ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 -   作:z567ug

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第二十二話 踏み込んだ先

ベルガルド市へ向かう道。

湊たちは、ゆっくりと歩いていた。

 

「……なんかさ」

 

湊が肩を回す。

 

「軽いんだよな、体が」

 

拳を握る。

以前より、明らかに違う。

 

「いやこれ普通に強くなってね?」

 

「うん、なってる」

リーネが素直に頷く。

 

「だよな?これもうこの先余裕じゃね?」

 

その瞬間。

『慢心だな』

ガイゼル。

『調子に乗ると死ぬぞ』

シア。

『足りねぇ』

羅豪。

『基礎はまだ甘い』

セレス。

『油断大敵でござる』

宗十郎。

 

「全員否定!?」

「ひどくない!?」

 

リーネがくすっと笑う。

「でも、ちょっとだけ分かる」

 

「だろ?」

 

「ちょっとだけね」

 

「ちょっとかよ」

 

そんな軽口を叩きながら進む。

その時。

前方に、数人の影が見えた。

荷車。

男。

 

そして――

倒れている、小さな体。

 

「……」

 

近づく。

男が、苛立ったように舌打ちする。

 

「使えねぇな」

 

足元の子供を見下ろす。

痩せ細った体。

浅い呼吸。

 

「病気か」

 

もう一人が言う。

「運が悪かったな」

 

「売り物にならねぇもんは、いらねぇ」

 

無造作に。

剣を振る。

 

「――ッ」

 

鈍い音。

動かなくなる。

そのまま、道端へ放り投げる。

 

「次行くぞ」

 

男たちは、それだけ言って去っていった。

沈黙。

風だけが吹く。

 

「……」

セレスが、前に出る。

 

(おい)

 

止める間もなく、表に出る。

「……待ってください」

 

小さく呟きながら、駆け寄る。

しゃがむ。

触れる。

確認する。

 

「……遅かったか」

 

手が、わずかに震える。

 

「熱、呼吸、脈……」

「感染症の可能性……ですが」

 

言葉が止まる。

 

「……もう」

ゆっくりと首を振る。

「助かりません」

 

沈黙。

歯を食いしばる。

 

(…あいつら…病気だから、殺したのか)

 

「はい」

 

セレスの声は、静かだった。

「治療という概念がない」

「もしくは、コストに見合わないと判断したのでしょう」

 

拳を握る。

 

「……もし」

 

少しだけ、声が揺れる。

「もう少し早ければ」

「薬があれば」

「設備があれば」

「……助けられた可能性は、ありました」

 

沈黙。

その言葉は重かった。

ゆっくりと。

セレスが立ち上がる。

 

「……私は」

 

静かに言う。

「この世界を、変えます」

 

振り返る。

その目は、揺れていなかった。

 

「病気で死ぬのは仕方ないとしても」

「治せる命を、捨てるのは違う」

「絶対に、違う」

 

強い意志。

各々が中で同調する。

 

リーネも、小さく。

「うん」

 

三人で。

子供を埋める。

土をかける。

手を合わせる。

 

「……」

 

言葉はなかった。

だが。

確かに何かが、刻まれた。

 

――数日後。

ベルガルド市。

遠くからでも分かる。

大きい。

整っている。

だが。

 

「……なんか、嫌な感じだな」

 

「うん」

 

街に入る。

視線。

刺さる。

値踏みするような目。

武器を持つ者が多い。

整っているのに。

空気だけが、歪んでいる。

 

「……行くぞ」

 

「うん」

 

寄り道はしない。

そのまま、指定された宿へ。

扉を開ける。

カラン、と音が鳴る。

中にいた女が、こちらを見る。

鋭い目。

一瞬で、空気が張る。

 

「……何?」

短い声。

 

湊は手紙を出す。

「これを」

 

女が受け取る。

見る。

湊たちを見る。

無言。

数秒。

 

「……中に入りな」

 

態度が変わる。

「外で突っ立ってると、すぐ売られるよ」

 

奥へ案内される。

扉が閉まる。

 

「シルビア・スタインバーグだ」

 

「……湊だ」

 

「リーネ」

 

「話は大体分かった」

手紙を軽く振る。

「ドゥルガンの“客”だ」

「好きなだけ居たらいい」

 

だが。

目は鋭いまま。

 

「……ただし」

 

一歩近づく。

「この街は甘くない」

「気抜いたら、即終わるよ」

 

