ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 -   作:z567ug

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第十七話 海を越えて

海。

どこまでも続く、灰色の水平線。

 

「……広いな」

湊が呟く。

 

「うん」

リーネが、手すりに寄りかかりながら海を見ている。

 

風。

潮の匂い。

 

「……なんかさ」

 

「うん?」

 

「今までずっと、灰ばっかだったじゃん」

 

「うん」

 

「ちょっと新鮮だな」

 

リーネが小さく笑う。

 

「……でも、ちょっと怖い」

 

「分かる」

 

沈黙。

波の音だけが響く。

 

「おーい」

 

声。

振り向く。

 

「暇そうだな、兄ちゃんたち」

船長。

 

大柄な男が、笑いながら歩いてくる。

 

「まあな」

 

「海は初めてか?」

 

「まあ、そんな感じ」

 

「だろうな。顔に出てる」

 

「分かるのかよ」

 

「分かる分かる」

 

笑う。

 

「セルディアに行くのは初めてか?」

 

「そうだな」

 

「ほぉ」

 

船長が、少しだけ目を細める。

 

「蒼礼大陸《セルディア》か」

 

「どんなとこなんだ?」

 

「そうだな……」

 

船長が、海を見ながら言う。

 

「この世界はな」

「灰冠大陸《グレイシア》から見て」

「海を挟んで、扇みたいに大陸が広がってる」

 

「扇?」

 

「外に行くほど、でかくなる」

 

「……へぇ」

 

「一番外側が――天冠大陸《エルダリア》」

 

少し、間。

 

「この世界の陸地の半分以上がエルダリアと言っても過言じゃねぇ」

 

「でかすぎだろ」

 

「だろ?」

「……で」

 

船長の声が、少しだけ低くなる。

 

「上に行くほど、お前らは“人じゃなくなる”」

 

「……どういう意味だ?」

 

「簡単だ」

「下の奴らは、上の奴らの道具だ」

 

沈黙。

 

「奴隷ってこと?」

リーネ。

 

「ああ」

「上の奴らが下の奴らを攫ってきて自分で使ったり更に上の奴らに献上する」

「そんな事をしてこの世界の特権階級以外の奴らは生きながらえてる」

「この世界じゃ、それが当たり前だ」

「まぁ俺らは海産資源やら流通の要だからそんな扱いは受けないがな」

 

「……」

 

「捕まった奴らは人として見られない」

「扱いも、まあ……察しろ」

 

風が吹く。

 

「……クソだな」

湊が吐き捨てる。

 

「まあな」

船長が肩をすくめる。

 

「だから下の連中は、上に行きたがらねぇ」

「捕まる可能性が高くなるからな」

「セルディアは水が豊富で水産資源もよく取れる良い所だが」

「お前ら」

「身分を隠して行動することをお勧めするぜ」

 

「……そりゃそうだ」

 

その時。

 

「……ん?」

 

船長が、目を細める。

遠く。

海面。

 

「……おい」

 

声が変わる。

 

「全員、構えろ」

 

船員たちが動く。

 

「敵だ」

 

「敵?」

 

「サハギンってやつだ」

 

「サハギン?」

 

「魚みてぇな魔物でな」

「背中に刃みたいな羽があってな」

「それで水の上を滑る」

「羽は飛ばしてくるし、引きちぎっても再生する」

 

「……めんどくせぇな」

 

「だろ?」

 

その瞬間。

水面が弾ける。

 

「来るぞ!!」

 

複数。

船員たちが迎撃する。

剣。

槍。

叫び声。

 

「……俺らも行くか」

 

その時。

 

『待て』

宗十郎。

 

「ん?」

 

『拙者がやる』

 

「……珍しいな」

 

『腕が鈍る』

 

「まあ確かに」

「頼む」

 

切り替わる。

 

「――参る」

宗十郎。

 

静かに立つ。

脇差。

短い刀。

構える。

 

一匹。

こちらへ飛び込んでくる。

速い。

羽が飛ぶ。

 

「――」

 

一歩。

最小の動き。

斬る。

 

「……」

 

魔物が、ズレる。

そのまま。

崩れる。

一刀。

沈黙。

 

「……終わりでござる」

 

湊に戻る。

 

「……すげぇな」

 

「うん」

「全然ちがう」

 

『当然でござる』

 

だが。

 

『……いや』

宗十郎。

『足りぬ』

 

「ん?」

 

『短い』

 

脇差を見下ろす。

 

『その長さでは、間合いが狭すぎる』

『本領は発揮できぬ』

 

脳内。

 

『確かに』

ガイゼル。

 

『武器問題ね』

シア。

 

『長刀が必要ですね』

セレス。

 

『でかいの買おうぜ!!』

羅豪。

 

「お前は黙ってろ!」

「……まあ」

「次の大陸で調達だな」

 

『異論なし』

全員。

 

その時。

 

「おいおいおい!」

 

船長が近づいてくる。

 

「あのサハギンを一瞬で!?」

「ヒョロいのにやるじゃねぇか!」

 

「誰がヒョロいだ」

 

「どう見てもだろ!!」

 

「失礼なやつだな!!」

 

リーネが笑う。

 

「助かったぞ」

船長が笑う。

「ありがとな」

 

「どういたしまして」

 

「また何かあったら頼むわ!」

 

「嫌だ」

 

「即答かよ!?」

 

笑い声。

 

しばらく。

穏やかな時間。

そして。

 

「……見えてきたぞ」

船長。

 

前方。

大陸。

 

「……あれが」

「蒼礼大陸《セルディア》だ」

 

広い。

青い。

灰とは違う世界。

 

「……綺麗だな」

湊が呟く。

 

「うん」

リーネも頷く。

 

「……行こう」

 

次の大陸へ。

物語は、次の段階へ進む。

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