スマホの通知が、止まらなかった。
授業中だというのに、机の中で震え続けている。
教師の声なんて、もう耳に入っていない。
(……来たか)
休み時間になった瞬間、俺はスマホを開いた。
Xのトレンド。
「怪盗キッド候補」
「Lの検証」
「工藤新一似」
そして――
「黒羽快斗」
「……は?」
一瞬だけ、思考が止まった。
だがすぐに理解する。
(あの野郎……)
L。
やりやがったな。
直接追ってくるんじゃない。
“探させる”ことで包囲してきた。
画面をスクロールする。
「この黒羽ってやつ、工藤新一に似てね?」
「声もなんかそれっぽい」
「学校も関東だし条件一致してる」
「普通に怪しい」
(クソ……)
まだ確定じゃない。
だが“疑い”としては十分すぎる。
人間は一度疑うと、証拠を探し始める。
そして“それっぽいもの”を見つけて確信に変える。
「快斗?」
顔を上げると、中森青子がいた。
「さっきからスマホ見てニヤニヤしてるけど、何見てるの?」
(ニヤニヤしてたか……)
無意識だったな。
俺は肩をすくめた。
「別に」
スマホをポケットにしまう。
「くだらねえ噂話だよ」
青子が眉をひそめる。
「もしかして、キッドのやつ?」
一瞬、目が合う。
――ここが分岐点だ。
否定が強すぎれば怪しまれる。
肯定は論外。
なら――
「そうそう」
軽く笑う。
「なんかさ、俺がキッドだとか言われてんの」
青子が吹き出した。
「はあ!?バカじゃないの!?」
いい反応だ。
「だろ?」
「お前みたいなやつがキッドなわけないじゃん!」
(おい)
内心でツッコミを入れつつも、表情は崩さない。
「ひでーな」
「だってそうでしょ!あんたドジだし!」
クラスの連中も笑い始める。
「確かにw」
「黒羽はないわw」
――これでいい。
疑いは“浮いている状態”が一番危険だ。
だがこうして“笑い”に変われば、一気に弱まる。
だが問題はそこじゃない。
(ネットの方だ……)
放課後。
屋上に上がり、スマホを開く。
状況は悪化していた。
投稿は増えている。
分析しているやつまで出てきた。
「身長一致」
「関東在住」
「声質も近い」
「確率高いと思う」
(……早いな)
だが、まだ崩せる。
俺は考える。
Lの狙いはシンプルだ。
候補を絞ること。
なら逆に――
「候補を増やせばいい」
口に出していた。
やることは決まった。
その夜。
怪盗キッドとして、予告状を出す。
だが今回は違う。
ターゲットでも宝石でもない。
“演出”だ。
そして同時に、ある仕掛けを打つ。
翌日。
ネットはさらに荒れた。
「昨日キッド出てたぞ!?」
「黒羽学校にいたよな?」
「じゃあ違うじゃん」
「いやアリバイ作りだろ」
「いや無理だろ同時に存在してたぞ」
情報がぶつかり合う。
混乱が広がる。
俺は教室でいつも通り机に突っ伏していた。
「なあ快斗!」
青子が騒いでいる。
「昨日キッド出たんだって!テレビでやってた!」
「あー?」
わざと眠そうに顔を上げる。
「見てねーよ」
「ほんとにキッドじゃないんだね?」
じっと見てくる。
(……しつこいな)
だが、ここでブレるわけにはいかない。
「当たり前だろ」
肩をすくめる。
「俺があんなことできるかよ」
青子は少し考えてから、ふっと笑った。
「だよね」
――セーフ。
だが内心は違う。
(さすがにしつこいな……)
そして何より――
(L……)
あいつはこれで終わらない。
むしろ始まりだ。
疑いは消えていない。
ただ“揺れている”だけだ。
「面白ぇじゃねえか……」
小さく笑う。
