基本的に一話完結(予定)

いい感じに性癖に刺さるシチュを思いついたら更新します

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誰にでもいつかは訪れる別れ。ありふれているけど、絶対に特別なもの




 彼女、雨音(あまね)と出会った日から、二年の歳月が流れていた。時間というものは実に残酷なもので、あれよあれよという間に卒業の日が来ていた。二年もあれば僕と彼女の関係も進展し、交際を始めていた。正確には一年前から交際していたのたが、色々あって公表するのが遅れ、周囲には今年付き合い始めたと認識されている。

 

 本来ならば今は、高校の卒業式に参加している時間だ。僕は一足先に高校を卒業し、そしてその一年後には、彼女も卒業し大学生となっている。そのはずだった

 

 現実というものはそう甘くはないようで。彼女は居眠り運転のトラックに撥ねられてあっさりとなくなってしまった。その日は大雨で、トラックを避けようとして転んだ小学生を庇って亡くなってしまったそうだ。即死だったとのことで、彼女が苦しまずに逝けたことは良いことなのか、悪いことなのか。少なくとも、僕には判断することはできなかった。

 

 彼女の両親(欲に塗れた豚ども)は運転手から慰謝料をふんだくってやると息巻いていた。正直、慰謝料なんてどうでもいいと思ったが、彼女の死を利用されるのは腹が立ったので、奴らが過去に彼女に対して行なっていた仕打ちをタレコミして社会的に終わらせてやった。少しだけ気分がよかった。

 

 この一週間にあったそんな色々を乗り越えて、今日は葬儀の日だった。彼女は学校中の人気者だったからか、卒業式と同じ日だったというのに、葬儀にはたくさんの同級生が参列した。理事長が便宜を図ってくれ、卒業式の日がずれたのも大きいだろう。だけども、そんなことがなくても、彼女の葬儀には多くの参列者が集まっていたと思う。

 

 葬儀は滞りなく進み、弔辞を読み上げる時間となった。彼女と付き合いの長かった順番に読み上げるようで、最初に喪主である雲雀さん(雨音の姉)が読み上げた。

 

「雨音に、こんなに早くさよならを言わなければならないなんて。いまだに夢の中にいるようです。

 ちっちゃな頃から、雨音は人気者で、なんでもできた。そんな雨音が、私は誇らしかった。私が社会人になってからも、雨音はいっぱい連絡してくれたね。引っ込み思案だった私は、いつも、あなたに勇気をもらっていたよ。雨音と過ごした時間、その全てが、私にとって、大切な、宝物だよ...」

 

 読んでいる途中に泣き出してしまったようで、だんだんと途切れ途切れになってきた。彼女以外の参列者も泣いているようで、会場からすすりなく声が聞こえる。

 

「まだ、一緒に、したいこと、たくさんあったよ。お気に入りのカフェも、まだ、一緒に行けてないよ。でもね...雨音が、小さな子を守るために、命をかけたって聞いて...とっても、悲しかったけど、あなたらしいなとも、思ったの。雨音は、私の、一生の誇りだよ。私の妹に生まれてくれて、ありがとう。大好きだよ、雨音。どうか、安らかに眠ってね」

 

 彼女は泣きながらも、自身の役割を果たした。そんな彼女に続き、僕の番が来た。親戚が少ないのもあって、弔辞を読み上げるのは僕と雲雀さんの二人だけだった。

 

「雨音...」

 

 霊前に行くまでに見た彼女の顔からは、全ての熱が奪われたように、生気が感じられなかった。普段の彼女を考えると、今すぐに飛び起きても違和感はないのに。もう目覚めることはないと、今更になって実感する。

 

「雨音。突然の別れは、正直信じられません。雨音と過ごした時間は、僕にとってかけがえのない宝物でした。君はいつどんな時も、笑顔を崩さないでいて」

 

 初めて会った日は、委員会の顔合わせだった。図書委員会の後輩として紹介された時は、あまりの明るさに面食らったけど、同じ作家が好きで、すぐに打ち解けられた。

 

「時折無茶をすることもあったけど、それはいつも誰かのためにしていて、そんな君の姿に、僕は惹かれました」

 

 図書当番の初日に、自分も背が低いのに、他の背の低い同級生のために無茶して高いところの本を取ろうとして脚立から落ちそうになってた時は心臓が止まるかと思った。

 

「君とはいろんなところに行ったね。図書館に動物園、遊園地、海。それからただの散歩まで。」

 

 ありふれた景色だろうと、彼女がそばにいるだけでどんなものでも輝いて見えた。一緒に行った海は、今まで見たどんなもの景色よりも輝いて綺麗に見えた。

 

 雨が降った日は、少しでもそばにいられるように、雨がやまないように祈ったりもした。

 

「もっと君のそばで笑い合いたかった。君と約束したように、ずっとそばにいたかった」

 

 視界が滲んできた。これはきっと雨のせいだ。

 

「雨音と過ごした、愛おしい日々は、これからも未来永劫、忘れることはないです。僕を、こんな僕を、愛してくれて、ありがとう。少しの間、お別れだけど。ゆっくりと休んで」

 

__________________________________________________

 

 ある雨の日、僕はお墓参りに来ていた。雨音の葬式から七年の月日が流れ、僕は大学を卒業し、出版社で勤務していた。

 

 元は小説家になろうとしていたが、在学中に書いた一作がヒットして以降は鳴かず飛ばずで、そのまま大学で作った縁で出版社に入社した。

 

「久しぶり、雨音。ここに来るのは大学卒業以来かな」

 

 墓石は雨粒が付いているのを除けばとても綺麗な状態で、地元に残った誰かが定期的に掃除してくれているみたいだ。おそらく雲雀さんだろうか。本当なら僕もやりたいところだけど、今の勤務地とここは遠すぎてそれは叶わなさそうだ。

 

「小説家にはなれなかったけど、出版社で編集の仕事しててさ。最近は担当の子が売れっ子になったりして、自分のことみたいに嬉しいんだ」

 

 三年ぶりだからか、自分でも驚くくらいにスラスラと言葉が出てくる。自分が思っていた以上に、彼女に話したいことは多かったみたいだ。

 

「そういえば...雨音と会う日は、雨が多かったね。僕か雨音のどっちかがそういう体質だったのかな」

 

 数年前までは、彼女は常にそばにいたはずなのに。今では、彼女のいない生活に慣れてしまっている自分がいた。

 

「雨、止みそうにないね。もしかして、雨音も僕みたいにそばにいたくて、雨がやまないことを祈っているのかな?だとしたら嬉しいけど」

 

 本当ならこのまま夜まで語り明かしても足りないくらいだけど、あいにくと時間がないようだ。この話は、次来た時にでも話そうかな。

 

「そろそろ行くね、雨音。また今度、土産話をたくさん持ってくるよ」

 

 雨音は未だに響いていたけど、どこか心地が良かった。




雨音が響いていますね

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