名探偵 L ~怪盗キッドを捕まえる~   作:梅酒24

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*****最終決戦*****

夜空は、やけに澄んでいた。

都会の光すら押しのけるように、月が浮かんでいる。
その下に用意された舞台は――異様だった。

巨大なガラスドーム。
四方を囲むように配置されたサーチライト。
外周には警察、そして無数の観客。

まるで見世物だ。

(いい舞台だ)

屋根の縁に立つ。

マントが風を受けて揺れる。

「……さすがだな」

視線の先。

中央に一人の男。

裸足。
猫背。
そして――

キッドの仮面。

「それで来たか」

小さく笑う。

L。

「最終決戦にしては、趣味が悪いな」

風が止まる。

静寂。

Lがゆっくりと顔を上げる。

「奇術師の気分を理解しようかと」

淡々とした声。

「無意味だな」

一歩、踏み出す。

屋根から軽やかに飛び、音もなく着地する。

「それは“仮面”だ」

距離は数メートル。

真正面。

「お前には必要ない」

一瞬。

空気が張り詰める。

次の瞬間――

消える。

そして。

「っ――」

Lの目の前。

「遅い」

仮面に手をかける。

パキッ――

軽い音。

あまりにもあっけなく。

仮面が剥がれる。

「……」

露わになる顔。

「これでいい」

仮面を指で弾く。

地面に転がる。

「最終決戦だろ?」

静かに言う。

「本物で来いよ」

Lは動かない。

ただ、わずかに目を細める。

「理解しました」

仮面のない顔で、こちらを見る。

「あなたの美学ですね」

「当たり前だ」

肩をすくめる。

「観客もいるしな」

外周のざわめきが広がる。

「キッドだ!」
「本物だ……!」

だが二人の間には、静寂だけがある。

「さて」



一歩、前に出る。

「捕まえてみろよ」

挑発。

だがLは動じない。

「あなたは逃げる」

静かに言う。

「身体能力に依存した逃走」

「悪いか?」

「いいえ」

首を振る。

「ですが」

間。

「すべて読んでいます」

空気が一段、重くなる。

「どこに逃げても、捕まる」

断言。

(……いいね)

口元が歪む。

「じゃあ試してみろ」

カードを一枚、取り出す。

指で弾く。

宙に舞う。

「俺は“逃げる”」

視線を合わせる。

「お前は“捕まえる”」

ニヤリと笑う。

「シンプルでいいだろ?」

Lは数秒、沈黙する。

そして――

「いいでしょう」

わずかに前に出る。

「ただし」

その目が鋭くなる。

「これは“捕獲”ではない」

「?」

「証明です」

静かに言う。

「あなたの奇術が、現実には勝てないという証明」

(……)

一瞬、空気が凍る。

だがすぐに笑う。

「逆だろ」

マントが翻る。

「現実なんていくらでも騙せる」

指を鳴らす。

周囲のライトが一斉に点滅する。

観客がどよめく。

「見せてやるよ」

声を落とす。

「“本物の奇術”をな」


*****数週間前に遡る


第一盗:工藤新一

予告状

東京都内

国立宝石博物館

展示室の中央には、厳重なガラスケース。

そこに収められているのは世界的な宝石。

“アダムの瞳”

深い青の輝きを放つ巨大なサファイア。

警察はすでに博物館を包囲していた。

警視庁の刑事が叫ぶ。

「警備を強化しろ!屋上もだ!」

警官が何十人も配置される。

しかしその時――

館内の照明が一瞬だけ暗くなった。

次の瞬間。

天井から白いカードがひらりと落ちる。

警官がそれを拾う。

そこにはこう書かれていた。

“Ladies and gentlemen

今宵この宝石を頂きます

――怪盗キッド”

「来たぞ!」

警官たちが叫ぶ。

しかし――

バンッ!