屋上の風が強く吹く。
Lは包囲してくる。
ならこっちは、混乱させる。
「やってやるよ」
誰にも聞こえない声で呟く。
「その推理、全部ひっくり返してやる」
***
屋上の風が、やけに冷たく感じた。
スマホの画面には、まだ“俺の名前”が残っている。
「黒羽快斗=怪盗キッド説」
一度火がついた疑いは、そう簡単には消えない。
むしろ、形を変えて広がっていく。
(……しつこいな)
だが、違和感があった。
ただの一般人の騒ぎ方じゃない。
「……絞ってるな」
呟く。
Lは“群衆”を使っている。
だが、同時にその中から“精度の高い観測者”を選別している。
つまり――
ノイズの中から、真実に近い声だけを拾っている。
(厄介だな……)
――翌日。
教室の空気が少し違った。
いつも通り騒がしい。
だが、視線が増えている。
「なあ黒羽」
男子の一人が話しかけてくる。
「昨日どこいた?」
(来たか)
俺は椅子を傾けながら答える。
「家だけど?」
「証拠は?」
「ねーよそんなもん」
笑って返す。
周りがクスクス笑う。
「ほらやっぱ怪しいって!」
「いやいやただのバカだろw」
(……浅い連中はこれでいい)
だが問題は、深い奴だ。
廊下に出る。
すると――
「快斗」
声が低い。
振り向くと、見慣れない男が立っていた。
スーツ。
年齢は30前後。
だが目が違う。
「少し話いいかな?」
(警察……じゃねえな)
だが、関係者だ。
「なんすか?」
軽く答える。
男はスマホを見せた。
そこには俺の写真。
そして比較画像。
「これ、君だよね?」
「そりゃそうでしょ」
「じゃあこれは?」
キッドの画像。
(なるほどな)
直接来たか。
Lのやり方だ。
群衆で絞り、個別に確認する。
「似てるって言われてるんだけど」
男はじっと見てくる。
「どう思う?」
俺は一瞬考えた。
ここでの答えは一つ。
「嬉しいっすね」
笑う。
「キッドってイケメンじゃないですか」
男の目がわずかに動く。
「でも違うっすよ」
肩をすくめる。
「俺、あんなことできないし」
「例えば?」
「空飛んだり?」
軽く言う。
沈黙。
数秒。
男はスマホをしまった。
「……そうか」
去っていく。
(監視役か)
確定じゃない。
だが、かなり近い。
そしてそれはつまり――
(L、もう俺を“候補”として扱ってるな)
夜。
部屋。
机の上にカードを並べる。
トランプが指の間で回る。
思考を整理する。
Lの戦略は三段階。
① 群衆で候補を炙り出す
② 候補を個別に観察
③ 矛盾を突いて確定
(なら――)
「③を潰す」
つまり“矛盾を作らせない”。
いや、それだけじゃ足りない。
“別の矛盾を作る”
スマホを開く。
新しい投稿。
「黒羽、今日怪しい動きしてた」
「やっぱりキッドじゃね?」
(いいねぇ……)
燃えてる。
なら燃やし尽くす。
「次は……二重だ」
――その夜。
怪盗キッドは現れた。
だが、同時に――
黒羽快斗は、学校の友人たちと動画に映っていた。
リアルタイム配信。
時間は一致。
場所も一致。
「え、同時に存在してる?」
「どういうこと?」
「黒羽じゃないのか?」
混乱が爆発する。
だが、それでも――
完全には消えない。
なぜなら。
Lは気づくからだ。
(あいつなら分かる)
“作られたアリバイ”だと。
窓の外を見る。
夜の街。
「楽しくなってきたな……」
だが、同時に理解している。
これはもう遊びじゃない。
捕まるか、逃げ切るか。
そしてLは、確実に詰めてくる。
「来いよ……」
カードを弾く。
