僕のヒーローアカデミア:スパイダーウェブ   作:スパイダーキャット

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お待たせしました。
実は今お仕事が佳境でして……4月中はあんまり更新できないかもしれません。ごめんね



職場体験編
第33話 コードネーム


 

 体育祭の翌日と翌々日は休校だった。

 

 この二日間、イトは延々とウェブシューターの追加機能設計案を練り続けていた。

 

「発想は悪くなかったと思うんだよな……勝己くんには通じなかったけど、もっと自由に威力を操作出来るようにして、あと連射も……」

 

 一度ペンを置き、伸びをする。ふと、綺麗に畳んでビニールに包み、机の端に置いてある体操服が目に入った。

 爆豪が被せてくれた体操服だ。

 

「……」

 

 準決勝の結末が思い起こされる。

 ……同い年の男子に裸を見られた、かもしれない。煙がすごかったからちゃんとは見えてないかもしれないが……でも体操服は確実に焼けていて。つまり……。

 

(やめろやめろやめろ思い出すな)

 

 ぶんぶんと頭を振り、イトは改めて机に向き直った。

 

(……服返す時、もっかいだけ聞こう)

 

 

 

    *

 

 

 

 最寄り駅に向かう道は普段通りで、普段通りの人々が行き交っている。

 

 ──はずだった。

 

「あ、あの子! 体育祭の!」

 

 背後から、女性の声が聞こえた。

 

 え、と振り返る前に、道の反対側を歩いていたサラリーマン風の男性と目が合った。男性はイトの顔をまじまじと見て──ぱっと表情を明るくした。

 

「おお、三位の子じゃない! すごかったねえ!」

「え、あ、ありがとうございます……」

 

 反射的に頭を下げる。男性はニコニコと手を振って去っていった。

 

(……え? 今の、私に?)

 

 信じられない気持ちで歩き出す。だが数歩も行かないうちに、今度は信号待ちをしていた女子高生のグループがこちらを見てひそひそ話を始めた。

 

「ねえねえ、あの子、雄英の体育祭出てた子じゃない?」

「あー! あのすごい跳び回ってた子!」

「ガッツすごかったよねー」

 

 イトの顔が一気に赤くなった。

 

(テレビ中継されてたんだった……)

 

 早足で信号を渡る。だが駅に着くまでの間にも、ちらちらとこちらを見る人の視線を感じた。雄英の制服を着ているせいもあるだろう。体育祭直後のこの時期、雄英生は街の注目の的になる。

 

「おい、あの子さ……」

「わ、マジじゃん!」

 

 気づけばあっという間に人だかりができていた。四方八方から声が飛んでくる。

 

「ねー写真いい!?」

「あっずるい私も!」

「サインください!」

「えっあのちょっ、さ、サイン!?」

 

 完全に取り囲まれてしまった。

 

「ご、ごめんなさーい!!!」

 

 イトは咄嗟に真上へ跳躍した。ビルの壁面にウェブを撃ち、そのまま振り子の要領で一気に人垣の上を飛び越える。

 

「わっ跳んだ!?」

「すっげー!!」

 

(評価されるのは嬉しいけど、遅刻は勘弁!)

 

 ビルとビルの間をウェブで飛び移りながら、イトは急いで駅を目指した。

 

 

    *

 

 

「超声かけられたよ来る途中!」

 

 教室では、すでに同じ話題で持ちきりだった。

 

「私もジロジロ見られてなんか恥ずかしかった!」

「俺も!」

「私取り囲まれて危うく遅刻するとこだった……」

「マジかよ」

 

 どうやら体育祭直後の雄英生はどこでも注目されるらしい。自分だけではなかったことにイトは少し安心した。だが──

 

「あ、もしかしてこれ? 街中をターザンみたいに飛ぶ女子高生! 超バズってるよ」

「えっ……」

 

 透がスマホの画面をこちらに向けた。SNSの動画。──今朝、ビルの間をウェブで飛び回るイトの姿がばっちり撮影されていた。再生数がすごい勢いで伸びている。

 

「撮られてた……」

「おーやってんなあ」

「そらこんなん撮られんべ」

「恥ずかしい……」

 

 イトは机に突っ伏した。耳まで赤い。

 

 その時、上鳴がイトの机の上に置いてあるビニール袋に気づいた。

 