突然、展示室に煙が広がった。

白い煙。

視界が消える。

「煙幕だ!」

その瞬間。

スポットライトが点灯する。

煙の中心に――

一人の男が立っていた。

白いマントが夜風に揺れる。

怪盗キッド。

彼は静かに帽子を取る。

「やあ、レディーとジェントルマン」

警官たちが銃を構える。

「動くな!」

キッドは微笑む。

「そんな怖い顔をしないでください」

そして指を鳴らす。

パンッ

花びらが舞った。

次の瞬間――

キッドの姿が三人に増える。

「分身だ!」

警官たちが混乱する。

その隙に。

キッドの本体がガラスケースの前に立つ。

彼はポケットからカードを取り出した。

それを軽く触れると――

ガラスが音もなく崩れた。

「なっ…!?」

キッドは宝石を手に取る。

月光がサファイアに反射する。

彼は軽くそれを眺めた。

「ふむ……美しい」

そして観客に見せるように掲げる。

「ですが」

キッドはくるりとマントを翻す。

「宝石は夜にこそ輝くものです」

次の瞬間。

煙が爆発的に広がる。

「捕まえろ!」

警官が叫ぶ。

煙が晴れた時――

キッドはもういなかった。

天井にはロープ。

開いた窓。

そして床にはカード。

そこにはこう書かれていた。

“Thank you for your cooperation

怪盗キッド”

 

数時間後

捜査本部。

薄暗い部屋。

椅子の上で膝を抱えて座る男。

L。

彼はモニターに映る防犯映像を見ていた。

キッドが宝石を盗む瞬間。

その一連の動き。

Lは無表情のまま言った。

「……なるほど」

そして指を口に当てる。

「この怪盗……」

映像を巻き戻す。

キッドの動き。

身長。

歩幅。

腕の角度。

すべてを観察する。

「面白いですね」

Lは小さく笑った。

「キラとは全く別のタイプの犯罪者です」

殺さない。

だが警察を完全に翻弄する。

「そして……」

Lの目が細くなる。

「この人物はただの泥棒ではありません」

映像が止まる。

キッドが宝石を掲げる瞬間。

Lは呟いた。

「あなたは」

「観客に見せるために盗んでいる」

静かな部屋。

そしてLは結論を口にする。

「つまりあなたは――」

「舞台に立つ人間」

Lの瞳がわずかに光った。

「俳優か」

「あるいは……」

「マジシャン」

そして彼はゆっくり言った。

「怪盗キッド」

「あなたの正体は必ず見つけます」

その時だった。

ワタリが部屋に入る。

「L」

「新しい情報です」

Lは顔を上げる。

ワタリは紙を差し出した。

そこにはこう書かれていた。

“次のショーは一週間後

怪盗キッド”

Lは小さく微笑んだ。

「……結構」

「舞台に上がりましょう」

世界一の名探偵と

世界一の怪盗。

静かな戦いが――

今、始まろうとしていた。

 

***

 

夜の東京。

ネオンの海の中で、一つの伝説がまた動こうとしていた。

その名は――

怪盗キッド。

白いシルクハット、白いマント。

空を舞うように現れ、警察の包囲網を嘲笑うように宝石を奪い去る大怪盗。

そしてその正体を追い続ける男がいる。

警視庁・怪盗キッド対策本部の指揮官。

中森銀三警部。

彼はこれまで何度もキッドに挑み、そして何度も逃げられてきた。

「今日こそ捕まえてやるぞ、怪盗キッドォォ!!」

警視庁の会議室で中森警部の怒号が響く。

部屋の壁にはキッドの写真、事件の資料、宝石の警備図。

刑事たちが集まり作戦会議をしていた。

だがその会議室の後ろの方に――

一人の高校生が立っている。

整った顔立ち。

鋭い目。

青いジャケット。

高校生探偵。

工藤新一。

……の姿をした人物だった。

(ふぅ……)

心の中で軽く息を吐く。

(うまく潜り込めたな)

もちろん本物ではない。

怪盗キッド。

本名――

黒羽快斗。

今回キッドは大胆な作戦に出ていた。

(警察の作戦を知れば盗みはもっと楽になる)