「どこまで読んでるか見せてみろ」
静かな夜の中で、次の勝負が始まろうとしていた。
***
夜の街は、舞台装置としては出来すぎている。
ネオン、影、視線。
全部が“仕掛け”に変えられる。
(奇術ってのはな……)
カードを一枚、指で弾く。
(“見せたいものだけを見せる技術”だ)
そして今、俺が相手にしているのは――
世界一厄介な観客。
L。
あいつは騙されない。
だから“騙す”んじゃない。
選ばせる。
――その夜。
俺は三つの予告状を出した。
すべて違う場所。
すべて同じ時間。
① 美術館
② 高層ホテル
③ 廃ビル
当然、警察は混乱する。
「全部本物の可能性がある!」
「人員を分けろ!」
無駄だ。
どこにも“本物”はない。
(今回の狙いは宝石じゃねえ)
“Lの目”だ。
――翌日。
ニュースは大騒ぎだった。
三箇所すべてにキッドは現れなかった。
「予告はブラフか?」
「キッドの目的はなんだ?」
違う。
ちゃんと“現れてる”。
ただし――
誰も気づいていないだけだ。
屋上でスマホを見る。
想定通り、SNSは荒れている。
だが、その中に混じる。
“異質な反応”。
「廃ビルの監視カメラ、1フレだけ変なの映ってる」
「いやホテル側もおかしい」
「三箇所全部に“何か”あるぞ」
(見つけたか……)
口元が歪む。
これだ。
Lは、こういう“違和感”に食いつく。
――仕掛けは単純だ。
三箇所すべてに“痕跡”を残した。
・廃ビルには影
・ホテルには反射
・美術館には音
だが全部――
同時には成立しない。
人間一人じゃ無理な位置関係。
つまり導かれる結論は一つ。
「キッドは複数いる?」
違う。
そう思わせる。
――放課後。
教室で騒ぎが起きている。
「なあ快斗!」
青子がスマホを見せてくる。
「キッドが分身してるって!」
「は?」
わざと驚く。
「んなわけねーだろ」
「でもこれ見てよ!」
動画を見せられる。
俺は適当に目を通す。
「編集じゃね?」
「でも全部別の場所だよ!?」
「だから何だよ」
肩をすくめる。
「バカが騒いでるだけだろ」
青子は少しムッとする。
「夢がないなあ!」
(夢、ね)
内心で笑う。
これは夢じゃない。
戦争だ。
――夜。
俺はビルの屋上に立っていた。
風が強い。
遠くに警察の光。
そして――
「……来たな」
気配。
振り返ると、誰もいない。
だが分かる。
見られている。
(直接来るタイプじゃねえ)
だが、いる。
どこかに。
L。
「どうだった?」
わざと独り言を言う。
「面白かったか?」
返事はない。
だが確信する。
見ている。
「ヒントやるよ」
カードを一枚、空に放る。
風に乗って舞う。
「三つの中に“本物”はない」
沈黙。
「でも全部“俺”だ」
ニヤリと笑う。
「分かるか?」
その瞬間――
スマホが震えた。
非通知。
(……ほう)
出る。
「もしもし?」
数秒の沈黙。
そして。
「興味深いですね」
低い声。
冷たい。
「あなたは“観測”を操作している」
(当たりか)
口元が緩む。
「さあな」
「三箇所すべてに痕跡を残し、矛盾を作ることで“存在の曖昧化”を狙っている」
「よく分かったな」
「ですが」
間。
「あなたは一つ見落としている」
(……)
少しだけ、空気が変わる。
「人間は“完全な矛盾”より、“納得できる嘘”を信じる」
「……」
「つまり、あなたはやりすぎた」
通話が切れる。
(やりすぎ……だと?)
夜風が強くなる。
「クク……」
笑いがこぼれる。
「上等じゃねえか」
つまり――
もう一段階、上げろってことだろ?