「ところでさ、その袋何?」

「……え、あ!」

 

 忘れるところだったと、イトは慌てて立ち上がった。

 

「爆豪くん!」

「あ?」

 

 イトがビニール袋を持って爆豪の席に向かう。教室が一瞬静まる。

 イトは袋を爆豪に差し出した。

 

「えっと、これ……ありがとう」

「……フン」

 

 爆豪は短く鼻を鳴らすと、黙ってそれを受け取った。

 

「……あの、ちゃんと洗ったから」

「あ? あぁ」

「………………でさ」

「んだよ」

「いやあ…………えっとね……?」

「……チッ、ハッキリ喋れや」

「ごめんなんでもない」

「あァ!?」

 

 しばらく爆豪の前にまごついていたイトだったが、やがてくるりと爆豪に背を向けた。

 

(いや無理無理無理! 私の裸見た?なんて改めて面と向かって聞けないよ!)

 

 本気で殴り合ってなんとなくテンションが上がっていた決着直後はともかく平時のイトにそのような度胸はなく、爆豪の怒号を背に受けながら逃げるように自分の席に戻る。

 

 イトが席に着くと同時、教室の前のドアが開いた。

 

「おはよう」

 

 相澤の登場と同時に、教室が静かになる。

 

「今日のヒーロー情報学の授業はちょっと特別だぞ」

 

 ヒーロー情報学。ヒーロー関連の法律や制度を学ぶ科目だ。「特別」という言葉に、教室内に微妙な緊張が走った。座学が苦手な面々──上鳴や芦戸あたりが顔を引きつらせている。

 

 

「『コードネーム』──ヒーロー名の考案だ」

 

「「「胸膨らむヤツ来たあ!!!」」」

 

 

 クラスがどっと湧くが、相澤が説明の途中だとばかりにひと睨みするとすぐに静まる。

 

 相澤の説明は続く。

 体育祭でのパフォーマンスを見たプロヒーローから指名──いわば「うちに来ないか」という声がかかっており、その集計が完了したという。ただし今回の指名はあくまで将来に対する興味程度のものであり、その興味が2年3年と続かなければ取り消しもあり得る。指名の有無で一喜一憂するなと、相澤は釘を刺した。

 

「でまあ、その指名の集計結果がこうだ」

 

 相澤がリモコンを操作すると、黒板にプロジェクターの映像が映し出された。

 

 11人の名前と数字が並んでいる。

 

 一番上にある名前は轟、3712件。二番目には爆豪、3356件の指名が入っていた。

 そしてその次が──

 

「私、三番……?」

「いや驚くことじゃないでしょ体育祭三位」

「イトちゃんすご!」

 

 安良久根イト、1502件。

 

「例年はもっとバラけるんだが……今回は三人に注目が偏った」

 

 四位以下には飯田、常闇、上鳴、八百万、切島、麗日、芦戸、緑谷と続いている。

 

「アタシも来てるー!」

「ぼぼぼぼ僕にも……!」

「これを踏まえ、指名の有無に関係なく……いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。おまえらは一足先に経験してしまったが……プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」

 

 職場体験。プロの現場で実際のヒーロー活動を体験する。イトの胸が高鳴った。

 

「それでヒーロー名か!」

「俄然楽しみになってきた!」

「まァ仮ではあるが適当なもんは……」

 

「つけたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 教室のドアが勢いよく開き、ミッドナイトが華麗に入室した。

 

「この時の名前が世に認知されて、そのままプロ名になってる人多いからね!」

「…まァそういうこと。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう」

 

 ホワイトボードとマーカーが一人ずつ配られた。各自が書いて、できた人から発表する形式だ。しばらくのシンキングタイムの後──

 

「僕から行くよ!」

 

 一番手は青山だった。堂々と教壇に向かい、ホワイトボードを掲げる。

 

「『I can not stop twinkling(キラキラが止められないよ☆)』!」

 

「「「文章じゃん!!」」」

 

「Iを取ってCan'tにした方が呼びやすいわよ」

「それはマドモアゼル☆」

 

 ミッドナイトが冷静にアドバイスする。青山は満面の笑みで席に戻った。

 続いて手を挙げたのは、芦戸。

 

「次アタシ! はい、『エイリアンクイーン』!!」

(ツー)! 血が強酸性のアレ目指してるの!? やめときな!」

「ちぇー」

 

