ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 - 作:z567ug
荒野を抜けた先。
視界の奥に、それはあった。
巨大な壁。
灰色の石で築かれた外壁が、地平線を遮るように連なっている。
その上には、見張りの影。
槍。
弓。
そして――
門の前には、長蛇の列。
「……でか」
湊は、思わず呟いた。
ローデルとは、比べ物にならない。
人の数。
荷車。
怒号。
金の匂い。
「……ここが」
リーネが、小さく言う。
「この大陸で、一番大きい街」
「……港町、か」
列に並ぶ。
順番が来る。
「目的は?」
「通過と、金稼ぎ」
「……通れ」
あっさりだった。
「ガバいな」
「人が多すぎるから」
中へ。
「……っ」
視界が開ける。
広い。
石畳の大通り。
左右に並ぶ建物。
びっしりと並ぶ露店。
「うるっさ……」
喧騒。
叫び声。
笑い声。
罵声。
すべてが混ざっている。
「……すごい」
「ローデルと、全然違う」
「違いすぎるな」
だが。
「……臭いも違う」
「今失礼なこと思ったでしょ」
「思ってない」
「思ってる顔」
「顔で判断すんな」
軽口。
「……まず金だな」
「うん」
魔石屋へ。
査定。
売却。
「この街の名前は?」
「……グレイヴェル港都だ」
その名が落ちる。
重い。
「覚えとけ。ここは食うか食われるかの街だ」
店を出る。
「……腹減った」
「またそれ」
その時。
「おう、兄ちゃん」
振り向く。
大柄な男。
「新入りだろ?」
「そんなとこ」
「なら案内してやるよ」
「いきなり親切だな」
「暇なんだよ」
笑う。
「ガルドだ」
「湊」
「リーネ」
歩きながら案内。
商業区。
露店。
奴隷。
「……露骨だな」
「ここじゃ普通だ」
「普通か……」
「全部が全部じゃねぇけどな」
ガルドが軽く言う。
「……あっち行くか」
闘技場。
巨大な円形建造物。
「……でっか」
中へ。
歓声。
戦闘。
「おお……」
『動きが甘い』
ガイゼル。
『隙だらけでござる』
宗十郎。
『雑魚だな』
羅豪。
「お前らうるせぇな」
「楽しんでるじゃん」
「まぁな」
観戦。
終わる。
歓声。
「……見世物だな」
「この街じゃ、“強さ”が価値になる」
「分かりやすい」
外へ。
「で、本題だな」
ガルドが声を落とす。
「この街を仕切ってる奴」
「北だ」
視線を向ける。
遠くに、城。
「名前は?」
一瞬の間。
ガルドが周囲を確認する。
「……シグマ・グラディウス」
その名前が、静かに落ちる。
「ただし」
指を立てる。
「絶対にその名前で呼ぶな」
「は?」
「本人、あの名前嫌いなんだよ」
「じゃあ何て呼ぶんだ?」
「シーマ」
「……あだ名?」
「本人公認だ」
「へぇ」
ガルドの顔が、少しだけ真面目になる。
「昔な」
「本名で呼んだ奴がいた」
「で?」
「その場で殺された」
「……は?」
「街の真ん中でな」
静かに言う。
「キレてな」
「一瞬だった」
「周りの奴らも、何もできなかった」
空気が、少しだけ重くなる。
「……ヤバいやつじゃん」
「ヤバいなんてもんじゃねぇ」
ガルドが笑う。
「でもな」
「綺麗なもんは好きらしい」
「は?」
「街の整備も、見た目も、全部“美しく”したがる」
「……美意識高いタイプか」
「そういうことだ」
リーネが小さく呟く。
「……怖いね」
「怖ぇよ」
ガルドがあっさり言う。
「でもな」
「この街が回ってるのも、あいつのおかげだ」
「……なるほどな」
秩序と恐怖。
その両方で支配している。
「……行くのか?」
ガルドが聞く。
「行く」
湊は即答する。
リーネを見る。
「うん」
迷いなし。
ガルドが笑う。
「いい顔してんな」
「無茶すんなよ?」
「もうしてる」
「違いねぇ」
笑い。
そして。
北を見る。
灰の空の下。
巨大な城。
グレイヴェル港都の頂点。
シグマ・グラディウス。
いや――
「……シーマ、か」
その名を、思わず呟いた。
物語は、核心へと近づいていく。