進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……   作:感謝君

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第百十三話

「早くお部屋に戻りましょう、アトラス! 私が隅から隅まで綺麗に汗を拭いてあげるからね!」

 

 

 

「だーかーら! 自分で拭けるから引っ張らないでってば……っ!」

 

 

嵐のような騒ぎと共に、リーシェが半ばアトラス殿を担ぎ上げるようにして森の奥へと消えていく。

 

 

 

二人の姿が完全に見えなくなり、狂犬の甘ったるい声も聞こえなくなった後。切り刻まれ、更地と化した訓練場には、倒木が自重で軋む「ギシッ……」という乾いた音だけが虚しく響いていた。

 

 

 

「……嵐が、去ったな」

 

 

私は短く息を吐き出し、微かに痛む胃のあたりをマントの上から押さえた。

 

 

 

「……チッ。ふざけた姉妹だ」

 

 

忌々しそうに舌打ちをしたのは、大樹の幹に背を預けていたリヴァイだった。

 

 

彼はいつものようにブレードの柄を布で拭いながら、その鋭い三白眼に隠しきれない戦慄の色を浮かべている。

 

 

「お花畑の狂犬だけでも胸糞悪りぃってのに……あの中身は輪をかけてデタラメじゃねぇか。あの狂犬が束になっても、手も足も出ねぇぞ。……もしあいつが俺たちを殺す気なら、今の演習で瞬きする間に全員の首が飛んでただろうな」

 

 

「信じられないよ……」

 

ハンジが、両断された巨大な幹の断面を撫でながら、震える声で立ち上がった。

 

 

 

その瞳には、恐怖を凌駕する底知れぬ探求心と畏怖が入り交じっている。

 

 

 

「立体機動の限界速度は、人間の肉体がGに耐えられるかどうかで決まる。でも彼女は、硬質化の極薄の膜を外骨格にして、物理法則の方をねじ伏せた。あれはもう『機動』じゃない。『飛翔』であり『砲弾』だ。リーシェのあの異常な超音速機動ですら到達できない、文字通り次元の違う出力だよ。……しかも、ガスも刃も無尽蔵だなんて」

 

 

 

「……恐ろしいのは、あれだけの破壊を行いながら、彼女から一切の『殺意』や『疲労』の匂いがしなかったことだ」

 

 

ミケが、特徴的に鼻をヒクつかせながら静かに呟いた。

 

 

「ただの仮想演習だったとはいえ、あの速度と遠心力だ。普通なら脳が焼き切れるほどの興奮状態に陥るはずだが……彼女にとっては、庭の雑草を摘む程度の散歩と変わらなかったらしい」

 

 

私は三人の幹部の分析を黙って聞きながら、脳内で現在の我々が抱える『手札』の恐ろしさを改めて計算していた。

 

 

アトラス・ベニア。

 

 

彼女が巨人体となれば、一撃で半径10km圏内の地盤を陥没させ、人類文明すら容易に灰塵に帰すことができる。

 

 

それは疑いようのない事実であり、究極の『戦略兵器』だ。

 

 

 

しかし、その力はあまりにも強大・広範囲すぎるが故に、壁の近くや味方が存在する戦場では絶対に使うことができないという明確な欠点があった。

 

 

 

だが、今日の演習で証明されてしまった。

 

 

彼女は、巨人化せずとも───あの華奢な『人間体』のままであっても、被害範囲を極小に抑えつつ、局地的に軍隊規模の戦力を無傷で瞬殺できる『究極の戦術兵器』でもあったのだ。

 

 

 

人類最強と謳われるリーシェの武力すらも、神ごときアトラスの前では児戯に等しい。

 

 

(……過剰だ。いささか、戦力が過剰すぎる)

 

 

私は倒木に腰を下ろし、現在の調査兵団の総戦力を俯瞰した。

 

 

まず、基盤となる一般兵士たち。死者ゼロの壁外調査を繰り返し、キースの教練と実戦の死線を越え続けた500名超の特殊精鋭兵。

 

 

彼ら一人一人が、かつての班長クラスの練度と生存能力を誇っている。

 

 

次に、兵士長のリヴァイ。この半年、特異点の背中を追い続けた彼は限界突破を果たし、純粋な肉弾戦においてはリーシェに比肩し得る領域に足を踏み入れた。

 

 

 

そして、数十体の巨人を一度に単騎で蹂躙する絶対的な『矛』たる、特別班長リーシェ・ベニア。

 

 

 

これだけでも、人類史を覆すには十分すぎる武力だ。

 

 

だが、その頂点に君臨するアトラス殿の存在が、この軍事力の意味合いを根本から変質させている。

 

 

 

対巨人という枠組みすら、もはや我々にとっては取るに足らない通過点に過ぎない。

 

 

 

今の調査兵団は、その気になれば一夜にして中央の王政を物理的に転覆させ、壁内のすべての軍事組織を制圧し、世界すら蹂躙できるだけの暴力の結晶と化してしまったのだ。

 

 

「……エルヴィン。笑えない冗談だが、今すぐ俺たちが反逆の狼煙を上げれば、明日の朝には王都の玉座にあの女が座ってるだろうな」

 

 

リヴァイが、私の内心を読み透かしたように低く呟いた。

 

 

「……そうならないためにも、我々が彼女たちの『良き居場所』であり続けなければならない」

 

 

私は冷静な声で返し、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「彼女の力は、人類の夜明けを決定づける。だが、その力が王政や憲兵団に向けば、壁内は巨人に食い破られる前に内側から消滅するだろう。我々に課せられた真の任務は、巨人を狩ること以上に、あの神のごとき力と狂気を、正しく『外の脅威』へと向け続けることだ」

 

 

強固な三兵団のパイプが完成し、我々の戦力は頂点に達した。

 

 

だからこそ、これほどの力を持つ我々を、中央が大人しく見逃すはずがない。政治という名の、血の流れない暗闘はこれからが本番だ。

 

 

「さあ、撤収するぞ。森の破壊については、訓練兵団のキースに私が上手く話をつけておこう」

 

 

 

私は、更地と化した森に差し込む秋の夕陽を眩しげに見上げながら、神を御する指揮官としての圧倒的な重圧と、それを上回る冷徹な野心を胸の奥底で静かに燃やし続けていた。

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