カードを握る。
「次は“現実”を消してやる」
奇術師は、舞台を選ばない。
観客が天才なら――
ショーも、それにふさわしくなる。
***
夜は、静かすぎると逆に不自然だ。
風も、音も、光も――全部が“演出”に見えてくる。
それくらい、あの男と対峙していると現実が歪む。
(“やりすぎた”、か……)
屋上の縁に腰掛けながら、スマホを回す。
Lは言った。
“納得できる嘘を人は信じる”と。
つまり――
(俺のやり方は“理解されすぎた”ってことだ)
なら簡単だ。
理解できない領域に引きずり込む。
――数日後。
新たな予告状が出回る。
だが今回は違う。
ターゲットは宝石でも美術品でもない。
「情報」
『今夜、私は“ある真実”を盗む』
ネットは騒然。
「意味わからん」
「何盗むんだよ」
「Lへの宣戦布告か?」
(半分正解だ)
今回の舞台は――テレビ局。
生放送。
しかも出演者の中にいる。
L本人が。
――スタジオ裏。
スタッフが慌ただしく動く。
警備は異常なほど厳重。
だが関係ない。
(侵入する必要がねえからな)
モニター越しに、Lを見る。
相変わらず気だるそうな姿勢。
だが目だけは違う。
“全部見ている目”。
(いいぜ……)
俺は笑う。
(今日はお前を“観客”にしてやる)
――本番。
ライトが点く。
司会が話し始める。
「本日は特別企画――怪盗キッド対策特集です!」
ざわめき。
Lがカメラに映る。
「どうも」
淡々とした声。
「本日、怪盗キッドは何かを盗むと予告しています」
「その対策は?」
司会が聞く。
Lは少し間を置いて言う。
「既に対策済みです」
(ほう)
余裕だな。
「彼は“観測を操作する”タイプの犯罪者です。つまり、見えているものを疑えばいい」
(その通りだ)
だが――
それを逆手に取る。
次の瞬間。
スタジオのモニターが一斉に乱れる。
「えっ?」
ノイズ。
そして映る。
――キッド。
「こんばんは」
ざわめきが爆発する。
「キッドだ!」
「侵入されたのか!?」
違う。
映像だ。
だが――
リアルタイムだ。
「今日は盗みに来た」
画面の中の俺が言う。
「“真実”をな」
Lの目が、わずかに細くなる。
(いい反応だ)
「簡単なゲームをしよう」
指を鳴らす。
画面が切り替わる。
複数の人物の映像。
ぼかしあり。
「この中に――」
間。
「Lがいる」
スタジオが凍る。
「な……!?」
司会が絶句する。
「どれが本物か当ててみろ」
(さあどうする?)
これは逆転の一手。
今まで“観測する側”だったLを――
“観測される側”に引きずり下ろす。
「ヒントは一つ」
俺が笑う。
「全部“本物”に見える」
映像には複数のL。
同じ姿勢、同じ声、同じ癖。
(もちろん全部偽物だ)
だが、問題はそこじゃない。
“本物がどこにいるか”分からなくすること。
Lは基本的に姿を隠す。
だからこそ――
一度“露出した情報”は弱点になる。
(お前の“存在”をバラした)
沈黙。
スタジオが張り詰める。
数秒。
そして――
Lが口を開いた。
「……なるほど」
静かに。
「これは面白い」
(余裕かよ)
だがその目は鋭い。
「あなたは私を“特定可能な存在”に引きずり出した」
「そういうこと」
「ですが」
間。
「あなたも同じ土俵に立っている」
(……?)
一瞬、違和感。
その瞬間――
スタッフの一人が倒れる。
「!?」
ざわめき。
「確保しました」
無線の声。
(……は?)
「あなたの“中継点”です」
Lが言う。
「映像を送っていた拠点。既に押さえています」
(チッ……)
やられた。
完全にではないが、読まれてる。
「これであなたの“手足”は一つ潰れた」
Lが淡々と言う。
だが――
「それで?」
俺は笑う。
「一つだろ?」
沈黙。
「俺は何人いると思ってる?」
ざわめき。
「“キッドは一人”って前提、まだ捨ててねえのか?」
Lの目が、わずかに揺れる。
(そこだ)
「俺はな」
一歩、前に出る。
もちろん映像の中で。
「“存在そのもの”がトリックなんだよ」
映像が一斉に切り替わる。
別の場所。
別のキッド。
さらに別のキッド。
「な……!?」
スタジオが混乱する。
「どれが本物だ?」
笑う。
「当ててみろよ、L」
沈黙。
数秒。
そして。
「……いいでしょう」
Lが呟く。
「あなたは確かに優秀です」
(ほう)
「ですが」
その目が、完全に獲物を捉える目になる。
「必ず捕まえます」
(来いよ)
心の中で笑う。
「やれるもんならな」
通信を切る。
夜のビルの上。
静寂。
(追い詰めた……が)
同時に分かる。
(こっちも見られてる)
これはもう――
完全な読み合い。
「最高だな……」
夜空を見上げる。
「ショーはまだ終わらねえ」
奇術師と探偵。
どちらが“真実”を掴むか。
勝負は、まだこれからだ。
怪盗キッド「予想してくれよな 1位になった結末になるんだからな」
-
Lが怪盗キッドを逮捕する
-
怪盗キッドはLから逃げ切る
-
怪盗キッドが奇術で攪乱させ成功する
-
Lが100%逮捕する方法を思いつく