ゼノ・クライシス(Xeno-CRISIS)   作:gp真白

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第三十一話

刹那。

世界から音が消え、クライムが瞬きをする一瞬の「隙間」に、空を覆っていたデータ生命体の巨躯が、まるで薄い紙のように横一文字に両断されました。

血は流れない。切り口からは膨大な数字のノイズが火花のように溢れ出し、空間そのものが悲鳴を上げて歪みます。

 

「……ッ!? なんだ……今の……!」

 

クライムは周囲を見渡しましたが、そこには誰もいません。ムサシ先生の居合かと思いましたが、肌を刺すこの「残響」の重さは、先生のそれすら遥かに凌駕する、底知れない「絶対的な強者」の気配でした。

 

(……全く。何もしていないというのに、やはり野蛮だね。この次元宇宙の住人たちは)

 

白い影の管理者が、呆れたように呟きました。

真っ二つに裂かれたデータ生命体の断面からは、瞬時に青白い光の繊維が伸び、傷口を縫い合わせるようにデータの皮膚が再構成(リビルド)されていきます。物理的な破壊すら、この「プログラム」にとっては一時的なエラーに過ぎないのか。

 

その異常な光景に目を奪われていたクライムの背後から、凍てつく殺気が奔りました。

「——よそ見してていいの? 君の相手は、こっちだよ」

 

カキィィィィンッ!!

飛来した巨大な氷の刃を、クライムの背中から展開された黒紫の結晶翼が、本能的な反応で叩き落としました。火花ではなく、砕け散った氷の粒が舞い踊る中、そこには優雅な足取りで歩み寄る少年の姿がありました。

四柱の一人、バニラ。

 

彼は先ほどまでの無邪気な笑顔を消し、冷徹な捕食者の目でクライム——その中に宿る「少女」を見据えています。

 

「ねえ。その怪物も大変そうだけどさ……その、君の中に隠れてる女の子。彼女の標的は、僕なんだよね」

 

バニラは細く冷たい指をクライムに向け、目を細めて告げました。

 

「悪いんだけどさ、そっちの『バグ』、僕に寄越してくれないかな? ……隊長に言われてるんだ。『不確定要素は、溶ける前に凍らせて持ってこい』ってね」

 

バニラの足元から、エルサレムの王宮全体を凍結させるほどの絶対零度の波動が広がり始めます。

 

一方、空中の「管理者」は、バニラの介入を面白そうに眺めていました。

 

(ほう……。番人たちが「王」を回収しに来たか。いいだろう、データ採取には絶好の機会だ)

 

バニラは薄く笑みを浮かべたまま、心の中で毒を吐きました。(……実際、隊長は『様子を見てこい』としか言ってないんだけどね。でも、ここで君を凍らせて連れて帰れば、あのアニマの結晶もろとも僕のコレクションにできる……)

 

「どうするんだい? クライムくん。僕と踊るか、あの上空の『目玉』に消されるか」

 

クライムは左目の数式を明滅させ、バニラと上空の管理者を交互に睨み据えました。

 

「どうしたもこうしたもない。敵になるなら相手になるだけだって言いたいところなんだけど……さっきの斬撃、アンタたちの仲間があの赤いのに攻撃した、ってことで合ってるのか?」

 

「さあね、多分そうじゃないかな? 正確に言うと、そういう無茶をしそうな人が僕たちのトップに前居たんだよね。今は書類仕事で忙しそうだけど……久しぶりに外の空気を吸って、昂っちゃったのかな」

 

バニラは肩をすくめ、適当な言い回しで煙に巻きます。しかし、その視線は鋭くデータ生命体の動向を探っていました。

 

「それなら、あの赤いのはそっち側の『敵』でもあるんだな?」

「多分、そうなるんじゃないかな? ……おーい! そっちの怪物の中にいる人!」

 

バニラは突然、空中の白い影に向かって手を振り、声を張り上げました。

「多分聞こえてると思うから聞くけどさ! 正直、君はクライムくんにしか興味ないんだよね? それ以外に攻撃的な反応を示さないなら、こっちは何もしないよ!」

 

バニラの「交渉」に対し、管理者の冷徹な声が、彼らの脳内へ直接叩きつけられました。

 

(……悪いが、この次元宇宙の者たちすべてを『初期化(リセット)』するつもりなのだ。つまるところ、君たち生きている者たちはデータ生命体……いや、君たちの世界で言うなら『異次元獣(プレデター)』とでも言ったところかな。それで全てを栄養として還元させてもらうつもりだ。提案に乗りたいところだけど、悪いね)

 

「……チッ、交渉決裂か。物分かりの悪いプログラムだね」

 

バニラが毒づいた瞬間、空を埋め尽くしていた無数の「瞳」が中心の一点へと収束を始めました。数字の羅列が激しいスパークを起こし、データ生命体はその姿を禍々しい「巨大な神像(ギガ・スタチュー)」へと変貌させていきました。

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