 芦戸がしょんぼりして席に戻る。

 

「次は誰にする?」

 

(((大喜利っぽい空気になった……)))

 

 クラスに緊張が走り、沈黙が下りる。そんな中、次に手を挙げたのは──

 

「わ、私! いいですか……?」

 

 イトだった。

 

「はい、安良久根さん!」

「うおお行くんか安良久根、この空気で……!」

 

 イトにしては珍しく興奮気味の様子で、鼻息荒く教壇に向かいボードを掲げる。

 

 そこには大きな文字で──

 

 

「『スパイダーウーマン』!!」

 

 

 教室がざわめく。

 

(小さい頃から考えてた名前……! 皆も驚いてるのかな、カッコいいよね!)

 

「普通だ」

「普通だね」

「よっしゃ普通だサンキュー安良久根!」

 

「えぇ!?」

 

 想定していた反応と全然違う。カッコいいとか言ってもらえると思っていたのに「普通」で処理されてしまい、イトは狼狽した。

 

「分かりやすいと思うけど、ちょっと語呂が悪いわね。スパイダーを中心にするとしてももう少し練ってみたら?」

「は、はい……」

「スパイダーマンならいい感じじゃね?」

「男になっちゃってんじゃん」

「スパイダーガール…うーん」

「スパイダーレディが良いと思うぜ」

「峰田くんはマウントレディ好きなだけでしょ!」

 

 イトはしおしおと席に戻った。ボードの文字を消して、白紙に戻す。

 

(これダメかあ……でも他に何が……)

 

「じゃあ次、私いいかしら」

 

 悶々としていると、次の発表者──蛙吹が立ち上がった。

 

「梅雨入りヒーロー『フロッピー』」

 

(……!)

 

「小学生の時から決めてたの」

「カワイイ! 親しみやすくて良いわね!」

 

(……フロッピー)

 

 イトは小さく衝撃を受けていた。

 

(あだ名っぽい感じか……うーん)

 

 

 その後も次々と発表が続いた。

 

 

「『ピンキー』!」

「いいわ! キュートで覚えやすい!」

「やったーっ!!」

 

 芦戸が勢いよくガッツポーズした。

 

「『ウラビティ』……実は考えてありました」

「シャレてる!」

 

 お茶子は恥ずかしそうにはにかむ。

 

(フロッピー、ピンキー、ウラビティ……どれも個性や見た目を、短く、親しみやすく変えてる。蜘蛛をそのまま押し出すんじゃなくて……もっと柔らかく、自分だけの言葉に……)

 

 マーカーが動いた。

 ためらいもなく、するすると。

 

 やがて書き終えると、イトは手を挙げた。

 

「安良久根さん! どうぞ!」

 

 教壇に立つ。ボードをクラスの方に向けて──

 

 

「──『スパイディ』、で」

 

 

「……うん、親しみやすい! いいじゃない」

「梅雨ちゃんとか、芦戸さんお茶子ちゃんの名前見て、こういう感じもいいかなって……」

 

 蛙吹、芦戸、お茶子の方をちらりと見ながら、イトは照れくさそうに言った。

 

「えー私!?」

「なんか恥ずい……」

「お友達とお揃い、嬉しいわ」

 

 芦戸は手をぱたぱた振り、お茶子は両頬を押さえて照れ、蛙吹は嬉しそうに微笑んだ。

 

「青春! 良いわねそういうの大好き! さァどんどん来なさい、次は誰!?」

 

 ミッドナイトがハイテンションで次の発表を催促する。

 

 

 安良久根イトのヒーロー名(コードネーム)が──こうして決まった。

 





悩みましたが、ヒーロー名は『スパイディ』にしました。
指名数に関しては

・シンプル3位
・それ以前の種目の成績も優秀
・準決勝敗退とはいえ爆豪との試合内容は轟より良かった
・女子の中での成績は1位なので女性ヒーローからの指名が集中

という感じで、結果同じ3位の飯田くんよりかなり票が集まった感じです。
ついでにそのイトとそこそこいい勝負した芦戸さん、原作と違い轟くんと引き分けになった緑谷にも少し指名が来ました。

中学編、USJ編みたいな章区分あった方がいいですか?

  • あった方がいいかも
  • なくてもいいかも
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