ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 - 作:z567ug
森は、同じ景色が続いていた。
どこを見ても似たような木、似たような影。
方向感覚が狂う。
「……これ、普通に迷うな」
湊が周囲を見回す。
「うん……どこも同じに見える」
リーネも不安そうに言う。
その時。
『落ち着け』
ガイゼル。
「分かるのか?」
『木の傾き、苔の付き方、風の流れ……情報は揃っている』
「マジかよ」
『この程度で迷うな』
(頼もしいなこいつ)
進む方向が定まる。
森の奥へ。
その途中。
枝の上から、影が落ちた。
猿のような魔物。
「――来る!」
だが。
気配が消えた。
次の瞬間。
「……終わり」
シア。
いつの間にか背後に回り、喉元を裂いていた。
音もなく、倒れる。
(……こえぇな)
「効率重視よ」
シア。
進む。
今度は、地面が揺れた。
「……でかいな」
熊のような魔物。
唸り声を上げて突進してくる。
「羅豪!」
『任せろぉ!!』
切り替わる。
踏み込む。
真正面から受け止める。
「おおおお!!」
押し返す。
そのまま――叩き潰す。
「……雑魚だなぁ!!」
(いや強いだろ今の)
「鍛え方が足りねぇんだよ」
進む。
次に現れたのは、豹のような魔物。
静かに、しかし速い。
「……速い」
「宗十郎」
『承知』
切り替わる。
一歩。
踏み込む。
「――」
抜いたのか、分からない。
次の瞬間。
魔物が、ずれる。
崩れる。
一刀。
「……これが本来の間合いでござる」
湊が内側で呟く。
(やっぱこいつ、やばいな)
森を抜ける。
視界が開ける。
木々が途切れ、岩肌が露出する。
「……出たな」
目の前には、ゴツゴツとした山肌。
そして。
中腹。
ぽつんと一軒。
「……あれか」
「うん」
「まだ結構あるな……」
登る。
傾斜はきつい。
足場も悪い。
「……きつ……」
湊が息を切らす。
「みなと、遅い」
「体力ないんだよ……」
『貸せ』
羅豪。
「え?」
『こんなん修行で慣れてる』
切り替わる。
「ほらよ」
リーネを背負う。
そのまま。
ぐんぐん登る。
(速っ!?)
(落とすなよ!?)
「落とさねぇよ!!」
あっという間に山小屋へ到着する。
小屋の前。
火。
鉄。
音。
カン、カン、と金属を打つ音が響いていた。
男が一人。
大柄。
上半身は裸。
煤まみれ。
無精髭。
片目に傷。
振り返る。
「……誰だ」
低い声。
「……帰れ」
一言。
「いや早いな!?」
湊が思わず突っ込む。
「用件くらい聞けよ!」
「聞く必要がねぇ」
ドゥルガン。
鉄を打ちながら言う。
「俺の子を持つ資格はねぇ」
「なんだよ子って?」
「俺が打った武具は全部俺の子だ」
「言い方!」
食い下がる。
「刀が欲しい」
「帰れ」
「即答かよ!」
「見りゃ分かる」
チラリと見る。
「その腰の短けぇ刃で戦ってる時点で論外だ」
『……ほう』
宗十郎。
空気が少しだけ変わる。
その時。
影。
上空。
「――来る!」
鷲のような魔物が急降下してくる。
速い。
鋭い。
「危な――」
その瞬間。
『任せよ』
宗十郎。
切り替わる。
一歩。
踏み込む。
振る。
それだけ。
「……」
魔物が、地面に落ちる。
真っ二つ。
沈黙。
ドゥルガンの手が止まる。
ゆっくりと近づく。
無言で。
脇差を掴む。
「……なんだそれ」
目が変わる。
「見たことがねぇ」
ぐっと顔を近づける。
「……模様……この波……」
興奮。
「俺以上の鍛冶師が居るってのか……?」
湊が言う。
「それ、買ったり作ったんじゃない、持ってたんだ」
「……は?」
「気づいたら持ってた」
「は?」
ドゥルガンが固まる。
「意味が分からねぇ」
「なんでだろうな」
「なんだそれ!!」
さっきまでの態度が嘘のように食いつく。
「貸せ!!」
「いやちょっと待て」
「分解してぇ!!」
「いやいや、それは勘弁してくれ!」
「構造見せろ!!」
「壊す気だろそれ!!」
リーネが苦笑する。
「……すごい変わりよう」
「職人ってなぁこういうもんだ!」
ひとしきり騒いだあと。
ドゥルガンが、ふっと真顔になる。
「……打ってやりてぇ」
「お?」
「だが、できねぇ」
「なんでだ?」
「材料がねぇ」
静かに言う。
「玉鋼の元になる砂鉄……それが取れねぇ」
「取れない?」
「ああ」
少し、眉をひそめる。
「洞窟があってな、そこに砂鉄が溜まってるんだが」
「だが?」
「しばらく前からスライムが居座っててな」
「スライム?」
「核を壊せば死ぬんだが。だがな……」
吐き捨てる。
「そいつは砂鉄を食っててなぁ」
「……ふむ」
「恐ろしく硬ぇんだ。俺の剣でも斬れねぇ」
沈黙。
その中で。
『なら問題ない』
宗十郎。
(お?)
『核ごと断てばよい』
(できるのか?)
『斬れぬ道理がない』
静かな確信。
湊が顔を上げる。
「俺たちが倒してくる」
ドゥルガンが見る。
「その代わり」
「刀を打ってくれ!」
少しの間。
ドゥルガンが、脇差を見る。
それから笑う。
「……いいだろう」
「こんなもん見せられて、黙ってられるか」
「俺の鍛冶がどこまで通じるか、試させろ」
「交渉成立だな」
リーネが頷く。
「うん」
空を見る。
日が落ち始めていた。
「今日は無理だ」
ドゥルガンが言う。
「洞窟は暗ぇ。明日にしろ」
「案内してくれるのか?」
「俺も行く。材料がいるからな」
「ありがたい」
小屋の前。
火が揺れる。
鉄の匂い。
夜が降りてくる。
「……明日か」
湊が呟く。
『ようやく、まともな刃に手が届く』
宗十郎。
その声は、いつもよりわずかに強かった。
次の戦いは、ただの戦闘ではない。
“刃を手に入れる戦い”だ。
静かな夜の中で、その予感だけが、はっきりとあった。