「分かってる」

 

「ならいい」

 

椅子に座る。

そして。

紙を出す。

 

「これ、見な」

 

広げる。

そこには。

湊とリーネの顔。

 

「……は?」

 

「手配書だ」

 

「そこらじゅうに貼ってある」

 

空気が変わる。

 

「誰がこんな事?」

 

「さあね」

 

シルビアが肩をすくめる。

 

「ただ、確実に言えるのは」

「狙われてるってことだ」

 

沈黙。

 

「…それで…目的は?」

 

「リヴェルアに行こうと思ってる」

「その前に情報が欲しい」

「必要ならここの統治者を潰すつもりだ…」

 

「なるほどね」

 

少しだけ、考える。

 

「協力はする」

「アタシらもいずれ潰さにゃならんと思ってたんだ」

 

「シルビアも?」

 

「あぁ…アタシらは所謂レジスタンスみたいなもんさ」

「なんにせよ、まずは顔隠せ」

 

ローブを投げる。

 

「外出る時は絶対被れ」

 

「分かった」

「情報は?」

 

「西通りに賭博場がある、そこに行きな」

「口が軽いヤツが多い、一番情報が集まるよ」

「ただし――」

 

目が細くなる。

「気を抜くな」

 

――翌日。

ローブを纏う。

フードを深く被る。

ベルガルドの街へ出る。

奴隷が、働かされている。

殴られる。

引きずられる。

 

「……」

 

『殺すか?』

羅豪。

 

(やめろ)

 

『気持ちは分かる』

宗十郎。

『でも今は違う』

ガイゼル。

『目立てば終わり』

シア。

『……はい』

セレス。

 

(……分かってる)

 

進む。

賭博場。

中は、熱気に満ちていた。

笑い声。

怒号。

金。

酒。

 

そして――

人。

奴隷が、賭けられている。

 

「……えげつねぇな」

 

「うん」

 

様々なギャンブルゲームが揃ってる。

席に着く。

ポーカー。

唯一分かるゲームだった。

手を動かしながら。

耳を使う。

 

「最近どうだ?」

 

「統治者が変わってから、やりやすくなったな」

 

「フォクシーだろ?」

 

「ああ」

 

「前より締め付け緩いしな」

 

「その分、裏が活発だ」

 

「奴隷もよく回る」

 

「賭場も儲かる」

 

笑い声。

情報は十分。

 

「……行くか」

 

立ち上がる。

その時。

 

ドン――

軽く、ぶつかる。

 

「……あ」

 

リーネがよろける。

フードが、外れる。

 

「すまないね」

 

男が言う。

細い目。

キツネのような顔。

 

「……」

 

一瞬。

目が合う。

何か。

引っかかる。

 

「……気をつけて」

 

男は、笑って去る。

 

「大丈夫か?」

 

「うん……」

 

フードを被る。

だが。

遅い。

 

「おい」

 

声。

振り返る。

奴隷商。

 

「その顔――」

 

紙を取り出す。

見比べる。

 

「……見つけたぞ!」

 

「――ッ!」

 

走る。

人をかき分ける。

出口へ。

外へ。

 

「追え!!」

 

声が響く。

路地へ。

曲がる。

また曲がる。

だが。

 

「……おかしい」

 

人がいない。

さっきまでいたはずの場所に。

誰もいない。

 

「こっちだ!」

 

進む。

また路地。

また曲がる。

同じような景色。

音が、消える。

 

「……誘導されてる」

リーネが言う。

 

「分かってる!」

 

止まれない。

走る。

そして。

開ける。

目の前。

崩れた建物。

 

「……ここは」

 

廃教会。

風が吹く。

静かすぎる。

足音だけが響く。

 

「……」

 

一歩、入る。

その瞬間。

 

「――来たね」

 

声。

奥。

影。

あの男。

キツネ目。

その背後に、数人。

 

「待ってたよ」

 

細い目が、笑う。

 

「逃げ方、上手だったね」

 

「……てめぇ、誰だ!」

 

「自己紹介、まだだったね」

 

一歩、前に出る。

 

「僕はフォクシー」

 

微笑む。

 

「この大陸の、今の“統治者”だよ」

 

空気が、凍る。

 

「さあ」

 

フォクシーが槍を持つ。

柄に付いた鎖が、揺れる。

 

「どこまで壊れるか」

「見せてよ…器ぁっ!!」

 

戦闘が、始まる。

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