進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった…… 作:感謝君
第百十四話
あれから更に2ヶ月後
ついに運命の年である、845年を迎えてから数日が経とうとしている。
俺は現在、リーシェと共にウォール・マリア南端、シガンシナ区の中央に位置する一軒家に移り住むこととなった。
現在、調査兵団は壁外調査を一時的に停止している。
というのも、この数ヶ月で巨人を狩り尽くして壁外が平和になりすぎたせいで、現在の主な任務が「訓練兵団や駐屯兵団との合同訓練」という名の『対巨人における戦術指導』に切り替わっているからだ。
そのお陰で、俺が提出した「シガンシナ区での長期滞在」という異例の休暇申請も、思いのほかあっさりと通ってしまった。
もちろん「不測の事態が起これば即招集」という条件付きだが……
まぁ、現在すでに700人規模にまで膨れ上がっているこの『過剰戦力(チート集団)』が、対処しきれない不測の事態なんて、早々起こるわけがないだろう。
なにせ、人が余り出した結果、調査兵団は遂に精鋭中の精鋭を選出し、約30名ほどの超精鋭部隊に対して『対人戦闘』を想定した訓練まで秘密裏に開始しているらしいのだ。
……いや、対人ってなんだよ。完全にケニー・アッカーマン量産計画じゃないか。
出発前、俺は偶然その訓練風景を一度だけ覗き見たのだが、本気でドン引きしてしまった。
一人じゃない。少なくともその場に参加していた『全員』が、完全に人類の限界点を超えそうな変態的な動きと反射神経を披露していたのだ。
ふと視線を前に向けると、そこには腕を組みながら、親の仇でも見るような不機嫌そうな表情で的確な指導を飛ばすリヴァイ兵長の姿があった。
あのバケモノが、自分基準の異常な機動を逸般の精鋭たちに叩き込んでいる。
俺は、エルヴィン団長がいつも執務室で胃のあたりを押さえている理由が、ここに来てようやく完全に理解できた。
もし中央の憲兵団や王政とぶつかる日が来ても、あの部隊が放たれれば『王政編』なんて秒で終わるだろう。
クーデターというより、一方的な蹂躙劇になる気配しかしない。
そんな血生臭い、そして過剰すぎる本部の空気を後にして、俺は今日、こののどかなシガンシナ区にやって来たわけだが。
「あらぁ、可愛いお嫁さんねぇ! ご新婚さん?」
「お引越しのご挨拶かしら。これからよろしくね!」
……周囲の住民たちの対応は、それはもう凄まじかった。
若くて無駄に超絶美少女な俺と、これまた美人なリーシェが二人きりで越してきたものだから、ご近所さんたちはお祝いの品やらご挨拶やらで、ひっきりなしに訪ねてくる大騒ぎになってしまったのだ。
「はいっ! こちら、妻のアトラスです。若輩者の二人ですが、これから末長くよろしくお願いいたしますね!」
そして、横に立つリーシェはと言えば、俺の抗議など一切無視して、満面の笑みで俺を「嫁」として周囲に紹介して回っていた。
あの狂犬が、ご近所さんに対しては信じられないほど愛想良く、友好的に接している。
それは一見すると平和で微笑ましい光景だが、俺には彼女の真の狙いが痛いほど分かっていた。
(こいつ……完全に『外堀』を埋めにきてる……!)
ご近所公認の夫婦(百合だが)という既成事実を物理的・社会的に構築し、俺の逃げ場を完全に塞ごうという算段だ。
恐るべき執念である。俺は引き攣る笑顔のまま、ただペコペコとお辞儀をするしかなかった。
とにかく、こうして生活の基盤は整った。
あとは、来る『原作開始』の日まで、ここで座して待つのみだ。
アニメの描写や風景から推測するに、超大型巨人がシガンシナ区の壁を蹴り破るのは、恐らく春か秋のどちらかだろう。
俺の個人的な考えでは、秋の可能性が高いと踏んでいる。
なんでも、壁が壊されてウォール・ローゼに撤退した後、深刻な食糧難を理由に『冬を越してから』あの無謀な25万人を間引く領土奪還作戦が実施されたわけだから、逆算すれば襲撃の時期は秋口が妥当なはずだ。
いつ来るか分からない以上、気を抜くことはできない。
だが、ただ待つだけではない。
それまでの間、俺は自身の持つ独自の『道』のシステムのハッキング研究という名の一人遊びをさらに進めるつもりだ。
……まぁ、マーレの戦士たちの『ユミルの呪い(13年の寿命)』をとっぱらうための管理者権限の書き換えコードは、もう殆ど完成しかけているんだけどね。
壁が壊されるその瞬間。
俺は必ず彼ら、ライナー、ベルトルト、アニの幼き戦士達を捕獲し、この手札を使って最高の交渉テーブルに着かせてみせる。
冬の冷たい風が吹き込む真新しい一軒家の窓辺で、俺は静かに、しかし確かな覚悟と共に小さく拳を握りしめた。