉じて、好敵手の名を反芻する。

(夜空メル……か)

それは人外犇《ひし》めく魔界ですらも、天才と畏怖されるヴァンパイアの名であった。そんな彼女はホロライブの表舞台を退いて、今や異界の侵略者からこの世界を守る組織の一人になっているのだった。

 

 

 

レミリアは〝さらばだ、メルよ〟と戦場に背を向け、従者を呼びつけた。

「咲夜、退くぞ!」

 

 

「――はッ」

見れば、現れた咲夜も自慢のメイド服はボロボロでかすり傷だらけ。

どうやら彼女の方も難敵と巡り合ったようである。

 

 

今回は幻想郷へと退くことにした二人。

侵略としては紛れもない失敗である。だがレミリアの瞳は、まるで新しい遊びでも見つけたように輝いていた。

 

 

これを機に、異界の存在に気づいた人妖たちが、幻想郷から現代日本へと乗り込んでくることになるのである。

 

 

 

 




(今回と関係する話)
白銀ノエルの断捨離ダンジョン https://syosetu.org/novel/401404/16.html
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