そのために選んだ変装が――

工藤新一。

理由は単純だった。

キッドと工藤新一は、もともと顔立ちが非常によく似ている。

そこに髪型と服装を合わせるだけで、かなり本人に近くなる。

そして今回、キッドはあえてマスクを使っていない。

なぜなら――

キッドの最大の弱点はそこにあるからだ。

キッドの変装は、特殊なフェイスマスクを使う。

だがそのマスクには欠点がある。

顔をつねられるとバレる。

中森警部はそれを知っている。

怪しい人物はすぐ顔をつねる。

だから今回は逆に――

マスクを使わない変装。

もともと似ている顔を利用したのだ。

会議室では中森警部が怒鳴っていた。

「いいか!今回のターゲットは“蒼天の涙”だ!」

巨大なダイヤの写真が壁に映る。

「怪盗キッドは必ず来る!」

刑事たちがうなずく。

その後ろで、新一の姿のキッドは腕を組んで考えていた。

(へえ……)

(警備は屋上ヘリ待機、レーザーセンサー三重か)

(なるほど、これは面白い)

その時だった。

中森警部が振り向いた。

「おい、そこにいるのは……」

ギロリと睨む。

「工藤新一じゃないか!」

部屋の刑事たちがざわめく。

「高校生探偵の?」

「なんでここに?」

キッドは落ち着いて答える。

「キッドが来るって聞いたんでね。ちょっと興味があって」

腕をポケットに入れ、いかにも新一らしい態度で言う。

だが――

中森警部の目は鋭い。

(こいつ……)

(本物か?)

中森警部はゆっくり近づく。

キッドの心の中。

(おっと)

(来たな)

中森警部は突然――

ぐいっ

キッドの頬を思い切りつねった。

「いでででで!」

キッドが顔をしかめる。

だが――

何も起きない。

マスクが剥がれる様子もない。

中森警部は目を細める。

(……ちっ)

手を離す。

「本物か」

キッドは頬をさすりながら言う。

「いきなり何するんですか警部さん」

刑事たちが苦笑する。

「相変わらずだな中森警部」

「疑いすぎだよ」

中森警部は腕を組んだ。

「いや……念のためだ」

だが内心では考えていた。

(あの顔は確かに本物だった)

(変装じゃねえ)

(だが……)

(なんか引っかかるんだよな)

その頃。

会議室の天井裏では――

一匹の小さな盗聴機が動いていた。

キッドは心の中で笑う。

(完璧だ)

(警備も配置も全部聞けた)

(中森警部……)

(相変わらず分かりやすい)

会議が終わり、刑事たちが部屋を出ていく。

キッドも新一の姿のまま廊下を歩き出す。

窓の外には夜の東京。

キッドはふっと笑った。

(さて)

(次はショーの準備だ)

