スタジオの照明は強すぎる。
人間は光を浴びると、無意識に“演じる”。
だから私は、顔を隠す。
白い椅子に座りながら、手元のモニターに視線を落とした。
視聴率のリアルタイム推移。SNSの反応。コメントの流速。
すべてが、今この瞬間に集まっている。
「はーい。新人アナウンサーのミサミサだよぉ。今回は対談形式ということで世界一の名探偵のLとキッド対策本部長の中森警部にお越しいただきました」
弥海砂。
軽い口調。だが、こういう存在は拡散装置として優秀だ。
私は、あえて――
怪盗キッドの仮面を被る。
理由は単純だ。
“観測される側”に立つことで、観測者の盲点を作る。
「どうもLです。奇術師は手の内を隠します。手の内を表に出すと人は驚かないからです。私は奇術師ではないので手の内を晒して怪盗キッドを追い詰めます」
わざと、宣言する。
人は「隠されているもの」を恐れる。
だが「見せられているもの」は、逆に見えなくなる。
「さてさてこの間の事件で、怪盗キッドが工藤新一に化けていたことが分かりました。中森警部は、工藤新一君に化けたキッドの顔を何度もつねったんですよね?」
隣の男が身体を揺らす。
中森銀三。
感情で動く典型的な刑事。
「ああ。そうだ。変身用のマスクをつけていなかったから油断した……あいつが怪盗キッドだったとは」
私は内心で小さく頷く。
やはり、情報を“情報として認識していない”。
「中森警部は悔しがっているだけでここで得られた貴重な情報に気付いていないんです」
「えっ」
間を置く。
視聴者の意識が集中するタイミングを測る。
「何が言えるかというと、怪盗キッドの素の顔は工藤新一に似ているから変身用のマスクが必要がなかったということです。まぁ16歳~20歳程度の男性です。身体能力や男子トイレや男子風呂などにも入ってそこでの羞恥心を感じていなかったことからも男性です。そしてキッドの出没回数が関東に偏っていることからも関東在中で間違いないでしょう。ハングライダーの飛行距離を考えてもここは間違いない」
私は、事実を並べただけだ。
だが人間は、並べられた事実を“推理”と認識する。
「確かにそんな気がする」
中森警部が頷く。
――遅い。
だがそれでいい。
私はゆっくりと、次の手を打つ。
「中森警部、私が怪盗キッドです」
空気が止まる。
予想通りの反応。
「はっ、何を言っているんだ、L」
私は首を傾ける。
「どうですか?私の声、怪盗キッドに似てませんか?」
中森警部は一瞬、本気で迷った顔をした。
「すごく似ている……本当に怪盗キッドなのか?」
人間は単純だ。
“似ている”という情報だけで、現実認識が揺らぐ。
「いえいえ。違います。声はたまたま似ていたのです。私の見た目は工藤新一君にはほど遠いですが」
私は仮面の内側で、わずかに笑う。
これでいい。
「ただの声真似か……キッドを捕まえることとは関係ないだろ」
――関係ある。
むしろ、ここからが本題だ。
私はカメラをまっすぐ見た。
レンズの向こうにいる“数百万の目”を想像する。
「いえ、関係おおありです。この放送はどうぞ切り抜いて下さい。私は今から大事なことを言います」
情報は拡散して初めて価値を持つ。
そして現代は、拡散速度が武器になる。
「工藤新一君に雰囲気が似ていて、さらに今話している私の声に近い人物がいたら、Xにポストして下さい。この人怪盗キッドかもと。怪盗キッドを見つけるのは君たちで私はそれを精査するだけです……」
私は、個ではなく“群”を使う。
怪盗キッドは一人。
だが観測者は無数。
逃げ場は、徐々に削られていく。
「中森警部……怪盗キッドと同じ土俵で戦うのではなく自分の得意な土俵に引きずりこむんですよ」
奇術師は、観客の視線を操る。
だが私は違う。
観客そのものを、駒として使う。
仮面の内側で、静かに思考を巡らせる。
怪盗キッド。
あなたは今、この放送を見ているはずだ。
そして、こう思う。
“面白い”と。
――ええ、その通りです。
これは追跡ではない。
包囲です。
怪盗キッド「予想してくれよな 1位になった結末になるんだからな」
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Lが怪盗キッドを逮捕する
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怪盗キッドはLから逃げ切る
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怪盗キッドが奇術で攪乱させ成功する
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Lが100%逮捕する方法を思いつく