ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 -   作:z567ug

12 / 32
第十二話 灰の城、待ち受ける者

夜。

グレイヴェル港都は、昼とは別の顔を見せていた。

灯り。

酒。

笑い声。

 

そして――

影。

 

「……目立つな」

 

湊が呟く。

 

昼間に見た喧騒とは違う。

だが、人の気配は減っていない。

 

「夜の方が、危ない」

 

リーネが言う。

 

「見えないところで、色々起きるから」

「分かりやすいな」

 

視線の先。

北。

城。

巨大な影が、夜空に沈んでいる。

 

「……あそこか」

「うん」

 

しばしの沈黙。

 

「正面突破は?」

 

『論外だ』

ガイゼル。

『兵力差が大きすぎる』

 

「だよな」

 

『闇に紛れるのが最善でござる』

宗十郎。

『やるなら一瞬で仕留めなさい』

シア。

 

「じゃあ潜入か」

「……行くの?」

「行く」

 

即答。

リーネは少しだけ息を吸って――

 

「……一緒に行く」

「無理すんな」

「する」

「即答かよ」

「置いていかれる方が嫌」

 

湊は、少しだけ笑った。

 

「……分かった」

「行こう」

 

夜に紛れる。

城へ。

近づく。

 

「……おかしくないか」

「うん」

 

リーネが小さく頷く。

 

「人が少ない」

 

門。

警備が、ほとんどいない。

 

「罠か?」

 

『可能性が高い』

ガイゼル。

『だが、進む以外に選択肢はない』

 

「だな」

 

中へ。

広い。

静か。

異様なほどに。

足音だけが響く。

 

「……気味悪い」

「うん」

 

進む。

廊下。

階段。

 

そして――

大広間。

扉が、開いている。

 

「……あからさまだな」

「でも、行くしかない」

「だな」

 

踏み込む。

広間。

広い。

高い天井。

中央。

ひとり。

椅子に座っている。

脚を組み、頬杖をつき、こちらを見ている。

 

「……いらっしゃい」

 

ゆっくりと、声が響く。

 

「待ってたわよ」

 

空気が変わる。

ぞわりと、背筋が粟立つ。

 

「……お前が」

「そうよ」

 

立ち上がる。

長い外套。

整った顔立ち。

 

「ローデルでの事……褒めてあげるわ」

 

一歩、前へ。

 

「アタシがこの灰冠大陸《グレイシア》を統べる…」

「シグマ・グラディウス」

 

その名を、自ら名乗る。

 

「でも」

 

くすりと笑う。

 

「その呼び方は嫌いなの」

 

目が細くなる。

 

「シーマって呼びなさい」

 

その瞬間。

周囲の影が、動いた。

気配。

 

「……囲まれてるな」

「うん」

 

完全に、包囲。

 

「……歓迎って感じじゃねぇな」

「歓迎してるわよ?」

 

シーマが微笑む。

 

「ちゃんと、殺す準備までしてあげてるもの」

「それは歓迎って言わねぇ」

「そう?」

 

首を傾げる。

 

「優しいと思うけど」

 

空気が、重くなる。

 

『戦闘不可避』

ガイゼル。

『全員強い』

 

「……だろうな」

 

一歩、前へ。

 

「リーネ」

「うん」

「下がれ」

「でも」

「いいから」

 

短く言う。

リーネは、一歩だけ下がる。

 

「……行くぞ」

 

意識を沈める。

切り替わる。

 

「――遅い」

シア。

 

一瞬で消える。

 

「……あら」

 

シーマが笑う。

 

「面白いわね」

 

戦闘開始。

刃が走る。

影が動く。

 

だが――

 

「数が多い!」

 

『退け』

ガイゼル。

「まだ――!」

 

「無理よ」

シーマの声。

「あなた達、弱いもの」

 

圧。

明確な差。

 

「……っ」

 

押される。

囲まれる。

 

「撤退だ!」

『判断は正しい』

ガイゼル。

 

走る!

リーネの手を引く。

突破。

ギリギリ。

外へ。

 

「はぁ……!」

 

距離を取る。

追撃は――来ない。

 

「…逃がして…くれたのか?」

 

振り返る。

城の上。

シーマが立っている。

 

「また来なさい」

 

手を振る。

 

「次は、もっと楽しませてね」

 

笑っていた。

 

「……最悪だな」

 

湊が呟く。

 

「うん」

 

リーネも、小さく頷く。

 

「でも」

 

湊は、少しだけ口元を上げた。

 

「やることは決まった」

 

強くなる。

それだけだ。

灰の都の夜は、まだ終わらない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。