そしてその頃。

世界のどこかの薄暗い部屋で。

一人の男がモニターを見ていた。

裸足。

猫背。

膝を抱えるような座り方。

L。

モニターには警視庁の監視カメラ。

そこに映っているのは――

工藤新一。

Lはゆっくり言った。

「……妙ですね」

映像を巻き戻す。

新一の歩き方。

肩の動き。

視線。

Lは指を口元に当てる。

「工藤新一さんは」

「こんな歩き方をしません」

そして静かに呟いた。

「つまり」

「あなたは誰ですか?」

モニターの中で。

新一の姿のキッドが微笑んでいた。

Lの目が細くなる。

「なるほど」

「怪盗キッド」

静かな部屋で。

Lは小さく笑った。

「あなたは……」

「非常に面白い犯罪者ですね」

***

薄暗い部屋だった。

窓は閉め切られ、カーテンも半分しか開いていない。

昼なのか夜なのか、外の時間すら曖昧になるような空間。

その中央に、椅子が一つ。

椅子の上で膝を抱えるように座っている男がいる。

L。

彼はモニターを見つめていた。

画面には、警視庁の怪盗キッド対策本部の映像が映っている。

怒鳴り声を上げる中森銀三警部。

慌ただしく動き回る刑事たち。

そして、その中に混ざる一人の高校生探偵――工藤新一。

Lはしばらく無言だった。

ただ、指先を口元に当て、時折親指を噛むような癖を見せながら、静かに考えている。

やがて、ぽつりと呟いた。

「……なるほど」

その声は静かだったが、どこか楽しげでもあった。

「中森警部の駄目なところは、大きく分けて二点あります」

もちろん、この部屋に聞き手はいない。

ワタリすら今はいない。

それでもLは、まるで誰かに講義でもするように話し始める。

「まず一点目」

モニターの映像を止める。

そこには大勢の刑事が集まる会議室が映っている。

「多数の人間を使って怪盗キッドを捕まえようとしていること」

Lは軽く首を傾ける。

「これは……最もやってはいけない方法です」

怪盗キッド。

その男の最大の武器は身体能力でもなければ、盗みの技術でもない。

変装。

それも、尋常ではない精度の変装だ。

「人数が増えれば増えるほど、キッドは紛れ込みやすくなる」

Lは静かに言う。

「そして紛れ込めば……」

情報は手に入る。

警備配置。

警察の思考。

作戦の穴。

さらには――

当日の盗みの準備すら可能になる。

Lは小さく息を吐いた。

「もし私が同じ状況なら」

少しだけ視線を上げる。

「単独で動きます」

一人。

それが最も安全だ。

あるいは――

「どうしても人員が必要なら」

「本当に有能な人間を二、三人」

それで十分だ。

それ以上はむしろ邪魔になる。

Lは少しだけ笑った。

「ですが」

「中森警部はその逆をやっている」

再び映像を再生する。

怒号。

混乱。

大勢の警官。

「つまり……キッドにとっては理想的な環境です」

そして、もう一つ。

Lの視線が細くなる。

「二点目」

画面には、過去の怪盗キッド事件の映像が次々と流れる。

屋上。

展示室。

逃走の瞬間。

どの場面でも共通していることがある。

警察は――

盗みに入った瞬間に捕まえようとしている。

Lは呟く。

「これも間違いです」

怪盗キッドの身体能力。

ジャンプ力。

バランス感覚。

瞬間判断。

さらに。

話術。

視線誘導。

変装技術。

そして変装速度。

それらすべてを合わせると――

Lは静かに結論を言った。

「私が知るFBIの捜査官の中でも」

「彼を超える能力の人間はいません」

その言葉は決して大げさではなかった。

現場での判断力。

即興のトリック。

心理操作。

キッドはそれらすべてを同時に使う。

「現場で捕まえようとするのであれば」

Lは少しだけ自嘲気味に笑う。

「身体能力が高い私でも」

「赤子同然でしょう」

つまり。

現場で捕まえるのは不可能。

少なくとも、普通の方法では。

Lは椅子の上で姿勢を変える。

少しだけ体を前に傾けた。

「そもそも」

静かな声で言う。

「やり方が間違っているのです」

怪盗キッドは、盗みをする。

だがそれは犯罪の本体ではない。

盗みは――

舞台。

本当の戦いはその前に終わっている。

キッドは必ず準備をする。

必ず情報を集める。

必ず潜り込む。

つまり。

そこを断てばいい。

Lはモニターの中の工藤新一の姿を見つめる。

ほんのわずかに、口元が動く。

「中森警部は今のままだと」

「何度やっても怪盗キッドを捕まえることはできません」

そして。

Lはゆっくりと言った。

「ですが」

指を口元に当てる。

「怪盗キッドを逮捕すること自体は」

ほんの少しだけ、笑う。

「そこまで難しいことではありません」

モニターの中で。

工藤新一の姿の青年が、廊下を歩いていく。

その背中を見ながら、Lは静かに呟いた。

「……すでに」

「あなたは私の掌の中……」

 

 

 

怪盗キッド「予想してくれよな 1位になった結末になるんだからな」

  • Lが怪盗キッドを逮捕する
  • 怪盗キッドはLから逃げ切る
  • 怪盗キッドが奇術で攪乱させ成功する
  • Lが100%逮捕する方法を思いつく
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