ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 -   作:z567ug

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第二十一話 黒刀、紅丸

山小屋へ戻るなり、ドゥルガンは一切の無駄を挟まなかった。

 

「荷、置いとけ。邪魔だ」

 

それだけ言って、すぐに炉へ向かう。

火を起こす。

風を送り込む。

炎が唸る。

 

「……始まったな」

湊が呟く。

 

返事はない。

ドゥルガンはもう、こちらを見ていなかった。

目が変わっている。

鉄を見る目だ。

 

――3日3晩。

その間、ドゥルガンはほとんど眠らなかった。

赤熱した鉄を取り出し、叩く。

カン――ッ!!

一打。

意味のある一打。

カン、カン、カン!!

連続する音。

火花が散る。

鉄が、まるで抵抗するように歪む。

 

「……暴れるな」

低く呟く。

 

もう一度、叩く。

押さえつける。

温度を見る。

色で判断する。

赤。

橙。

白に近づく前に戻す。

水へ。

ジュッ――!!

蒸気が弾ける。

また火へ。

また叩く。

それは、作業ではない。

戦闘だった。

素材と、職人の。

 

――一方、その頃。

『あと一回!!』

『足りねぇ!!』

 

「無理だって!!」

 

湊は地面に倒れ込む。

汗だく。

呼吸は荒い。

だが。

 

『立て!』

羅豪。

『ここで止めたら意味ねぇぞ』

 

「鬼かお前は……」

 

『鬼じゃねぇ、武だ』

 

「意味わかんねぇ!」

 

セレスが横から口を挟む。

『では回復します』

 

「いやちょっと待てその薬怖――」

 

飲まされる。

数秒後。

 

「……あれ?」

 

体が軽い。

痛みが引いている。

 

『では続けてください』

 

「やっぱ怖ぇ!!」

 

リーネが笑う。

「でも、さっきより動けてる」

 

「……確かに」

 

もう一度、立つ。

 

「……やるか」

 

『その意気だ!』

 

再び走る。

跳ぶ。

振る。

倒れる。

回復する。

またやる。

それを、何度も繰り返す。

常人なら壊れる。

だが、壊れない。

壊しては、戻す。

その繰り返し。

 

――4日目。

「……形になったな」

ドゥルガンが呟く。

 

刀身。

まだ粗いが、確かな“刃”がそこにあった。

だが終わりではない。

 

「次だ」

 

外装へ。

鞘。

鍔。

柄。

森で倒した魔物の素材が使われる。

削る。

合わせる。

調整する。

一切の妥協がない。

 

――10日目。

「……出来た」

静かに。

ドゥルガンが言う。

 

湊とリーネが振り向く。

そこにあった。

一本の刀。

 

「……これが」

 

ドゥルガンが手に取る。

大事そうに。

そして、差し出す。

 

「持て」

 

湊が受け取る。

重い。

だが、不思議と馴染む。

ゆっくりと。

鞘から抜く。

 

「……っ」

 

鈍い光。

赤黒い。

見たことのない輝き。

生きているような。

そんな錯覚。

 

「そいつは――」

 

ドゥルガンが言う。

「黒刀、紅丸だ」

 

「黒刀……紅丸」

 

「打ってる最中にな」

少しだけ笑う。

「勝手に浮かんでくる」

 

「名前が、か?」

 

「ああ」

 

刀を見る。

 

「だから、子なんだよ」

 

静かに。

優しく。

 

「こいつは、紅丸だ」

 

沈黙。

その時。

 

『……貸せ』

宗十郎。

 

強制的に、前に出る。

 

(おいっ)

 

「……」

無言。

 

紅丸を握る。

 

「……馴染む」

一言。

 

「まるで――」

 

軽く振る。

横に。

ただ、それだけ。

 

ズバッ――

音。

遅れて。

目の前の大木が、ゆっくりと崩れた。

 

(……は?)

(今……何した?)

 

「撫でただけでござる」

 

(いや斬れてるけど!?)

 

ドゥルガンが笑う。

「いいじゃねぇか!」

「その子はな」

 

誇らしげに言う。

「一太刀で決めるために打った」

「居合って言うんだったか?」

「相性良さそうじゃねぇか!」

 

宗十郎が、静かに頷く。

 

「良い刀だ」

 

それだけ。

だが。

最大級の賛辞だった。

ドゥルガンの口元が、わずかに緩む。

 

「……当然だ」

 

その後。

一息つく。

湊が言う。

 

「そういや」

「リヴェルア水上都市、どう行けばいい?」

 

ドゥルガンが答える。

「北だ」

「だが、かなり距離があるぞ?」

「手前に街があるからまずそこへ行け」

 

少し考える。

「ベルガルド市だ」

「物騒な所だがお前らなら大丈夫だろう」

 

そう言うと棚から何かを取り出す。

紙。

 

「これ持ってけ」

 

「手紙?」

 

「ああ」

 

「知り合いの宿屋だ」

「見せりゃ、融通してくれるはずだ」

 

「助かる」

 

外を見る。

日が傾いている。

 

「今日はやめとけ」

ドゥルガンが言う。

「暗ぇ中で動くな」

 

「もう一日世話になる」

 

「勝手にしろ」

ぶっきらぼうに言う。

 

――夜。

火が揺れる。

静かな時間。

 

「……さて」

 

ガイゼル。

『今後について整理する』

 

「頼む」

 

『まず、新しい統治者』

 

「情報が足りねぇな」

 

『次に、シーマの行方』

 

沈黙。

 

『奴が動けば、必ず痕跡が出る』

 

「出てないって事はこの大陸には居ないのか」

 

『あるいは――我々の認識が追いついていないかだ』

 

一瞬、沈黙。

 

『もっとも、我々はまだ弱い』

 

羅豪が笑う。

『鍛えりゃいいだろ』

 

「簡単に言うな」

 

『だが事実だ』

 

宗十郎。

『刃は手に入った』

『あとは研ぐのみ』

 

シア。

『情報も欲しいわね』

 

セレス。

『備えも必要です』

 

リーネが言う。

「……やること、多いね」

 

「だな」

湊が空を見る。

 

「でも――」

 

拳を握る。

 

「やるしかねぇだろ」

 

静かな夜。

火が揺れる。

物語は、次の段階へ進む。

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