ひとつの器で六魂共鳴 - 最下層から始まる六人格侵略譚 - 作:z567ug
薄く、目を開ける。
「……いてぇ」
最初に来たのは痛みだった。
全身が軋む。
特に脇腹。
まだ鈍く熱を持っている。
「起きたかい」
聞き覚えのある声。
横を見る。
「……シルビア」
「3日寝てたよ」
「マジかよ」
ベッド脇で腕を組んでいたシルビアが鼻を鳴らす。
「嬢ちゃんが泣きそうな顔であんた背負って帰ってきた時は驚いたよ」
「……リーネは?」
「下だ。無事」
「今は飯食ってるよ」
安堵。
息を吐く。
「……そうか」
扉が勢いよく開く。
「みなと!」
リーネが飛び込んできた。
「お、おい痛っ……!」
「よかった……!」
「傷口傷口!」
シルビアが呆れた顔でため息を吐く。
「元気そうで何よりだね」
しばらくして。
宿屋奥の談話室。
湊は廃教会での一件を説明した。
「……なるほどね」
シルビアが眉をひそめる。
「フォクシー本人と接触したってわけか」
「間違いなく強かった」
「しかもまだ余裕ありそうだった」
「だろうね」
「簡単に倒せる相手なら、とっくにやってる」
重い沈黙。
その後。
シルビアが立ち上がる。
「……ちょい待ってな」
奥へ消える。
数分後。
戻ってきたシルビアの手には装備があった。
「ほら」
湊へ投げる。
胸当て。
グローブ。
投擲用の小型刃。
「応急的なもんだけどね」
「助かる、ありがとう」
そして。
もう一つ。
細長い武器をリーネへ差し出す。
「……これ」
「ボウガンだ」
リーネの目が丸くなる。
「五発装填式」
「マガジン交換式」
「女でも扱えるように軽量化してある」
「……すごい」
「ただ、これからは後ろで見てるだけじゃ済まなくなるよ?」
リーネが、真剣な顔で受け取る。
「……うん」
その後。
話題は自然とレジスタンスへ移った。
「……アンタらには話しとくべきだね」
シルビアが口を開く。
「アタシらはリヴェルアの特権階級を潰すために動いてる」
「……やっぱりか」
「一応アタシがレジスタンスのリーダーだ」
「戦力は?」
「20人」
「少なっ」
「質で勝負さ」
だが。
ガイゼルが沈黙しない。
『……愚策だ』
「ん?」
シルビアが目を細める。
その瞬間。
意識が切り替わる。
「――失礼する」
ガイゼル。
空気が変わる。
「その戦力差で正面反乱など自殺行為だ」
「補給線、兵站、陽動、内通、退路」
「何一つ足りていない」
シルビアが固まる。
「……あんた」
「どうやって今まで生きていた?」
「えっ、気合い?」
「論外だ」
「はぁ!?」
リーネが吹き出す。
「でもほんとにそんな感じ」
「嬢ちゃん!?」
ガイゼルはため息を吐く。
「勝つ気があるなら、作戦を練り直せ」
沈黙。
そして。
シルビアが机に両手をつく。
「……頼む」
頭を下げた。
「協力してくれ」
脳内会議。
『目的は一致している』
ガイゼル。
『悪くないんじゃない?』
シア。
『強ぇ奴と戦えんな』
羅豪。
『賛成です』
セレス。
『異論なし』
宗十郎。
(……決まりだな)
湊に戻る。
「わかった、引き受ける」
シルビアが顔を上げる。
「ありがとう、助かるよ」
その後。
宿屋裏。
馬小屋の奥。
床板を外す。
「……秘密基地かよ」
「似たようなもんさ」
地下へ。
梯子。
下水道。
暗い通路。
進む。
抜ける。
そして――
「……広っ」
巨大空間。
体育館ほどの広さ。
簡易拠点。
武器。
机。
人。
「ここがアジトだ」
その中央に。
一人の男がいた。
眼鏡。
細身。
理知的な顔。
「……その方が?」
「ああ、例の子達だよ」
シルビア。
男が一礼する。
「レオハルトです」
「副官を務めています」
「……湊です」
短い挨拶。
その後。
状況説明。
レオハルトが話す。
戦力。
物資。
地形。
敵情。
ガイゼルが即座に理解する。
(……こいつ、頭回るな)
『ああ』
ガイゼル。
「作戦立案はこの男と行う」
ガイゼル。
「えっ?」
シルビア。
「アタシは?」
「脳筋は不要だ」
「なっ!」
「適材適所だ」
「ぐっ……!」
その時。
「……シルビアさん」
リーネが服の裾を掴む。
「……私に、戦い方教えて」
沈黙。
シルビアが目を瞬く。
「……アタシが?」
「うん」
「……」
少しだけ笑う。
「……仕方ないね」
宿へ戻る。
その日から。
リーネの特訓が始まった。
「肘固定!」
「狙う時に肩上げるな!」
「は、はい!」
ボウガン。
射撃。
装填。
再装填。
繰り返す。
何度も。
何度も。
夜になっても。
「……まだやるのかい?」
「もっと強くなりたい」
指が裂ける。
血が滲む。
それでも引く。
「……ったく」
シルビアが近づく。
「今日は終わりだよ!」
「でも――」
「寝て覚えるのも訓練だ!」
リーネが止まる。
「頭で整理しろ」
「じゃなきゃ身につかないよ!」
「……うん」
三日後。
だいぶ形になる。
「筋はいいね」
「ほんと?」
「ああ、これなら戦えるはずさ」
リーネが少し笑う。
その後。
真剣な顔になる。
「……でも」
「未来視と合わせてもっとできる事あると思う」
シルビアが少し考える。
「……いるね」
「え?」
「ちょうどいい奴が」
笑う。
「明日、会いに行くよ!」
風が吹く。
ベルガルド。
水面下で。
着実に。
戦いの準備は進んでいた。